金の獅子、銀の猛虎 〜怪人シルバー、命銘編〜

じょにおじ

金の獅子、銀の猛虎 〜怪人シルバー、命銘編〜

東京都宝来区とうきょうとたからぎく千仁せんにん町。


日本でも有数の歓楽街として有名な地であり、色街としての気風も強く残す土地である。


表立ち普通の店を装った性風俗の店も多々あり、それに比例するかのように街の治安も良くはない。


栄えているオフィス街を除けば、ここに住まう者に後ろ暗い過去のない者はいないと言われることもある。


それを表す最も顕著な資料として、この街での老衰以外での年間死亡者数の多さが挙げられる。


他の市町村に比べ、この街では1.5倍ほどの人間が、その命を短く散らせていた。


自殺者数、事故死者数、病死・負傷死者数、事件死者数、行方不明者数。


それら全てが全国平均より遥かに抜きん出ているという、異常な数値を見せている。


それには明確な、一つの理由があった。


それが、「怪人」と呼ばれる人に仇なす者の存在である。


怪人とは、魔法と呼ばれる物理を越えた力を使い、人を捕食する生物の総称である。


彼らは時に人外の怪力を持ち、何もない場所から物体を呼び寄せ、炎や水を自在に操ってみせる。


人類は、その脅威に対処する術をほとんど持たなかった。


怪人に人の創造した兵器は通用せず、警察や軍隊も被害を最小限に抑えることが、現状取れる最良の手段と言えた。


それら怪人の、土地面積辺りに起こす事件数が日本で最も多いのが、この千仁町だった。


彼らは人へ擬態し、人の世へ潜み、人へ危害を加える機会を狙っている。


事件件数から推計して、宝来区の人口の約1%ほどが怪人なのではないかと唱える専門家もいた。


とかく危険で、何をしでかすか分からないのが怪人という生命体である。


そんな怪人の中の一匹が、今、千仁町の住宅密集地で、高らかにイビキをかいている。


住宅の内部ではない。


二階建ての家屋の、日の当たる屋根の上に寝そべり、頭の後ろで腕を組んで眠っているのだ。


その髪色は染め抜いたかのような光沢の白銀色をしており、それが時折風になぶられ、揺れている。


ジーパンにタンクトップ、その上からセンスのないスカジャンを羽織るという、なんとも前時代的な出で立ちの怪人であった。


彼の名は「クレイジー=シルバー」。


現在人間から、最上級の注意を払うべき怪人の一人として認知されている、危険人物である。


クレイジーの名は他の怪人から勝手に名付けられたものであり、彼自身は自分をただのシルバーと名乗っている。


かつてはとあるヤクザ組織にやむなく在籍していたシルバーだったが、今はそこから離反し、一人気ままに市内を放浪する身である。


人を襲い、そして人に敗北し、さらには人から多くを学び得た、奇妙な経歴を持つ怪人だった。


本来ならケンカっ早く、こんなところで寝ているような気性ではないのだが、彼がこうしているのにも理由があった。


彼は、数年前にこの世へ生を受けたばかりの、新参の怪人である。


その彼が力をつけてからというもの、同じ怪人ですら彼と戦おうという者は滅多にいなくなった。


怪人は大まかに、下級怪人と上級怪人とに分類される。


そして上級怪人ほど、社会の表にはなかなか出てこない傾向が強い。


ケンカ相手を探してほっつき歩いているシルバーの方が、よほど稀有な存在なのだ。


より強い相手を探してケンカに明け暮れるうち、下級怪人では彼の名を聞いただけで逃げてしまうようになってしまった。


そのため、こうして夜になるのを待ちながら、新たな闘争の相手が現れるのを待つことが多くなっていた。


千仁町が本格的に物騒になるのは、その日が完全に暮れてからだからだ。


しかし今回、この場所で眠っていたことが、彼にとって思わぬ功を奏することとなる。


「……ん?」


シルバーは、眼下の細い路地から、人の声がするのを聞いた。


「キャアァーッ!!」


それは助けを求める、女性の悲鳴だった。


千仁町では、誰かに助けを求められたからといって、安易にそれに応じる者はいない。


一見するとただのOL風な目の前の女性が、本当に被害者なのか、ましてや人間であるかさえも分からないためである。


だが、屋根から俯瞰してその様子を見ていたシルバーは、事の次第を概ね理解していた。


叫び声を上げたOLは、地面にへたり込んで、何かを取り返そうとでもするかのように、手を前へ伸ばしている。


その先には、猛烈な勢いでアクセルを吹かせ走り去る、黒い原付きバイクが見えた。


小さな車体に、フルフェイスヘルメットを被った二人の人間を乗せ、後部に乗った人間が小さなバッグを提げて揺らめかしている。


その愛らしい装飾のバッグは、二人乗りのどちらの持ち物だとしても、違和感しかないものだ。


「ほー、引ったくりか」


人間の事情や常識に疎いシルバーでも、それくらいのことは理解できた。


どうやら眼下のOLは、荷物を引ったくられて途方に暮れているようだった。


無論、怪人であるシルバーにそれを助ける義務感などない。


これをきっかけに何か起きればとも思ったが、その様子もなさそうである。


バイクの二人組は、もはや足で追っても追いつけないほど遠ざかり、OLに手出しする方法はない。


バッグだけでも戻って来れば御の字だが、只でさえ犯罪件数の多いこの街で、この程度の小犯罪は見過ごされることがほとんどだ。


被害届を出してもろくに捜査されず、放っておかれるのが関の山だろう。


「トロくせぇ姉ちゃんだな。ま、俺には関係ねぇこったがよ」


シルバーは退屈しのぎにも飽きたかのように、あぐらをかいて欠伸をした。


足元で行われた一連の出来事も、さほど興味を引く事ではなかったようである。


そして再び屋根の上へ寝そべり、惰眠を貪るつもりであった。


その予定を覆したのは、鋭敏な彼の五感が、それまで聞こえていたものと別の音を聞いたような気がしたからだ。


シルバーは寝かしかけていた体を起こし、もう一度眼下へ目線を送る。


そこに、先ほどまでは存在しなかった、何者かの小さな人影が見えた。


人間大の何かが現れたなら、シルバーの五感はすぐさま異変を察知することが出来たはずである。


しかしその人影は、シルバーに何一つ気づかれることなく、そこへ忽然と立っていたのだ。


その人影は、膝を折っていたOLに二、三言葉を掛けると、バイクの走っていった方角へと顔を上げた。


そして、何か言おうとしたOLの声も聞かずに、一目散に走り出したのである。


すでにバイクの姿は影も形も見えなくなっていたが、そんなことは問題ではなかった。


シルバーが眼を見張ったのは、その人影の走る速度である。


「おいおい、嘘だろ……!?」


思わずひとりごち、無意識に近いレベルでその後を追ってしまったほど、その人影の足は速かった。


否。速いなどという話ですらない。


それは、人間の出せる速度の限界を容易く突破していた。


逃走するバイクは、細い路地にも関わらず、シルバーの目測でも時速50キロは出していたように見えた。


その人影は、そんな速度で走るバイクの足取りを辿り、己の足で走って、そしてついには追いついてしまったのだ。


人ならぬその疾走は、まさしく韋駄天と形容するに相応しいものであった。


人通りの少ない路地を選んでいたためか、バイクの二人組は大きな市道へ出ることをせず、ほぼ真っすぐに路地を進んでいたらしい。


その後ろから不気味な影が迫っているとも知らず、彼らはスピードを緩め、意気揚々と逃走の余韻に浸っている。


人影は五メートルは離れたところからバイクへ向けて跳躍し、まずはバッグを握っていた後部の乗り手の背中へ、強烈な飛び蹴りを喰らわせる。


そしてバイクが転倒するのを見届けると、次にバイクの前方へ乗った人間へ駆け寄り、その頭部を思い切りよく蹴飛ばした。


「ぐぎゅっ……!?」


フルフェイスのヘルメットが吹き飛び、引ったくり犯の顔が顕になる。


その顎へサッカーボールの要領で再度蹴りをくれると、犯人は意識を失ってしまったようだった。


速度を落としていたとはいえ、走るバイクに乗った人間へそんなことが出来るのは、異常と表現するより他にない。


屋根伝いに追いついたシルバーは、改めて足を止めた人影を観察した。


それは、一見すると何の変哲もない、少なくともシルバーからはそうとしか見えない少女であった。


その行動以上に、見た目からして只者ではないということが察せられる。


まずこの一連の行動を、年端も行かぬ少女がやってのけたということに、驚かなければならない。


そして着ている物も、普通の基準からすればかなり奇異なものとなっている。


五分袖の麻のシャツに、下半身はもんぺという、かなり時代錯誤な衣装である。


昭和初期の田舎であれば、自然であったろうと思われるような格好だった。


尤も、シルバーには人の着るものについての知識がほとんど無いので、それが違和感のある服装だということも分かっていない。


流れるような黒髪は腰までの長さを誇り、昼下がりの太陽光を浴びて艷やかに光っていた。


そしてシルバーが何より驚いたのは、少女が裸足であったことだ。


履物すら履いていない状態で、少女はあのような無茶苦茶な走りをしていたということになる。


それでいて、足には傷一つすらついている模様はない。


そんなことが出来る人種を、シルバーは一つしか知らなかった。


少女はその凛とした黒い瞳で犯人たちを見据えると、まだ意識を保っていたバイク後部の男の襟ぐりを掴む。


そして、狼狽える男のヘルメットを取り去り、こう告げた。


「こん手提げさぁ置いてげ。して、警察まんで歩いて自首するだ。んだば命だげは取らねでやる」


一瞬何を言われたか分からない顔で、犯人は目をパチクリとさせる。


シルバーにもその声は届いていたが、それは彼の耳慣れた人間の言葉とは、かけ離れているように聞こえた。


どうやら少女には、かなりきつい訛り癖があるようだった。


少女はぽかんとした引ったくり犯に痺れを切らしたのか、強引に発破をかけた。


「ボサッとするでね!!さっさとせねが!!」


その怒声に肝を潰し、男は気絶した仲間を置いて、さっさと逃げてしまった。


「火の玉みてぇな女だなぁ……」


単なる野次馬と化していたシルバーは、少女の流れるような行動に、大きく興味を示していた。


犯人を警察へ引き渡すこともせず、恐らくはOL風の女の願いを聞き届けるためだけに、これだけのことをしでかしたのだ。


その行動力と胆力、そして人並み外れたという形容詞すら生ぬるい身体能力には、驚嘆せざるを得ない。


そして、そのような相手に出会った時、シルバーのケンカっ早い闘争心は、最も強く鎌首をもたげる。


少女は、犯人の落としたバッグを拾うと、来た時と同じ路地を、同じ速度で逆走する。


シルバーはそれを再び屋根の上から追いかけ、事の顛末を見届けることにした。


颶風が如き速度でOL風の女の元へ舞い戻った少女は、小さなバッグを女へ返し、何度も礼をしながら去って行く後ろ姿を見送っていた。


まさかOLも、犯人がそのまま放置されているとは、夢にも思っていないだろう。


ヤンキー座りでそれを見ていたシルバーは、件の少女が、視線を上へ上げたことに気がついた。


少女は上空へ向けて、よく通る声で語りかける。


「そったらとこで見てねで、下りて来ねがぁ!!」


声は住宅地の隅々まで通るほどの大きさで響いたが、顔は天を向き、シルバーの居る方向を向いていない。


シルバーの居場所は判っていないものの、どこからか見られていることだけは感じていたようである。


犯罪の多いこの街では、住宅街でそのような大声を出しても、窓から覗く人影さえない。


その声に耳を塞ぎながら、シルバーは屋根の上から、路上へ軽々と飛び下りて来た。


「でっけぇ声出すなよ、やかましいな」


呆れたような様子でタメ口をきくシルバーだったが、当然のように二人は初対面である。


「おめ、こごにおらが来た時から見でおっだな。何者だべ?」


かなり強烈な訛りのままに、少女はシルバーのことを睨み据えている。


「俺ァただの通りすがりだ。それに文句でもあるってのか?」


「嘘こぐでね。なして通りすがりが、屋根の上がら見とったが」


少女は鋭い眼差しを向け、シルバーに問い質す。


「おめ、怪人だな?んでねば、あげなとごでおらを見ちょる道理ばね」


「そういうあんたは、『魔法少女』か?」


シルバーは、あどけなさの欠片もない視線をやり過ごし、頭の後ろで手を組んでいる。


魔法少女。


それは怪人を倒すことの出来る唯一の存在であり、人類へ残された最後の砦である。


怪人が現れたのと時期を同じくして、人類の中からも魔法を使う者たちが現れた。


しかもそれは、何故か一様に十代の少女たちばかりだった。


そのことに由来し、人々は彼女らを「魔法少女」と呼び、怪人打倒の希望を託したのだった。


また、魔法少女として覚醒したものは、通常の人間とは比較にならないほどの身体能力を手に入れる。


先程の常軌を逸した走りも、そのためであろうとシルバーは推測していた。


少女は、シルバーのセリフに肯定も否定もせず、ただ淡々とシルバーへ疑問を投げかける。


「なしておらのことさ見てただか。おらに因縁でもつげに来ただか?」


「それに関しちゃ本当に通りすがりだ。だが、強いて言うならあんたに興味が湧いた」


少女の問いかけに、シルバーは爛々と瞳を輝かせて答えた。


「俺の名はシルバー!強ぇ敵と戦うことだけが生き甲斐の、ただのケンカバカよ!」


「あんたの走りを見て、こいつとケンカしてぇと思った。それだけのこった!」


シルバーは、誰が聞いても知能が高そうには聞こえない自己紹介をした。


「シルバー……『白銀しろがね』のこどが。大層な名前でねっが」


「あんたこそ、なんて名前だ?本名じゃなく、魔法少女の名前な」


少女は、裸足の足で反対の脛を擦りながら、その質問に応じた。


「昔ん名ば『妖怪金色婆娑羅ようかいこんじきばさら』、今ん名は『ブラッドバサラ』。大正ん時代じでぇがら魔法少女ばしちょう、大婆じゃ」


シルバーは目を見開いて、あからさまに驚いてみせた。


「大婆だぁ?お前のどこがババァなんだよ。くだらねぇ嘘も大概にしとけ」


そんなセリフが出てくるのも、無理のないことである。


バサラを名乗った少女は、シルバーより頭二つほども背が低く、どう見ても小学生にしか見えない容貌をしていたからだ。


喋り方が老成していること以外は、彼女の年齢を見た目以上に見積もる人間など、皆無だろう。


しかしバサラは、常識知らずを嗤うかのように、やれやれと首を振って呆れている。


「魔法少女ばなっだ女ぁ、歳さ取らねぐなるだ。そっだらこども知らねがっただか?」


「おらぁ怪人に親さ殺されてがら、百年は魔法少女ばやってるだ。おめのよな青二才に、負げるはずがね」


その言葉にカチンと来たシルバーは、露骨に青筋を立てて煽る。


「言ってくれるじゃねぇか。そこまで言うなら俺の売ったケンカ、買うってこったな?」


「ならさっさと始めようぜ。タラタラおしゃべりなんざ、俺の柄でもねぇんでな」


そして殺気を尖らせると、それをバサラへ向けて叩きつける。


常人であれば、正気を保つことすらままならず、泡を吹いて卒倒するほどの殺気である。


しかし、バサラはその殺気を軽く受け流すと、シルバーから二、三歩離れたところまで歩いていった。


「おい!どこ行くんだ!逃げんのか!」


「やがまし。おらぁ逃げも隠れもしね。こごでケンカさすれば、街んしゅば巻き込むかもしんねぇべ」


そしてその場で数度軽く跳躍すると、シルバーの方を振り向いた。


「おらの後さ着いてげ。そいが出来でくれば、おめとケンカばしてやっけ」


バサラはそのセリフを告げるが早いが、バイクを追った時と同じスピードで駆け出した。


「ハッ。面白ぇ!俺のことを撒けるつもりならやってみな!」


その誘いに乗り、シルバーもバサラの二メートルほど後方に追随して、その後を追い始める。


シルバーとバサラの人外の速度で繰り広げられる追いかけっこは、こうしてスタートを切った。


それは、誰の目にもつかないよう行われた、密やかで強烈な徒競走であった。


バサラは、人目につきにくい場所を敢えて選び、走っているようだった。


人を巻き込むことを本意としないならば、それは当然の選択と言える。


時に人気のない裏通りを抜け、時に先程のシルバーのように屋根の上を走り、時にビルの合間を大きく跳躍する。


そこがいかなる場所であっても、バサラは一切足を緩めることはない。


その速度は徐々に上がり、既にバイクを追っていた時より走りは早くなっている。


そしてシルバーも、一歩たりとて遅れることなく、その激しい走りに追走する。


(伊達に百年生きてねぇってワケか……やるじゃねぇかババァ!)


内心で舌を巻きながら、シルバーは前方の高速の移動体へ、称賛を向けた。


そしてバサラも同時に、シルバーと似たようなことを考えていた。


(おらの本気の走りに着いで来るだか。弱え怪人でね証拠だ)


なまじの怪人ならばとうに振り切っている速度と距離を走っても、未だシルバーの気配は背後から途絶えない。


すぐに振り切れてしまうようなら、バサラはその場で引き返し、シルバーを殺すつもりでいた。


本人の言う通りの、単なるケンカバカという訳でもなさそうである。


(んだば、おらが相手さしでやるしがなさそうだんべなぁ)


やがて彼女は、千仁町の外れにある廃倉庫でようやく足を止めた。


そこは、二人が初めて顔を合わせた住宅地から、ゆうに20kmは離れた場所に存在した。


ガランとした大きなスペースに、遮蔽物はほとんどない。


天井も高く、もとはそれなりの量の貨物を集積していたものと思われた。


ケンカをしようと言うのなら、最適と思える場所である。


「こごは、おらだち魔法少女が怪人さ誘い込むのによっぐ使う倉庫だべ」


「なるほどな、いいボロ屋じゃねーか。これからケンカするにゃ打って付けだ」


二人は、適切な距離を取りながら睨みあった。


20kmを走り終えたばかりだというのに、互いに息の一つも切らせてはいない。


ここからが本番だということを、双方ともに熟知している顔である。


そのまま戦闘へ突入しそうな空気の中、それを制したのはバサラの方であった。


「おめさ、人の話ば聞がねぇ怪人ちゅうこどもなさそうだんべな。んだば、ケンカする前に二っづだげ、おめに尋ねでおぐことさあるだ」


シルバーは、そのまま突進しかねなかった気勢を削がれ、若干白けた顔になる。


「何聞きてぇか知らねぇが、さっさと終わらせてこっちはドンパチやりてぇんだがな」


ぐでね。おめ、『死門』ちゅう名の怪人ば知ってるだか。死ぬるの死に、門扉の門ば書く怪人じゃ」


「死門ん〜?俺が知ってんのは横文字の怪人ばっかだ。そんな奴見たことも聞いたこともねーよ」


仮に知っていれば教えたかもしれないが、乏しい記憶力を使っても、そのような怪人と顔合わせしたことはない。


「へば、二っづ目。おめさ、人っ子さあやめたことばあっが?」


その質問には、シルバーは間髪入れず正しく答えることが出来た。


「あぁ、何度もあるぜぇ。それがどうかしたか?」


するとバサラは、それまでの木訥さからは想像も出来ないほどの殺気を膨れ上がらせた。


それはシルバーの肌を刺し、物理的な痛みさえ生じさせかねないほどの圧力だった。


「んだば、おめは死ね。二度と人様ひとさぁぇに、その面ば出すでねぇ!!」」


そしてバサラは、唇の前へ人差し指と中指を立て、小さく唱える。


「オン・バサラ・ダルマ・キリ・ソワカ!!」


すると次の瞬間、彼女の肉体は光へ包まれ、魔法少女の姿へと変身してゆく。


ほんの数秒、シルバーから彼女が見えなくなる時間が発生する。


そして収まった光の中から現れたのは、鎧に身を包んだバサラの異様だった。


胴と胸とだけを防御し、それ以外は小豆色に統一された戦装束で固め、動きやすさを重視しているように見える。


その肌は眩い金色に光輝き、黒かった髪は緑青色ろくしょういろの炎を纏う。


焔立ち上るその頭髪は、仏罰の象徴である明王の怒りを彷彿とさせた。


ここに己が居るということを余さず主張するかのような、そんな立ち姿である。


そして何より目を引くのは、変身と同時に現れた刀だった。


身の丈ほどもある大太刀を担いで、彼女は現れたのだ。


その柄には仏教の独鈷杵があしらわれており、鍔の代わりとなっている。


「変身の途中さ狙わねとは、感心でねっが。もし襲って来よっだなら、その面ばかち割っでおったべな」


バサラはシルバーに、見た目と違わぬ生意気な口調で告げる。


「バーカ。ワナかもしんねーのに、みすみす釣られるワケねーだろ」


シルバーはそう鼻白むが、変身の途中を狙わなかったのには、明確な理由があった。


通常、魔法少女たちは怪人の目前で変身することがない。


変身に所要する時間は僅か数秒だが、その数秒の隙に攻撃される危険があるためだ。


そのため最悪の場合でも、何かの物陰に隠れて変身することは必須であった。


それを知らぬ魔法少女が、百年も生き長らえるはずがない。


つまり、自らを餌に攻撃を誘う罠なのではないかと、シルバーは考えたのだ。


またシルバーは、変身の隙があったとしても、最初からそこを突こうなどとは考えていなかった。


シルバーのすべきことは、互いに死力を尽くした末の決着である。


それを無視してただ勝利を得ても、そこには何の意義も感慨もない。


結果、その二つがシルバーの警戒を呼び起こし、命を救った形となった。


「ほいじゃま、俺も準備させてもらいますかね」


肩をグキリと鳴らして一回転させると、シルバーはダサいスカジャンを脱いでタンクトップの姿となった。


そして左肩に右手を添えると、ミシミシと音を立てて、力を込めてゆく。


「怪人抜刀……!」


そうシルバーが呟くや、その肌が一瞬だけ銀色に染まり、腕だったものは一本の刀となって、シルバーの右手へと収まっていた。


かいなば刀さなるだか。まるで丹下左膳たんげさぜんのよでねが」


シルバーの変化を見届けると、バサラは抱えていた大太刀の切っ先を床へと向けた。


言うまでもなく、変化している途中で襲わなかったのは、シルバーと同じ理由からである。


「そのナントカが何かは知らねぇが、そいつが俺より強ぇとは思わねぇこったな。それより、奇遇じゃねぇか。俺もあんたも、刀を使うみてぇだな」


シルバーは半身になり、刀をバサラへ向けて言う。


大太刀と、太刀。その違いはあれど、戦い方は同等であろうことはシルバーでなくても察しがつく。


微差があるとすれば大太刀の方が刀身は長いが、身長はシルバーの方が勝るため、双方の間合いはほぼ等しい。


であれば、勝敗の分け目となるのは、刀に付加された魔法と使用者の技量であることは明白だった。


「いいねぇ、ヒリヒリするケンカはやる前から分かるんだ。あんた、そうとう強ぇだろ?」


「さでなぁ。おめさも御託さ並ぶるより、体ば動がした方が早ぇべ?」


その言葉をきっかけに、バサラは大きく構えを取った。


左手を開いて前へ突き出し、右肩に大太刀を抱える構えだった。


開かれた左の手のひらには、黒く太い縄が一本、ぐるりと結わえてある。


対するシルバーは、腕刀を握った右手を正眼に構え、立ち昇る陽炎のようにゆらりと立った。


「あぁ、そうだな。言葉は要らねぇ、殺りあえば分かる。あんたが強ぇかそうでないかなんてな!!」


先手を取ったのは、シルバーだった。


「怪人刺突、『乱れ桜花』」


その呟きの直後、シルバーの腕刀が、風圧さえ感じるほどの連続突きとなってバサラを襲う。


バサラの大太刀は、その身の丈に合わないサイズを物ともせず、飛び交う蜂の軌跡のような閃きを残して、高速の突きを捌いていった。


滑らかに動く刀の軌跡は、バサラが剣の達人であることを伺わせるのには充分過ぎた。


シルバーの腕刀は、切っ先すら掠めることなく、弾かれ、逸らされ、また受け流されてゆく。


川面に落ちた木の葉が、流れに翻弄されて舞い踊っているかのような感覚さえある。


彼の技とて、常人では何をしているかさえ分からないほどの速度で繰り出されている。


それを易々と捌くバサラが、並でないというだけなのだ。


(それなら……これはどうだ!!)


シルバーはそれまで前へ突き出していた刀を引き、今度は横へ薙ぐ動きへと変化させた。


急激な軌道の変化に対応出来なければ、バサラの胴は上下へ真っ二つに寸断されてしまう。


しかしシルバーは次の瞬間、信じられないものを見た。


シルバーの刀が横への動きをしたと見るや、バサラは左手を、その軌道上へと差し出したのだ。


シルバーの腕刀は生贄のように差し出された左手を裂き、バサラの胸へと食い込むはずだった。


しかし。


(何ッ……!?)


シルバーの腕刀は、バサラの左手を切断することが出来なかった。


バサラが左手に装備した黒い縄が、シルバーの刀を食い止めていたのだ。


「おらがぐしさ編んで作った黒縄こくじょうば、鋼よっが固ぇだよ」


バサラはニヤリと笑い、動きの止まったシルバーの刀を左手で掴む。


そして、左腕さわんのないシルバーの左体側から、斜めへ袈裟斬りに斬りかかった。


シルバーは、握っていた刀を手放し、上体を思い切りよく後方へ反らす。


頭が地面へ着きそうになるほど反らして、ようやく大太刀の振りの範囲から体を全て逃がすことに成功する。


その目の前を、バサラの刀が勢いよく通り過ぎて行くのが見えた。


バサラの大太刀は、シルバーの前髪を数本巻き込んで、空中へと切り飛ばしていた。


かといってシルバーも、黙って防御に専念していた訳ではない。


攻撃と防御のその狭間、シルバーは体を反らしながら、バサラの左手に握られた己の刀を下から蹴り上げていた。


それに気づいた彼女は、刀を強く握っていた左手をほどく。


黒縄が止められるのは、あくまでも横の動きだけである。


刀を握った状態で下から力を加えられれば、その刃は彼女の指を二、三本落としていたかもしれない。


力の進行方向に指があり、黒縄から守られていなければ、それは無防備に敵の攻撃へ晒されているのと同義だった。


バサラは咄嗟の判断で、シルバーの刀を捨ててそれを阻止したのである。


シルバーの腕刀は空中でくるくると回転しながら、持ち主の元へ帰るかのようにシルバーの横の地面へと突き立った。


シルバーは再度立ち上がり、バサラの襲撃に備え態勢を整える。


その視線の先、バサラの手前ほどの位置で、シルバーの思いも寄らない奇妙なものがその目に写った。


バサラの大太刀によって切り飛ばされた髪の毛数本が、空中で炎を纏い燃え上がったのである。


「あぁ!?なんだこりゃ!?」


演劇か、コントでしか聞かないような大袈裟な台詞回しで、シルバーは驚いて見せる。


そのセリフと同時に、シルバーの前髪の一部までも、炎を上げて燃え盛る。


「ぐわちいいいいっ!?」


シルバーは燃える前髪を乱暴にまとめて引き抜くと、足で踏みつけにして炎を消す。


バサラは油断なく構えながら、大人が子供にするように、シルバーへ優しく教え諭す。


「おらの刀『不殺之咎火斗ふさつのとがひと』は、切った怪人の体ば死ぬまで燃やす婆娑羅の刀だ。焼け死にてぐねぇなら、降参すで頭さ下げてみれや」


シルバーは、落ちていた刀を拾い後方へ間合いを取ると、バサラへがなり立てた。


「誰が降参なんざするかァ!!てめぇの刀にばっかカッケェ名前付けやがってよぉ!!」


シルバーの幼稚な怒鳴り声に、バサラは思わず苦笑を漏らす。


「フフ、かっけぇだか。そだなごとは百年生きて初めて言われただ」


そしてジリジリと間合いを詰めながら、長い大太刀でシルバーを牽制する。


先程までは積極的に攻撃していたシルバーだが、相手の魔法が分かれば話が変わってくる。


いざとなれば肉体の一部を盾にして刀を封じるつもりでいたが、斬ったものを燃やすとあればそれも出来なくなってしまった。


その特性からして、掠り傷でも致命傷となるのは明白である。


「どしただ、シルバー。そっぢが来ねぇなら、おらがらぐぞ!!」


バサラは左手を前にする構えのまま、シルバーへ突進した。


廃倉庫のコンクリの床がべコリと凹み、足跡が残るほどの鋭い踏み込みである。


「ナメんなぁっ!!」


シルバーはそれに応じ、躊躇いもなく前へと踏み出していく。


「甘ぇだ!!」


しかしバサラは、その刀が届くより早く、くるりと一回転してシルバーへ背を向ける。


その背にたなびいていたバサラの長い頭髪が、慣性により舞い乱れ、シルバーの顔面へと襲いかかった。


「ぶわっ……!!」


緑青色に燃える髪は、シルバーの眼前へ火の粉を散らし、視界を一時的にくらますことに成功した。


一瞬足の止まったシルバーを、バサラは容赦なく一刀のもとに斬り伏せようと、刀を振り下ろした。


真上から振り下ろされたバサラの長刀を、シルバーは見えないながらも勘と経験則のみで受け止め、防いだ。


シルバーの刀から青白い火花が飛び、鍔迫まりの形で力が拮抗する。


その細い体からは想像もつかないほどの膂力で、バサラはシルバーを追い詰めていた。


「ババァの割に、クソ強ぇじゃねぇか……!!」


シルバーは、自身が瀬戸際の戦いを強いられていることを自覚しつつあった。


これまで戦った誰と比較しても、バサラは強い。


死を覚悟してなお、その差が詰められるかは不明瞭である。


「おめこそ、刀さ気を取られて足元がお留守になっでねが?」


バサラの言葉の直後、シルバーの足から激痛が登った。


「ガッ……!?」


バサラがその強靭な脚力でもって、シルバーの足を踏み抜いたのだ。


バキリと固い音をさせて、シルバーの足の甲と指の骨が砕ける感触が走る。


コンクリの床へ足跡を残す脚力で踏まれては、いかに怪人といえどひとたまりもない。


上半身への攻撃に注意を向けさせておいて、本命の攻撃は足元へ行う。


バサラの周到さは凶悪であり、また戦闘における有能さの証でもあった。


シルバーの左足は、靴の中で出血し、大きく腫れ上がっていた。


圧倒的速度と力を持って、バサラはその首を獲ろうと迫った。


動きの鈍ったシルバーへ、隙のない、重い攻撃を幾度となく畳み掛ける。


出足の遅れたシルバーは、一時それに防戦一方となり、いつ命を奪われてもおかしくない状況に陥った。


動きを封じられた今となっては、足で敵を搔き乱すことも容易ではない。


気にすまいとすればするほど、痛みは背骨を駆け上がり、シルバーの動きの精彩を欠けさせてゆく。


今シルバーを支えているのは、バサラへの負けん気と、痛みへの反骨心のみである。


むしろ、それのみでバサラの神業へ対応出来ていることが、奇跡に近い。


いつしか二人の刀の軌跡は消え、閃光と金属音のみが辺りに煌くようになった。


しかし、時を経てゆくにつれ、その戦いに変化が生じる。


ほんのゼロコンマ数ミリずつ、一秒を百に割ったうちの一拍ずつほど、シルバーが遅れを取るようになっていった。


それは、百年生きたバサラの前では、致命的な差となりかねない遅れであった。


(このままじゃ、こいつの刀ァ俺の首に届いちまう……!!)


吐き気すら催す激痛を足に宿しながら、シルバーは目前の勝敗にしか興味を持っていない。


(こんなことなら、俺も刀にカッケェ名前付けとくんだったぜ……!!)


そんな阿呆な思考すら、一瞬で霧散するほどの攻撃の嵐が、バサラからとめどなく送り込まれる。


すでに彼女からの会話はなく、完全にシルバーを仕留めに来ているのが伝わってくる。


言葉を発しないバサラは、年齢以上の冷酷さを感じさせる、一人の剣客と化していた。


その百年の重みに耐えかねるかのように、シルバーの刀が弾かれ、逞しい首が露わとなる。


絶体絶命の窮地の中、ついにバサラの刃は、シルバーの喉元へと迫った。


シルバーは再度体を反らしてそれを避けようとしたが、足の激痛がそれを許さなかった。


それまで堪えていた痛みが突き抜け、全身からぬるい汗が玉のように吹き出る。


避ける動きは単に背後へよろけるのみとなり、バサラの刀の切っ先は、削ぐようにシルバーの喉を通り過ぎて行く。


その傷の走った跡が、真っ赤な炎となって燃え上がった。


バサラは隙なく、残心の構えを取りシルバーの挙動を見守る。


その時、シルバーの脳裡には、ここへ来るまでのバサラとの会話が、鮮烈にフラッシュバックしていた。



『シルバー……白銀しろがねのこどが。大層な名前でねっが』


『んだば、おめは死ね。二度と人様ひとさぁのめぇに、その面出すでねぇ!!』


かいなば刀さなるだか。まるで丹下左膳のよでねが』


『おらがぐしさ編んで作った黒縄ば、鋼よっが固ぇだよ』


『おめこそ、刀さ気を取られて足元がお留守になっでねが?』



走馬灯とは俗に、過去の出来事から自身を救いうる事柄を、思い出そうとすることから起きると言われる。


今まさに、シルバーの脳内では、ここへ至るまでの光景が、瞬時に迸っていた。


しかしその肉体は、度重なるバサラの攻撃に耐えられず、ゆっくりと後ろへ向かって倒れてゆく。


首では真一文字に炎が燃え、流れ出る血液ですらもそれを消すことは出来なかった。


それを最後まで観察しながら、バサラはゆっくりと、刀の構えを解こうとした。


そのシルバーの体が、地に触れる寸前、空中で静止したかのようにビタリと止まる。


「……!」


シルバーの体が、体幹を軸として、倒れることを止めたのだ。


足には渾身の力が込められ、怪我をした部位から大量に出血しているのがバサラからも見えた。


そしてシルバーは、猛然と起き上がると、それまでの動きと全く変わりない動作で、バサラへ襲いかかったのである。


その顔は、戦いの狂気と喜悦に染まった、凄まじい激情に満たされていた。


全く予想外の動きに、バサラは刀を構え直すことを諦め、左手の黒縄でシルバーの攻撃を受け止める姿勢になった。


これまでも、斬られ炎を灯されたことで錯乱し、がむしゃらに攻撃してくる怪人は大勢いた。


また、死に際に自爆紛いの特攻をし、バサラを巻き込もうとした怪人もいた。


そういった怪人にバサラが窮地へ追い込まれたことは、これまでにほとんど無い。


しかし、炎で体の一部を燃やされながら、完調時の肉体と同じ動きをして見せた怪人は、百年の間でもシルバーが初めてだった。


ましてやシルバーは、足を砕かれて動かせないはずである。


バサラは、これまでと同様に左手で刀を弾き、追撃の態勢を整えようとした。


だが、シルバーはそれに一切躊躇すらせず、黒縄へ刀を叩きつける。


白銀の刃は、バサラの左手に装備された黒縄の半ばまで埋まり、それを断ち切ろうとしていた。


(……ッ!?)


バサラはそれを目視すると、シルバーの刃から腕を逃し、今日初めて後方へ大きく後ずさった。


バサラの髪を編んだ黒縄は、手の中でバラリと解け、防御に使うには用を成さなくなってしまった。


それまでも、シルバーの斬撃は充分に早く重いものだったが、それでも黒縄を断ち切るほどの物ではなかったはずである。


一体、彼と彼の肉体である腕刀へ、何が起こったのか。


その答えは、すぐにシルバーの口から発せられた。


「……『白銀腕』」


ぽつりと呟いた言葉の意味を、バサラは数瞬理解出来ずにいる。


その間にも、シルバーの首の炎は、燃えながら彼の顎を焦がしていた。


「アンタが刀にカッケェ名前付けてるからよぉ、俺も自分の刀に名付けたくなったんだ。俺の刀の名は、『白銀腕しろがねかいな』。アンタが付けた名前だぜ?」


シルバーが刀の名を呼ぶと、まるでそれに応えるかのように、その白刃がギラリと輝いた。


そのセリフの間に、喉が焼けるブスブスという燃焼音と異臭が混じっている。


「それよが、おめさ炎で焼がれて痛ぐねぇだか?」


「アァ!? めちゃめちゃ痛ぇに決まってんだろバカが!!足も喉も我慢してんだよ!!」


我慢の一言で済ませられる痛みでないはずなのだが、事実彼は倒れず戦おうとしている。


一時的な歓喜が、痛みを彼から遠ざけさせているのかもしれない。


「さぁ、続きと行こうぜ。あんまり長くも殺りあえねぇケガしちまってるんでな!!」


そしてシルバーは、数分前までと変わらぬテンションで、バサラへと躍りかかった。


怪我の程度から見ても、シルバーが動ける時間は、残り数分を切っているはずである。


しかしバサラに、その数分を待つ余裕は与えられなかった。


ほんの少しでも気を抜けば、シルバーの刃が致命の傷を負わせようと、襲い来るためである。


その理由に、バサラは思い至っていた。


(名前、か……!)


それは、シルバーが刀に銘を打ったことを指していた。


シルバーの腕力、速度、気迫、それそのものは高水準なれど、先程までと変化していない。


変わったのは明らかに、シルバーが名を付けた、その刀の方である。


シルバーの刀は、その特徴として、元は体の一部であったものだ。


それに名を付けるという行為は、彼の認識に多大な影響を与える。


それまで「体の一部」だったものを、名付けたことで明確に「武器」として認識し直したのである。


その結果、シルバーの「体を刃物へ変える」魔法は、武器としての腕刀の強度・鋭利さを、飛躍的に上昇させた。


黒縄の防御を切り裂き、弾かせなかったのがその証明である。


自身の認識が魔法の威力にも影響を与える。それが、怪人と魔法少女に共通する「ルール」だった。


(だが、おらぁおめのような怪人に、負けるわけにはいがねぇだ……!!)


命を賭して戦うシルバーの刃を潜り、バサラも再度、シルバーを斬りつけようと試みる。


もはやシルバーの首の炎も、足の大怪我も彼女には関係なかった。


自身の迂闊な発言が、シルバーを怪人としてのさらなる高みへ押し上げてしまったのだとしたら、その尻拭いは自分でするより他に、選択肢はない。


勝負が決するのは、彼の胴体を上下に分断した、その時のみ。


そう腹を括り、バサラは彼の喉笛へと噛みつくだけの、走狗となることを決心した。


「イェアァァァァァァ!!!!」


「オォォォオオオオオ!!!!」


声と共に剣気は満ち、熱を帯びる。


肉体と精神のタガは、今にも弾けて壊れそうに震えた。


しかし、勝敗の行方を決したのは、肉体と精神、そのいずれでもなかった。


何かのぶつかるようなガシャンという物音が、唐突に二人の間に割って入ったのだ。


「おま、バカ!」


「ご、ごめん……!」


二人がその音に振り向くと、彼らから遠く離れた倉庫の裏口に、小学生らしき少年たちが三人、隠れてこちらを窺っていた。


その少年たちは、何を目的としてこのような廃倉庫を訪れていたのか。


実はこの倉庫、魔法少女たちが戦闘に使う場所ということもあり、その魔法の痕跡がそこかしこに残っている場所でもあった。


痕跡といってもそれは、コンクリートの陥没や焼け焦げた跡程度の物だが、好奇心旺盛な子供らには十分に魅力的なものとなる。


それを発見した小学生の間で噂が広がり、遊びがてらその痕跡を見に来ることが、稀にあったのである。


それがたまたまシルバーたちの戦闘と重なり、目撃されるという事態になってしまったらしい。


シルバーはほんの瞬きする間、その少年らに注意を削がれた。


対するバサラの下した決断は、シルバーよりも格段に早かった。


彼女は、バイクへ追いついてみせたあの瞬発力で、子供らの元へ走っていたのである。


そしてシルバーもまた、そのバサラの動きの意図を瞬時に察する。


(守ろうってのか、あのガキどもを!)


人間に与する魔法少女としては、そう動くのは当然のことである。


だが、それをしながらシルバーと戦うことが出来るかと言えば、それは「否」としか言いようがない。


いかに重傷を負えど、シルバーは怪人である。


無力な人間を、咄嗟に庇いながら戦える相手では断じてない。


それ即ち、バサラに大きな隙が生まれたということだ。


それを察知した時、シルバーはバサラの後を、無意識に追っていた。


「ヒィッ……!!」


一方の少年たち三人組は、一様に引き攣れた悲鳴を絞り出しながら、走ってその場から逃げ出そうとしていた。


喉から火を吹いているシルバーは元より、人ならぬ速度で迫るバサラとて普通には見えない。


見たままを述べれば、シルバーとバサラは二人とも刀を握って、少年たちの方向へ走ってきているのである。


そのどちらも、自分たちへ襲いかかって来ているようにしか見えなかっただろう。


少年たちのうち、二名は隠していた自転車へ跨がり、かろうじて走り逃げることが出来た。


そのズボンの股間部分には濃い染みが浮かび、小水を漏らしているのが見て取れる。


しかし最後の一人は、もたついてペダルに足をからませ、不様にも派手に転んでしまう。


恐れおののいた少年は、頭を抱えてその場でうずくまってしまった。


(チャンスだ……!!)


シルバーは、少年が転んだことを好機と見た。


魔法少女であるバサラは、少年を助けるために動かざるを得ない。


そのためには、どうやっても刀を動かせる範囲が限られる。


少年へ刀が当たるような、激しい動きは出来ない。


そこへ漬け込み、自分の攻撃を成功させられれば、シルバーの勝利は決まる。


だがバサラとて、ただ黙ってやられるほど甘い魔法少女ではなかった。


バサラはシルバーが後を追っていることを確認すると、自身の手にした大太刀を、鋭い振りで投げつけた。


自分の武器を捨てるなど、よほどのことがない限り有り得ないことである。


しかし、有り得ないからこそ、それは予想外の動きとなって、シルバーを翻弄する。


真っ直ぐに伸びた大太刀の刃は、不意を打たれたシルバーの胴体へ迫っていた。


シルバーはそれを、ギリギリのところで見切った。


刃が腹に触れる寸前、走る勢いを殺さぬよう、体を半回転させて捩ったのだ。


神業的な回避を見せたシルバーは、バサラとの距離を大幅に詰める。


バサラは少年の元へ辿り着き、シルバーの方へふり向こうとしていた。


コンパクトに振りかぶった刃は、その隙を見逃さない。


シルバーはバサラの首に狙いをすませ、銀色の刃を走らせようとした。


その刃がバサラの皮膚へ触れようかという刹那、シルバーの脳内で、枯れた大木のような静かな声が鳴り響いた。


『バカ野郎』


その声を皮切に、シルバーの刃はバサラの首元で、ピタリと動かなくなる。


『ガキ守ろうって女に、手ぇ出す奴があるか』


『お前まで、俺と同じ轍を踏む必要はねぇだろうよ』


その久しく聞かぬ声は、他の誰でもない、シルバーにだけ届いていた。


声の主の名は、瀧桜閣。


シルバーがかつて惨敗し、黒星を与えられ続けた、老任侠である。


しかし何故今このタイミングで、敵を殺すなとのたまう声が聞こえるのか。


まさか自分は、幻聴を聞いてしまうほど、この女を殺したくないと思ってしまっているのか。


脳内に聞こえたその幻聴に、シルバーが大きく戸惑っているうち、彼の体に限界は訪れた。


「ガハッ……!!」


シルバーは刀を落とし、黒い煙を吐いて何度も咳き込んだ。


ついに喉の炎が、呼吸に害を与える深度にまで達してしまったのだ。


それまでは根性で無視していた痛みが、実害を伴う怪我として、シルバーを改めて襲う。


一度切れた緊張の糸はもはや元に戻らず、シルバーを激しく責め苛む。


「ガァァァァッ……!!」


膝をつき、胸を掻きむしり、シルバーは苦悶の呻き声を上げる。


生きながら生身を焼かれるその苦痛は、想像を絶してなお余りあるものがある。


その彼を、上から見下ろす者がいた。


バサラであった。


すでに傍らに少年の姿はなく、バサラは彼を逃し終えたようだった。


表情のない目をしたバサラへ、シルバーは攻撃を返す余裕すら無くしている。


自爆を覚悟の特攻も、シルバーの流儀ではなかった。


しかし、うずくまり苦しみに耐えるシルバーに、いつまで経ってもバサラは止めを刺そうとしなかった。


それどころか、バサラは己の大太刀を左手にかざすと、手のひらに大きな傷をつけた。


そこまでやってから、バサラは変身を解き、大太刀と装束がその場から消え失せてゆく。


すると、青緑に燃えていた炎も、シルバーの喉から同時に消え去っていた。


バサラは左手をシルバーの上へ位置させると、その傷口を絞るように手を握った。


傷口は、シルバーへ血の液を滴らせ、下を向くシルバーの後頭部を汚す。


「飲むだ。んで、傷ば治せ」


「へめぇ……ほーいうふもりは……?」


シルバーの喉の火傷は、すでに声帯まで届くほどの傷の深さを見せていた。


おかげで声を出すにも、掠れて潰れた発声しか出せていない。


「いいから早う飲まねが。こっぢもおめさに聞きでぇ話さあるだ」


バサラは強引にシルバーの傷口へ指を突っ込み、そこへなするように血液を塗り込んだ。


それに飽き足らず、絞り出した血液を穴の空いたシルバーの食道へ直に注ぎ、無理やり胃へと嚥下させる。


すると、シルバーの傷口から修復煙が立ち上り、傷は見る間に回復されていった。


「なんだぁ? 情けでもかけたつもりか?ナメてやがんのか」


シルバーは、傷が治るやいなや、下からギロリとバサラを睨みつけた。


たとえ死ぬほどの傷から治してもらったとはいえ、シルバーにそれを恩義に感じる良心は備わっていない。


それを分かっているはずのバサラが、あえてシルバーの命を救っているのは、不可思議な光景にも見えた。


バサラは、修復したシルバーの首へ喉輪をかけると、その手を外さないよう注意しながら問いかけた。


「おめ、『クレイジー=シルバー』だぁな?」


バサラは、腹立ち収まらぬという顔のシルバーへ向かって、厳かに問い質した。


「それがどうしたよ。さっきからそう言ってるじゃねーか」


「おめはシルバーとしが名乗っでねぇ。おらぁ『クレイジー』の方しが覚えでねがっただ」


バサラは応えるが、それがシルバーを助けた理由とどう繋がるのか、まだよく見えてこない。


「学園は、魔法少女ばおめさに手出しばせぬよに、触れ回っでおっだべ。そいでおめさの名ば思い出しただ」


「あ゛ぁ!? ザケんじゃねぇぞ!!人を取って食う怪人倒すのがオメーらの仕事だろが!!職務怠慢か!?」


学園とは、怪人を討伐する魔法少女を統括している組織の名である。


それがシルバーのような危険な怪人を放置することは、ほぼ前例のないことと言っていい。


「おめさ、人っ子さ殺さねど噂になっておるだ。んだば、魔法少女が手ば出さねば、おめのケンカ相手は怪人しがいねぐなるちゅう道理じゃが」


それは、一応は筋の通った理屈であった。


シルバーは、ある理由から一般人に手出し出来ない怪人である。


しかもそれは、本人にとって破ることが不可能な決まりでもある。


それに加えて魔法少女も手を出すことを控えれば、あとは怪人同士で殺し合うしかシルバーに出来ることはない。


シルバーが死んでも、シルバーのケンカ相手が死んでも、怪人の撲滅を動機とする魔法少女にとって、願ってもないことである。


「チッ……案外セコいんだな、魔法少女ってのも」


「だども、おらにそっだな理屈は関係ねぇべ。悪さばした怪人は、みな死なすがおらのこどわりだ」


「じゃあ俺のことなんかほっとけば良かっただろ。何だよ、聞きたいことって」


バサラは、その問いかけに、表情のない瞳を鋭くした。


「おめ、なしておらさ斬らながった?さっぎわらしさ助げて背ば向げた時、おめさならおらを斬れたべな」


「それは……」


シルバーにとってその質問は、最も答えづらい類のものであった。


まさか幻聴に止められたと言うことも出来ず、シルバーは適当に答えを濁した。


「オメーがさっき自分で言ってたろうが。俺ァ一般人を殺せねぇし、殺すことに興味もねぇんだよ」


「嘘こぐでね。おめの業前わざまえなら、童ば避げておらだけ斬るごとも出来たべさ」


その追求に、シルバーは面倒くさそうに尻を床へついた。


「オメーにとって、俺を殺すよりガキ助ける方が先だったんだろ。よそ見してる奴に勝っても、何の自慢にもならねぇわ」


「あんたらと違って、俺は結果的に殺しましたなんてしょうもない決着、欲しがっちゃいねんだよ」


シルバーの言い分も、あながち間違いではなかった。


もしあの時、シルバーがバサラを斬り殺していれば、炎は彼の体まで燃え広がり、結果相討ちになっていただろう。


生死の差はあれど、勝敗がつかなかったことに変わりはない。


であれば、双方が命を失わずに済んだこの状況は、少なくともバサラにとってはまだマシな結末だったと、言えなくもない。


その答えに、バサラはしばし黙考する。


そして、シルバーの喉に掛けていた手を退けると、誰に聞かせるでもなくぽつりと呟いた。


「それが、おめさの道理だか。んだばおらは、今だげおめさから、手ば引いでやるだ。しだらば、おらを切らねがったおめの道理と併せて、チャラになんべな」


しかしシルバーは、その言葉に納得いくはずもない。


「おいおい、待てよ。俺のケガは回復して、邪魔するガキももういねぇ。なら、やるのはケンカの続きからじゃねぇのか?」


血気盛んなシルバーは、去ろうとしかけたバサラを引き止めにかかる。


だが、バサラは構わずシルバーへ背中を向けると、背にこぼれていたはずの髪を晒して見せた。


「おらのぐしさ、見えるだか?」


「お? おぉ」


その言葉と行動で、シルバーはようやくぐしという単語が、髪の毛を指していることに気がついた。


変身前、腰まであった長い髪は、何故か今は肩の長さまで、短くなっている。


「おらのぐしは、変身ばしよる間、燃えで短くなっでいぐだ」


ぐしは四半刻で燃えでぐなり、燃え尽きれば次は体さ燃えて、おらぁ命さ失う。そだなのりさ定めてるだよ」


「して、変身さ解いても、ぐしは燃えたのど同じ時間さかけてしが戻らね。今変身しでも、長ぐは戦えねぇだ」


「そいで満足ばするなら、おら幾らでもおめの相手さしでやる」


バサラは短い髪を麻紐でまとめながら、シルバーへそう説明した。


魔法少女と怪人の間には、「ルール」という不可思議な掟が存在する。


魔法の使用に際し、自らルールを定めて制限をかけることで、その威力を飛躍的に向上させることが出来るのだ。


シルバーは、左手を武器とする不自由を敢えて背負い、バサラは髪を燃やすことで時間制限のリスクを負った。


そして、ルールにおいて完調でない相手と戦っても、シルバーの闘争意欲は満たされない。


「つまり、今日のケンカは決着つかずで終わりかよ。締まらねぇ最後だな」


舌打ちするシルバーは、ごくつまらなそうに喉を指で擦る。


「だども、お前さがそのかいなの刀さ振り続けるなら、おらぁいつでも相手さなる。そいば忘るるな」


バサラはキッと視線を鋭くすると、シルバーへ堂々と宣言する。


「どうせならそっちからケンカ売りに来てくれよ。そしたら俺も、高く買ってやるからよ」


シルバーはそこまで言って、ふと思い立ったようにニヤリと笑った。


「しっかし、あんたも甘ぇんだな。傷治った俺が何も言わずに襲ってきたら、どうするつもりだったんだ?」


バサラは動じる様子もなく、シルバーの首の辺りを指差す。


「おめの首ば、触っでみれ」


シルバーが言われた通り喉をさすると、喉仏から真っ直ぐ伸びた首の両端に、何か細い物が触れた感触がある。


「なんだ、こりゃ」 


「おめさの喉に指ば突っ込んだ時、ほどげた黒縄ば一本忍ばせでおいただ」


そして今度はバサラが、腕を組みながらニヤリと笑う。


「おめさが反抗的な態度ばしよっだなら、そん首の髪さ前へ引っご抜いでおっただ。んだば、おめの首の肉さ千切れで、お陀仏だったべな」


おぞましい罠が張られていたことを知り、シルバーはギョッとする。


「おまっ……なんちゅうことしてくれてんだ!」


「髪さゆっぐり引き抜けば怪我はしね。おめが馬鹿な真似せねば、死ぬごとさねぇだよ」


その言葉を信用し、シルバーは埋め込まれた髪の毛を、ソロソロと右手で引き抜いていく。


「油断も隙もねぇな、このババァは……」


思えばシルバーへ質問していた時、喉輪で彼の首を締めていたのも、埋め込まれた髪を引き抜きやすくするための下準備だったのだろう。


本人の言葉通りなら、その髪は鋼より固い強度を誇っていると言う。


首の肉など、造作もなく飛び散ってしまうに違いない。


まさに用意周到、百戦錬磨の魔法少女である。


シルバーは長い髪を引き抜き終えると、横に落ちていた刀を左腕へ接続し、腕へと戻した。


そして数メートル先に落ちていたスカジャンへ歩み寄り、拾おうと背をかがめる。


その体に違和感が走り、彼は右手で拾ったスカジャンを、ぐちゃぐちゃなままで小脇に抱えた。


「ま、今日のところは引き分けで勘弁してやるか。俺の刀にもいい名がついたことだしな!」


シルバーは、敢えてその違和感を無視して、前向きな言葉を告げた。


「あんたの刀も、悪くねぇ名前だったんじゃねえか? えーと……『ふさふさトカゲ』だっけか」


「『不殺之咎火斗ふさつのとがひと』だ!!おめ、わざと間違ってねが!?」


「そーだっけか。まぁ気にすんな!ガハハハ……」


苛烈なケンカ番長の顔はどこへやら、シルバーは大味に笑うと、バサラへ背を向ける。


「そいじゃま、次に会った時はつまらねーこと言わねぇで、堂々と俺を殺しに来てくれや。あんたほどのババァが相手なら、俺も遠慮なくブチ殺してやれっからよぉ」


物騒な物言いで、シルバーは倉庫から駆けてゆき、あっという間に見えなくなっていった。


それと入れ替わりになるように、一人の少女が、少年たちの逃げた裏口から倉庫へ入ってくる。


「こがねさ〜ん、探しましたよ〜!こんなとこで何してるんですか〜!」


「あぁっ!また髪短くなってる!許可なく戦闘しちゃダメって言われてるじゃないですかぁ!」


その少女は、倉庫へ駆け入るや、小言のような苦言を呈してバサラの髪をぺたぺたと触る。


まるで小動物のような趣のある少女だった。


バサラはされるがままに髪を触らせながら、シルバーの消えていった通路へ目を向けている。


(『クレイジー=シルバー』……もしも怪人でねがったら、大任侠さなっでだ器かもしんねぇべな……)


その予感が、後に現実みを帯びてくることを、彼女はおろか本人でさえ未だ知らない。


今はただ強者を求めて歩むその道は、いずれ分かち難く様々な者たちと交差してゆく。


その先にあるものは、剣風吹き荒れる修羅の生き様である。


後の怪人剣侠は、名を与えた左腕のみを伴い、その道を疾駆するのみであった。



<続く>

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金の獅子、銀の猛虎 〜怪人シルバー、命銘編〜 じょにおじ @johnnyoji

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