『新生バルバトス王国』

 日曜日の朝。のぞみと思う存分いちゃいちゃして色々とスッキリした俺は、隣の部屋にいるリースとリモーナの様子を見に行った。


「お、おはようございます、ソラ様!」


「おはよう、リース。リモーナの教育の様子は――」


「じゅ、順調です!」


 部屋に充満する血と汚物の臭い。ボコボコに殴られたりした形跡が見られる、崩壊した顔面からジュクジュクになった目玉が零れ落ち、切り裂かれた腹からはズタズタになっている腸もはみ出てしまっている。

 この部屋に居たのがリースとリモーナの二人だけだったと知らなければ、誰のとも判別がつかないようなぐちゃぐちゃの肉塊になってしまったリモーナを見る。


「まぁ、うん。言われた通り頑張ってるみたいだね」


「はい!」


 ……汚いなぁ。臭いし。まあリースは満面の笑みだし、良いけど。別に俺はリモーナがどうなっても構わないし。いや、でも悪臭と汚れはやっぱ気になるかも。

 う~ん。次から教育する時はあの地下室を使って貰うか? 最近資金が潤沢に手に入って来てるし、お金にものを言わせて新しい住まいを無理やり探すか?


「とりあえず、リモーナは治した方が良いよね?」


「そ、その……。はい」


 俺が聞くとリースが少し申し訳なさそうに頷いた。


「のぞみ~、来て!」


 俺が呼ぶと、キッチンの方からドタドタと慌ただしい音を立ててのぞみが来る。のぞみは制服の上からエプロンを着けている。料理の最中だったようだ。

 犬のように嬉しそうに俺の元まで駆け寄ってきたのぞみは、部屋の奥にある汚物の塊を見て露骨に顔を顰めた。


「も、もしかして、アレを治せってことかしら?」


「……うん。まぁでも俺的には絶対に治して欲しいわけでもないけど」


「ノゾミ様に負担をかけるようでしたら、無理にとは言いません」

 

 コヒュゥゥゥ、コォォォォ。

 呻き声のような、隙間風のような音が汚物から響く。リモーナに関しては父であるバルバトス国王からも殺して良いってお墨付きを貰ってるし、殺しても地球上には存在しない人物だから多分違法でもない。


 でも……


「これ治して悶絶するのぞみはちょっと見たいかも」


「そ、ソラ」


 俺の言葉にのぞみは頬を赤くして、脚を内股にしながらもじもじとした。

 俺は最近、可愛いのぞみが好きだが、やはりその中でも痛みや苦痛に悶えているのぞみが一番可愛いと思っている。


「……い、一回抱きしめて貰えないかしら?」


 俺はのぞみを抱きしめる。のぞみの身体が小さくビクンと震える。俺はのぞみの頭を撫でた。そんな時間が1分ほど続く。のぞみは、俺の抱擁から抜けて汚物の塊となってしまったリモーナの元へ歩いて行く。


 それから辛うじて形が残っているリモーナの頭に手を振れ――


「『ヒール』……うっ、あがぁっ、あ゛っ! あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」


 肉塊となってしまったリモーナに緑色の柔らかい光が差したと思うと同時に、のぞみの身体がガタガタガタガタッと震え始めた。

 蛇毒を垂らされ続けているみたいな悲鳴を響かせる。


 のぞみは俺の方を向いて、四つん這いになりながらたどたどしく歩み寄ってくる。


「見でぇっ、ソラぁっ。見てッ、ぅわぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


 それなりに可愛い顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして、噴き出る汗とか零れ落ちる尿とかで床をびしゃびしゃにしながらのぞみが近づいてくる。

 俺はのぞみの前にしゃがみ込み、その頭にポンと手を乗せた。

 のぞみが俺の膝に顔を埋めこんで来る。


「ソラっ! ゾラぁっ!」


「よしよし、よく頑張った」


 顔をぐしゃぐしゃにして、こうまでなりながら――これだけ苦しい思いをすると解っていてもあの肉塊になりかけていたリモーナをヒールし、そして俺に縋ってくるのぞみが可愛くて、愛おしくて仕方がなかった。


 リースはジュクジュクと気持ちの悪い音を立てながらその形を取り戻していくリモーナと、顔をぐしゃぐしゃにしながら俺に縋りついてくるのぞみを交互に見ていた。

 手に持っている針をギュッと握り締める。


 俺はそんなリースをちらりと確認してから、のぞみと俺の部屋に転移する。


 ――今日は日曜日で学校もないし、バルバドス王国の様子を見に行くか。




                   ◇



「リース、リモーナ。王国に行くぞ」


 のぞみを小一時間ほど膝枕して、復活したのぞみが作った朝食を食べ終えた俺は、何か思案している様子のリースと虚ろな目をしているリモーナに声を掛けた。


「はい!」


「…………」


 リモーナは一度肉塊になったことが相当堪えたのか何も答えなくなってしまっている。俺はそんな二人に触れ、バルバトス王国に転移した。

 転移するのは王城、王の間。数日前まではリモーナが座っていた王座には誰も座っておらず、王の間には何となく立っている騎士や、掃除しているメイドがちらほら見受けられる。


 彼らは唐突に転移してきた俺を見るや否や全員が五体投地で平伏してきた。


「こ、国王様!」

「国王様が来てくださったぞ!」


 ……そう言えば昨日、リースたっての希望で俺がこのバルバドス王国の国王になったんだっけか。正直のぞみと佐藤たちの一件の方がインパクトが強くてちょっと忘れていた。


「……そう言えば、リースに手を出した騎士たちって処刑したんだっけ?」


 ガチャンッ! 騎士たちの鎧が音を立てる。リモーナは相変わらず虚ろな目をしていた。……虚ろな目をしているリモーナの前で、リモーナに忠誠を誓っていた騎士を殺しても何の意味もないだろう。


「って言うかリース、リモーナずっとだんまりなんだけど」


「すみません、ソラ様。ほら、動きなさい!」


 そう言ってリースはチクリとリモーナに針を突き刺した。リモーナはびくりと肩を跳ねさせてから、バランスを崩し、王座の有る階段からゴロゴロと転げ落ちる。


「ひぃぃぃっ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 リースがそう教育したのだろうか? 着ていた服を全て脱ぎながら地面に何度も頭を擦り付けて弱弱しくも謝罪を繰り返すリモーナ。

 そんな哀れで惨めなリモーナの、変わり果ててしまった姿に騎士やメイドたちは何度も顔を見合わせていた。


 ……一応、新国王の御前なんだけど。


 まあいいや。俺は王座の割にイマイチ座り心地の良くない椅子に腰を落として、ひたすら謝罪を繰り返すリモーナと、平伏する騎士たちを見下ろした。

 俺は、リースを見てからポンポンと自分の太ももを叩く。リースは首をかしげる。


「座ってよ、リース」


「その、宜しいのでしょうか?」


「早くして」


「わ、解りました」


 リースは遠慮がちに俺の膝の上に座る。俺はリースの腋から手を伸ばし、欲望の赴くままにおっぱいを揉んだ。


「んっ、そ、ソラ様///」


 リースは顔を赤くしながらも、嬉しそうな顔をしている。

 俺はこのバルバドス王国の国王で、平伏している騎士たちやリモーナの生殺与奪の権を握っているみたいだけど、正直そんなのよりも今すぐ家に帰るなり良い感じのホテルに行ってリースとイチャイチャした方が有意義な休日を過ごせるような気がしてくる。


 もう転移で日本に帰ってしまおうかと考えていた時、王の間の扉が開き、小汚い一人のおっさんが入って来た。


「そ、ソラ様! こ、来られていると聞いて、このモナールド、急いで馳せ参じました」


 モナールド? 誰それ。

 全裸で土下座しているリモーナの隣に並んで平伏し始めたおっさんの事を想い出せずにいると、リモーナが小さく「お父様……」と声を漏らした。


 ああ、そうだ。バルバドスの国王か。


「何しに来たの?」


「い、いえ、その……。ソラ様の国から召喚した勇者たちの処遇を如何するのかと、指示を仰ぎに来た次第で。い、今は一応、今まで通り扱っておりますが……」


 なるほど、そうか。……そう言えば日本に帰る手段のない元クラスメートたちは現状バルバドス王国にライフラインを頼らないといけないのか。

 正直、汚くて文明も進んでないバルバドスなんていらないと思っていたけど、ここに召喚されていた元クラスメートたちのことを思い出して楽しくなってくる。


 なるほど。俺は悪くないものを得たのかもしれない。


「とりあえず会ってみたい」


「はっ、ではそのようにすぐに手はずを整えます。よ、宜しいでしょうか?」


「早くしろ」


 俺がそう言うと、元国王は頭を下げてから慌ただしく王の間を出て行った。

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クラス転移で俺だけ自由に帰れる件~俺みたいなグズは要らないそうなので一人で帰りますね?~ 破滅 @rito0112

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