私たちの選んだ道
暗闇の中、私は目を覚ました。
ゆっくりと身体を起こそうとする——。
——部屋のベッドで眠っていたとばかり思い込んでいたが、眼前に広がる景色は外だった。
雨の降る中、私は知らない住宅街をひとり歩いていた。
幾つか立ち並ぶ家の内のひとつ。そこから何人かの少年たちが出てくると、私の目の前で賑やかな声をあげながら遊び始めた。
雨の降る中、彼らは遊び続ける。
ふとその中に知った顔を見つける。それは小学校の頃よく遊んでいた友人のひとりだった。私と彼と他の友人はいつも一緒に遊んでいた。学校でも、放課後も……
特別二人きりで遊ぶほど仲が良いわけではなかったが、いつも一緒に遊んでいた。
中学校に上がった頃、ある友人と近所の本屋で再会した。友人は彼のことを話し始めた。彼はクラスメイトのひとりに虐められていたと。
私は彼とは違うクラスとなり、小学校を卒業して以来会ってはいなかったのだ。
その友人は彼のことを守っていたそうだが、虐めてくる相手はしつこく彼にちょっかいを出し続けていたという。それでも彼は、学校を休むことはなかったという。
そんな彼のことを話す友人は、悲しそうでもあり、少し誇らしげにもみえた。
今、彼は何処でどうしているのだろうか。
私にはあのとき、彼のために何も出来ることはなかったのだろうか。
私の中の彼は、いつまでも小学生のままだ。しかし、今の彼はきっと違っているだろう……。きっと結婚して、妻がいて、子どもがいて……。
それとも……。
無限にある選択肢の内、ひとつだけを選んで私たちは今この人生を歩んでいる。
私たちに選ばれなかった人生の選択肢たちは、今何処でどう存在しているのだろうか。
果たして私たちは正しい選択肢を選んできたのだろうか。
私は、選ばれなかった人生を想像するとき、何故か「彼」のことを思い出してしまう。
これからの未来を想像するときも、また、「彼」のことを思い出してしまうのだろうか。
「彼」という存在は、ただの「象徴」であって、それ以上に意味があるわけではないのかもしれない。
ただ、それでも私は、「彼」をときどき思い出してしまうのだ。
雨の中立ち尽くす私を置いて、子どもたちはいつの間にかすっかり視界から消えてしまっていた。
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