再会
久しぶりに古い友人と会うことにした。場所は郊外の有名なチェーン店。
約束の時間より少し早めに到着した私は、多くの人で賑わう店内に少し戸惑った。長い間、部屋に籠っていたため、久しぶりの外出だったのだ。
カウンターで一番安いアメリカーナを注文して受け取ると、私は友人の待つ2Fへと向かった。
「久しぶり! 元気にしてた? あっ髪型変えた?」
窓際に座ってスマートフォンをいじっていた友人は、私が近づくと顔をあげて変わらぬ笑顔を見せた。
――私たちは時間を忘れて、昔話に花を咲かせた。
「――それで、その人はまた怒って注意して喧嘩になってさ、結局その仕事も辞めちゃったんだよね……」
友人は熱っぽく彼の知人の話を続けていた。その人物は、職場で必ず誰かと揉め事を繰り返しては次々と仕事を変えている、そんな人物のようだった。
また、その人物は、相談する友人や恋人もいない孤独な人物で、ひとり苛立ちを抱えて生きているのだった。
——今の日本には、この人物のように「怒り」や「不安」をひとりで抱えて生きている人は多くいるのではないだろうか。
少子化と高齢化問題によって若者は益々期待を掛けられるだろう。そんな中、「イジメ」や「引きこもり」、そして「自殺」。
人生の先輩となれば、もし人生の後輩がそれらの問題で困っていれば手を貸すことは当然であるといえるだろう。
「どうやらその人物は、自分の正義を良かれと思って他人に押し付けてしまう癖があるようだね……。それで、君はその人物に手を貸すのかい?」
私は思い切って友人に聞いてみた。
「いや、何もしないよ。何で?」
友人は驚きの表情を浮かべた。
「何でって、友達なんだろ?」
「いや、友達っていうか、ただの知り合いだよ」
「でも、彼がそんなに職を転々としていることを君が知っているということは、彼とは頻繁に会っているってことだろ? 会っているんなら、何らかの形で介入を試みるんじゃないのかい? それともただの傍観者気取りかい?」
気が付くと、私は少し前のめりになる姿勢で話をしていた。
「いや、会ってはないけど、メールが来るんだよ。ってかなんだよ? 介入はしないし、傍観者も気取ってなんかないぜ」
友人は、律儀にも私の問いに対して一つ一つ丁寧に否定して返す。そんな彼の言葉には僅かながら苛立ちが込められていた。
「いや、君の話からすると、その人物には親しい友人も恋人もいないわけだし、助けられるのは君しかいないようじゃないか。君は目の前で助けを求めている人間を見捨てるのかい? 人を助ける行為は正しい行為じゃないのかな?」
そう言ったあと、私は急いで口を手で押さえた。しかし、既に遅かったようだ。
「はぁ? 言っている意味がよくわかんねぇな。何だよ、『見捨てる』とか『正しい行為』とか。何でオレが責められなきゃいけないんだよ! だいたいなんだよ? 突然呼び出しておいてよぉ? 俺ら別にそんなに仲が良かったわけでもねぇだろーに……」
友人は勢いよく立ち上がると、私を睨みつけながら言い放った。
私は咄嗟に眼を逸らした。
「ちっ、うぜーな」
友人は吐き捨てるようにそう言うと、そのまま店を出て行った。一度もこちらを振り返ることもなく。
————今の日本には、私や彼のように「怒り」や「不安」をひとりで抱えて生きている人は多くいるのではないだろうか。
少子化と高齢化問題によって若者は益々期待を掛けられるだろう。そんな中、「イジメ」や「引きこもり」……。
私はそこで思考を止めた。そして、冷めたアメリカーナを飲み干してカップを握りつぶすと、ひとり自宅の部屋へと向かった。
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