第4話

屋敷の中を歩いているときから大きな屋敷だとは感じていたが、食堂を見てヒイラギは驚いた。大きな空間にテーブルとたくさんの椅子が並べられている。天井も高く、食堂に向かうと聞いていなければ教会のようにも感じられる空間だった。ただ教会は長椅子が整列して置かれているのが普通だが、ここでは長いテーブルの周りに大小様々の椅子が並べられていた。ほんの小さい子供が食事をするための足の長い椅子も多く見受けられる。窓の外を見るとたくさんの子供達がみえるがこの屋敷は幼年の子どもたちの宿舎なのか?

ヒイラギをが疑問を感じているとメイドが

「こちらにいらして。通常の食事の時間は大広間で摂るのが通例だけれど、奥様とあなたの分として簡単なものを用意してもらうだけだから厨房の方でお食事にいたしましょう。」

と優しく声をかけてくれた。大広間の隅に厨房につながっているのだろう、扉があった。メイドの導きでその扉をくぐると昼食の時間に近いからだろう調理人と思われる中年の女性数人が忙しそうに立ち回って作業をしていた。


「ソフィアさん」

メイドが中年女性たちのなかのひとりに声をかけると、その人物は振り向いた。


女性にしては大柄な筋張った人だった。振り向いたときは気難しげな顔をしていたが、メイドから声をかけられていたことに気づくと温和な優しげな顔になった。


「あら、ジーナ!後ろの子は昨日来た子だね?目が覚めて自分で歩けるならまず安心だね!おや、ひもじそうな顔をしてるね、朝のあまりになっちまうけど勘弁してくださいね…。いまはほらおチビさんたちの昼ごはんづくりで忙しいもんだから…。温め直すから奥のテーブルに適当に座ってておくんなさいな!ついでに奥様の分も用意しなきゃね!全く仕事はできる人なのにちょっと油断するとすぐ寝坊する質なんだから…。」


メイドのジーナがなにも言わなくても一人で喋って一人で納得したようでソフィアは喋りきると、またこちらに背を向けてあとはせっせと手を動かしている。


メイドはその背中に「ありがとうございます」と声をかけて目でテーブルの方を示した。

「ふふ、構えないでゆったりとしていて頂戴な。はじめて会う人達が多くってびっくりしているでしょうけどね。おチビさんたちは食堂…さっき通ってきた大きい広間のことですけどね…そちらで食事をとる決まりなのですけど、従業員たちは厨房のこのテーブルで食べるのよ。…ほらそうじゃないと、近いとは言え配膳が面倒でしょ?おチビさんたちはまだ本当に小さい子もたくさんいるから火傷や怪我の心配があるからあちらで食べさせますけどね。」


「あの…ここはどういった場所なのでしょうか?小さい子どもたちをたくさんお世話しているようですけども…。」


ヒイラギは家を飛び出してきたものの宛てもなくふらふらと街中をさまよっていたのだった。家にはヒイラギのものといえるものは何もなく、金もなかったからゴミとして捨てられたまだギリギリ食べられるようなものを見つけては空腹をしのいでいた。ただ育ち盛りのヒイラギには到底満足出来るものではなく、そのうち服は汚れ、路上で生活するうちにすっかり元気を失ってしまっていた。


冬よりマシとは言え、春は朝晩が冷える。それに昨夜雨が降ったことでとうとう発熱し、意識を失ってしまったのだった。意識が遠ざかるとき、死を感じたはずだが、どうしたわけか保護され、そして食事を提供してもらおうとしている。一体どういうことなのか、ここはどこなのかヒイラギが疑問に思うのは当然のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春、きたる @tarao3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る