2014.9.20 - 体育祭②

 今日は、普段はあまりテンションの上がらない担任も浮ついている。昨日までは、正直あまりピンと来ていなかったが、やはり体育祭は特別なものらしい。賀喜は相変わらず眠そうだが、さっきよりはマシだ。少なくとも、机に突っ伏してはいない。

 「おい、起きろよ」

 僕らは担任の話を軽く流しながら、賀喜を起こした。筒井も、遠藤も、賀喜のことはよく知っている。

 そんな時、僕らに担任の視線が移った。

 「体育祭だからって、寝てはいけませんよ?」

 今年初めて学級に着いた、担任の赤川が上目遣いでこちらを見ている。この人、自分があざといのを理解しているよな。きっと。

 賀喜はそれでも眠そうだが、いきなりのことに驚いているのは確かだった。

 「それじゃ、今日は楽しみましょう。くれぐれも、怪我や熱中症には気をつけて」

 赤川先生の良いところは、勉強に対してうるさくないところだ。「教師なのにそれでいいのかよ!」とは思いつつも、課題にうるさくなく、テストも難しくないので、生徒としてはありがたい。女子生徒にも嫌われておらず、クラス全体の人気者的ポジションに落ち着いた。

 短めの朝礼が終わると、僕たちは椅子を持って外に出る。

 もう去年もやったので知ってはいたが、やっぱり椅子の下にガムテープを巻きつけ、全校生徒が粛々と外へ出て行く様は滑稽だ。「めんどくせえ……」とか、「あの子、かっこよくない?」とか、男子的にはあまり面白くない話が続く。女子がきゃっきゃしてるのはよくある光景だが、往々にして、男子がこのような話をするのは照れてしまうものだ。

 「椅子、重すぎ……」

 絶対にそんなことはないはずだが、賀喜が椅子の重たさに悶絶している。靴箱は東京で見慣れていたはずの満員電車よりも過密状態だ。

 「おい、賀喜。いくら前へ進まないからといって、寝るんじゃないよ」と筒井が咎める。

 「わかってるって」「と言いながら、もう目が寝てるんだけど……」

 普段はあまりグイグイ来ないはずの遠藤が、今日は若干前のめりだ。目つきがほんの少しだけ輝いて見える。

 いくら過密状態とはいえ、最後尾の僕たちでも十分も待てば外へ出られるもの。とはいえ、今日は上級生がいきなりムードメーカーを胴上げし始めたり、まるでフラッシュモブのように踊り始めたり、やたらと動きが遅い。

 「まだかよ」「おい、お前ら。踊ってる場合じゃないんだよ!」と先生からも怒りの声が上がり始めた。結局、僕たちが運動場へ出られたのはタイムテーブルで『ラジオ体操』が始まるか始まらないかといった時間帯に僕らは着席した。あまりにも遅れすぎて、突っ立ているだけの状態になりがちな『校長先生のお話』や『諸注意』が形式だけで省かれることになった。こうして、僕たちは最初の“演目”である『ラジオ体操』のために起立した。

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