口元の黄色
りばーしゃ
甘く、恐ろしい
「むご──ッ!?」
「ちょっと…静かにしましょうか」
口元を覆う掌と共に、鋭い音が彼の顔から鳴り響いた。
突然過ぎて分からないが、自身の呼吸器を丸ごと覆うようなじわりと染みてくる痛みに黙らせられたのだと彼は理解した。
とびっきりの優しい笑顔の奥、柔らかなカーブを描くその目元の内側の瞳は鋭く、骨を軋ませるようなその右手の力から感じるモノは…怒気。
こんなにも…こんなにもこの男の高い身長が恐ろしいと感じる恐怖感と、笑顔に反した鋭い眼に何故こうなっているのかが分からない潤んだ瞳で彼は震える言葉を弱々しく吐き出した。
「…ふぁい……」
「よろしい」
ぱっ、と離された彼のその口元はまだひりひりと痛む中、向こうからあっけらかんとした声が飛び込んで来た。
「あー、またシュークリーム勝手に食ったの言い訳して怒られてるー!」
「…うるせー」
「あっ、泣いてる?おっ?泣いてんの?おっ?おっ?──ぷげッ」
「──ッせぇ!」
涙ぐんだ彼にまとわりつくようにニマニマとした嬉しそうな同じくらいの歳の男性の顔に拳が飛び、やんややんやといつもの喧嘩が始まる中で長身の男はため息を吐いた。
「…はぁ〜……少し、大人気が無かったですかね…?」
「痛えな!!言い訳してたのが悪ぷげっ」
「うるせぇうるせぇ!今話しかけんなぁ!!」
二人の騒がしさにやれやれと思いながら、お気に入りのコーヒーを挽く準備をする。
落ち着いた二人と共に、今しがた焼き上がった〝本番のシュークリーム〟を一緒に食べる為に。
口元の黄色 りばーしゃ @ribarsha
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