2014.9.20 - 体育祭③
「プログラム三番、ラジオ体操!」
「体操の隊形に開け!」
体育委員長が声が枯れそうなほどの大声で叫んだ。生徒たちは全身から気だるい空気を放ちながら、無理やり気持ちを奮い立たせて広がっていく。遥か前方の賀喜を見ると、意外と機敏な動きで走っていた。
あまり話したことのない人たちに囲まれ、一斉に同じ演目を一糸乱れずに繰り広げている光景は、側から見ると滑稽に思われるかもしれない。賀喜が体育の授業で指摘してくるまでは気付かなかったが、こうやって後ろから俯瞰してみると、確かにそう思う。
腕に、足に、肘に、膝に、柔軟に。すべての筋肉を隈なく使えるのがラジオ体操の良さだと教師から教わっているが、朝からしっかりと全身を動かすのは結構きついものである。実際、一部の筋肉が翌日には筋肉痛となってしまっていた。
生徒一同が粛々とラジオ体操を終わらせた後、また何事もなかったかのように元の席に戻る。これも、ある意味では滑稽に感じられるかもしれない。
席に戻ると、クラスメイトがグループに分かれ始めた。本当はいけないのだが、赤川先生はこれを許してくれる。僕は筒井と遠藤を呼び寄せ、ついでに賀喜を起こしてみることにした。
「おーい、賀喜っ!」「賀喜くん、起きてよ!」
僕と遠藤は普通に起こそうと頑張ったが、どうやら筒井は若干気持ちが違っていたらしい。
「おかき!」
この筒井の一声に、賀喜はこれまで見たことのないほどの速さで怒ってしまった。
「ねえっ! ……その呼び方が一番嫌なんだけどさあ!」
賀喜の大声に、クラスメイトがこちらを向く。去年クラスメイトだった松本と伊藤からも、なんとなく視線を感じた。
「まあ、ね。みんな見てるんだしさ」
僕は慌てて賀喜を宥める。賀喜は機嫌の悪い子猫のようだった。目からは明らかに怒りを帯びたまま、真剣な眼差しでこちらを見つめている。
「だって、筒井がひどいこと言うんだよ。おかきって……」
「僕だって怒るけど、そんなに豹変するかい?」
僕だって、賀喜の気持ちは完璧にはわからない。確かに、“おやまもと”って言われたら、ちょっとムカつくかもしれないが。
「いいよ。ダンスは腕振り回してるだけにするからさ」
賀喜の一声に、クラスのムードメーカー的存在だった山下と久保がやってくる。
「ぶつかりまくるじゃん?」「そうだよ、ちょっとは真面目にやってよ」
久保は目を真っ赤にして泣き出してしまった。山下が久保をわざとらしい顰めっ面でなだめている。
「賀喜くんってさ、頭良くてさ、結構カッコいいのにさ、いつも怠けるから」
「だから、嫌われるんだよ」
正直、僕は「ちぇっ、山下のやつは調子に乗りやがって」と感じた。でも、特に女子からの冷たい視線に賀喜がどう対応するのかも見てみたかった。だから、賀喜を放置した。
後ほど賀喜にみっちりと叱られたが、彼を放置したことに関しては一切の後悔はない。
青春色リップシンク 〜 いつか、また君に恋をする。 坂岡ユウ @yuu_psychedelic
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