第26話 涙の決戦(後編)

「おいおい!地形が変わってるぞ!地面に大きな穴が……闇巨神どころか、女王ベルセまで跡形もない!」


ルビは、初めて見る光景に恐怖を覚え、身震いした。


「よかった……本当によかったわ。」

桜花は、女王ベルセの消滅にホッとしていた。


(な、なんて威力だ!これはもう人間が使用して良い代物ではない……)


フレイヤ女王は、レベルMAX火力魔法特化勇者の恐ろしさを知った。

正確には、ルビの『能力3倍強化』が加わった威力にだ。


だが、大穴の底に異変が……。


ドバァァッ!


大穴の底から砂を巻き上げ、ベルセが姿を現した。


「はぁ……はぁ……い、一度ならず二度までも闇巨神を破壊するなどぉぉぉ!こんな事が人間にできるはずがない!許せん!またお前か!お前がぁぁぁぁ!このクソ魔王がぁぁぁぁぁ!」


ベルセは、今にもかみ殺すかの勢いでルビを睨みつけてくる。


「どうして俺ぇぇ!?『能力3倍強化』はやったけど、ぶっ飛ばしたのはアーネだろ?」

その時、桜花は爆風で吹き飛ばされ、ルビから遠く離れており、ルビの周りには他に誰もいなかった。


「まだ生きてたぁ!?なんてしぶとい!それにしてもルビが魔王って……何を言ってるの?ついに頭がおかしくなったの?」

ベルセのおかしな発言にアーネ達が戸惑っていると……。


ルビの鞄から急に姿を見せたタマがベルセと話す。

「はははっ!ルビが魔王とな?それでは、わしは大魔王だの~」


「タマぁ!?」

ルビとアーネの声が重なった。


「!?……はぁ……はぁ……フ、フハハハッ!これは滑稽な!お前ともあろうものがなぁ!フハハハハハハッ!」

(そうか……そういうことか。)


ベルセが大笑いをしていたが、いきなり狂気の顔に戻り、タマへ魔法攻撃を加えた。


「滅びよっ!」

タマを狙ったベルセの闇魔法は、確実にルビをも巻き込むほどの大きさであった。


ドガァッ!

ルビとタマに命中したと思われた闇魔法だったが、咄嗟に飛び込んだアーネに直撃したのだった。


「……ルビぃ…………無事で…………よかっ……た……」

ルビは、あまりの事態に我を忘れて叫び、アーネを抱きしめるっ!


「アーネェェェ!アーネッ!アーネぇーー!」

アーネの背中部分のローブは破れ、黒焦げの背中の熱が闇魔法の威力を物語っていた。


「フハハハハハハッ!バカな勇者め!はぁ、はぁ……次は……外さない!今度こそぉ滅びよっ!」


バキンッ!

今度は、フェリックスが割り込み盾で弾く。


「大丈夫か?俺としたことが守れなくてすまん!だが、俺の体力もMPも限界だ!」

フェリックスの悲痛に叫んだ。


「くそぉぉぉ!」

(口惜しいが、もはやこれまでか!これ以上は帰還魔法のMPさえ無くなってしまう!一時退却だ!)


ベルセは、悔しそうに歯ぎしりをしたが、次の瞬間には帰還魔法でどこかへ飛んで行った。

すると今までわらわらといた召喚精霊は消え、隠れていたダークエルフもベルセを追うように帰還魔法で飛んで消えた。


フレイヤ女王は、「た、助かった……」と呟くと目の前の城壁にもたれ掛かり崩れ落ちた。

「フレイヤ女王様ぁぁ!神官!神官っ!早く回復魔法を!」


その少し先では、ルビがアーネの口に無理やり回復ポーションを飲ませながら叫んでいた。

「アーネェェ!嘘だろ?目を開けろよぉ!」


(……誰かが……私を呼んでいる?誰?誰なの?)

アーネは、体の感覚が次第に無くなっていくのを感じていた。


(……これが死?私は死ぬの?……呼んでいるのは誰?この声は……)

アーネは、深い闇に引き込まれていく感覚に襲われ、意識が遠のいていく……。



◇◇◇



「アーネ……ごめんなさい!大魔王を封印するためには、仕方なかったの……」


夜の雨の中で血まみれの誰かがアーネに謝罪をしていた。


「謝らないで下さい!マリアンヌ様が悪くないのは、頭では分かってるのぉ!でも……でもぉぉ!私は……私は、どうしても娘として納得できなかった!だからマリアンヌ様を殺して私も死ぬわ!」


アーネは、顔をクシャクシャにして叫んだ。


「アーネ、そんな悲しい事を言わないで!私はどうなってもいいからルビを……ルビを守って欲しい……」


「そ、そんな……そんな勝手なことが許されると思ってるのぉぉ!?母さんを見殺しにしておいてぇぇ!私だってお母さんを守りたかった!いつまでも一緒にいたかったよぉぉぉぉ!」


アーネの泥まみれの顔は、雨なのか涙なのか分からないくらいグチャグチャに濡れていた。


「……心の優しいあなたなら……大事な人を亡くした……その苦しみを知るあなたなら……素晴らしい勇者になれるわ……だから……あなた自身を愛して生き……て……」


「そんな……あ、ああ……マ、マリアンヌ……さ……まぁ……」



◇◇◇



「マリアンヌ様ぁぁぁ!」

アーネは、泣き叫びながら跳ね起きた!


「ア、アーネッ!」

「マリ……アンヌ……さま?」

マリアンヌの顔がぼやけていき、ルビの顔と重なっていく……。


「ル……ビ……」

そこには顔をクシャクシャにしたルビがいた。


「こ、ここは?」

アーネの問いにシーラが答える。


「ここは城の看護部屋よ。無茶ばっかりして!もう少しで危なかったのよ。まったく……お、おばさんより先に逝くなんて絶対に許さないから!」

「シーラ……」


「アーネぇ~本当によかったよ~」

桜花が泣きながらアーネに抱きついて来た。


「私……どうして助かったの?」


「まあの~わしがいなければどうなっておったか分からんのじゃぞ~」


「うんうん!シーラと桜花ちゃん、そして、タマのお陰だ。」


ルビは、アーネに事の経緯を説明する。

その話によるとシーラがアーネに回復魔法をかけ続け、シーラのMP切れを桜花が補ったという。


そのMP補充には、タマが桜花に裏技を使用したらしいのだが、詳しくは説明されなかった。

どうやら二人だけの秘密らしく謎が残った。


フレイヤ女王は、ルビ達を見つめながら今後どうすべきかを考えるのだった。


(どうにか女王ベルセを追い払ったが、これはこれで次の問題が出てきたな。あの力は、あまりにも危険すぎる。しかし、まあ今は国の無事を祝うとするか。)


「皆の者、ご苦労であった。今宵は勝利の祝杯をするぞ!」


「おおおぉぉぉ!フレイヤ女王様、万歳っ!」

フレイヤ女王の言葉に兵士達は、歓喜の声を上げた。


これが第一次ダークエルフ戦争の終結であった。



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レベルMAX勇者召喚師と魔王の交わる世界 綾乃蒼人 @ayano2022

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