第4話 転校生

 バタバタバタ...

 全力で校門から靴箱までを駆け、そこからさらに唇かみしめて加速して走る。

 理由?否!そんなものいらぬ(遅刻寸前)

 どうする?目の前に俺以外の生徒が全くいない!!

 だがまだあの音は流れていない!

 アレが来ない限り俺の命の綱は繋がったままだ...。

「うぉぉぉぉぉおおおお」

 教室が見えた...よしこの状態でドア開けて入るぞ。

 そして、教室の目の前まで来て戸のほうへ向こうとした瞬間、減速を忘れていた体はそのままの向きへ力が働き俺は...こけた。

 ゴンッ。

 派手なくらいに頭を打つ、声が出ないくらい痛い。

 その時、あの音が鳴りだした。

 ♪~♪~♪~♪~

 ヤバいこのままでは...遅刻になる!!

 こんなところで終わるわけにわぁああ。

 体に力を振り絞り立ち上がる。

 そして今度こそ戸に手をかけ開いた。

「おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 担任の川上先生から挨拶が返ってきた。

「先生ギリセーフっすね!」

「ああ、今チャイムなり終わったからアウトだ、おめでとう滝。新年度早々遅刻だ!」

「Wow...」

 席に座ってないと遅刻だっけか...ま、マジっすか。

 きょ、今日だけ大目に見てくれないかな?

 捨てられた子犬の目線とやらを川上先生送る。

 うるうる。

「そ、そんな目で見るな...。はぁ、今日だけだぞ。新年度早々遅刻つくのはかわいそうだからな...」

「先生!」

「わかったら席に着きなさい」

「先生、ありがとうございます!ねぇちゃん紹介したいくらい感謝します!」

「ほうねぇちゃん。お前にそんなのいたっけか?」

「美人で優しくて気配り上手、そして料理がうまい!」

「お、いいじゃないか、どうせなら紹介してくれても...」

「そんなお姉ちゃんが欲しいなと常日頃思っています」

「いねぇのかよ!?」

「一人っ子ですよ?」

「そうだったな!今思い出したよ!!」

 先生いじりも終わったところで席に着く。

 ふぅ、これで今日は安心して過ごせるな!!

 勝ちました。

 さて、なんか川上先生が喋っているが、聞こえないふり聞こえないふり...。

 バンッ

 頭に個体が飛んでくる。

 おそらくとんできたのは消しゴムだろう...。

 こんなことするのは一人しかいない。

 みかんよりは薄い色をしたオレンジ髪のショートが目立つ。

 わがクラスの委員長、葵花あおい はなだ。

 普通にいいやつでノリとかもいい。

 しかしなぜだろうか。

 俺と智樹には厳しい面もある。

 授業中寝てたりとかこっそりUNOしているのを見られたら毎度消しゴムが剛速球で飛んでくる。

 チラッと視線を向けると目が合う、こちらに向ける表情が変わり口パクで『ハナシチャントキケ』と言ってくる。

 ...怒らせると怖いので素直に従おう。

「では、今日の連絡はここまで。あっそうだ転校生いるんだった。職員室で待たせっぱなしだわ」

 話聞き始めたら終わってるし...というか転校生職員室に放置とかどういういじめだよ。

 その時がガラッと教室の戸が開く音がする。

 保健室の先生が入ってきた。

「あの~川上職員室で生徒さん待たれてたんで連れてきましたよ」

「あっありがとうございます。いやぁ転校生のこと忘れちゃってて」

「それでいいのか!?担任教師ィ!!」

「ありがとうございま~す」

 保健室の先生は少しキャラが濃いがまぁ俺たちの気持ち代弁してくれたしいい先生だ。

 これはいつもの日常だな。

 というか転校生の紹介まだかな...。

「先生!転校生の紹介まだですか?」

 花が手を挙げて先生に告げた。

「そうだな葵。んじゃ先生は保健室ハウスに帰ってください」

「ワンワン!!」

 保健室の先生は走り去っていく。

 あの先生犬だったのか?

「先生どっか行ったし転校生入っていいぞ。ちなみに入ったら自己紹介してくれ俺名前忘れたわ」

 先生それでいいのか。

 すると教室の戸が開き転校生が入ってくる。

 顔立ちが綺麗ながらピンクブロンドのロングヘアーがなびきひときわ目立つ。

 かわいい系の美人という奴だろう。

「おはようございます!夢見ゆめみゆいといいます。これからよろしくお願いします」

 当たり障りのない挨拶。

 珍しいな、こんなあいさつがこの学園で見れるとは。

 というかこの声昨日聞いたな。

 どの人だっけ?

 店長のキャラが濃すぎてもう覚えてないわ。

 帰りとか脳死だったしな。

「え~とどこ空いてるかなそもそもこのクラスって滝以外誰だっけ?どこの席に座らせばいいんだ。空いてる席3つもあるとわからんぞ」

「あの!先生それはどうかと思います」

「え~今年も同じ学年受け持つとは思わなかったからな。まぁ気を付けるわ、あ、え~とあとい?あうい?あっ葵だな」

 この先生確か年齢30とかって聞いてるけどボケが始まってるんじゃないか?

 花はさっきちゃんと呼べてたろうに、転校生が笑顔で動き止まってるし。

「まぁわからんから葵!空いてる席教えてやれそっちのほうが早い」

「はぁ、ちゃんと先生してくださいよ川上先生。え~と夢見さんだったかな?それじゃあそこの滝とか言うキチガイの隣ね」

「はぁ?誰がキチガイだって!とんでもねぇ速度でけしごM...うげぇ。すみません座ります」

 見えなかった...わからんが口の中に消しゴムが...。

 あいつマジでヤバいわ。

「これで滝の席わかったわよね?」

「あっ...はい」

 転校生引いてるぞ~それでいいのか花さ~n

 何故だろうな思ってるだけなのに消しゴム飛んできたぞ。

 流れるように飛んでくる。

 そう言えば消しゴムが大量に飛んできてそうな奴がいるな。

 そっとそいつ、親友の智樹のほうを見てみる。

 消しゴムくってるわ。

 真顔で口動かしてるわ。

 とんかつとか食ってたらムシャムシャ行ってそうな口の動きだ。

 慣れてるというとかじゃないなもう適応してる。

 智樹を見ていると視界が狭まる。

 転校生が隣の席に着いたか。

 転校生、夢見さんは席に座るとこっちを向いて「よろしく...?」と言ってくる。

 何か俺の顔を見て思うところがあるみたいな反応...

♪~♪~♪~

あっチャイムなった。

「ヨッシ休める!じゃ職員室帰るわ」

 先生爆速でどっか行ったわ。

 チャイムなって数秒の出来事だった。

 挨拶もなしにクラスの人間は立ち上がってどこかへさ迷いに行ったりおしゃべりを始めたり薬を渡したりと休憩時間を満喫しだす。

 ちなみに転校生のもとには一人も集まらない。

 その転校生はと言うと俺を見つめている。

 なんで見つめてるんだ?

 俺の顔に何かついてるんだろうか。

「あの昨日会いましたか?」

 昨日のことを聞いてきた。

 なんか真面目に答えるの面白みがないな。

「そうだな!多分会ったんじゃない!?君、オカマのバーの店長だっけ!」

「いや!私女だけど!?」

「うん知ってる」

「なんでそんなこと言うの!?昨日あなたをストーカーと勘違いした者です!」

「ああ、あの人か。一日ぶり」

「適当過ぎやしません!?」

「え?面白くなればそれで...」

 言い終えようとすると肩をポンと叩かれる。

「優太...おまえいつの間にストーカーになってたんだよ」

 口元に左手を当てクスクス笑いながら智樹が言ってくる。

「いや、ストーカーじゃ...」

「キチガイやめてストーカーに昇格したの?」

 花も会話に混ざってくる。

「えっいや、そんなんじゃ」

「「自首、しよ?」」

「何でそんなにお二人気が合うんですか?」

「「まっ幼馴染だからな(ね)」」

 この前喧嘩して智樹の口と鼻の穴が消しゴムまみれだった気がするが。

 気が合うのと仲の良さは関係ないのだろうか。

 夢見さんのほうは僕たちを見つめて瞬きもできず固まってる。

「夢見さんのほう固まってるけど?」

「そうなのか...これがこの学園の普通なんだが、他校の生徒さんにはわからない感覚か」

「それはそうでしょ。うちの学校の人と他校の人が恋人になって数日で別れたなんて話よく聞くわよ」

「そうだな」

 空気感が独特なのかうちの学園の生徒は他校の人とそりが合わないことが多い。

 ちなみに他校の人と恋人云々の話付け足すと学園内でできたカップルは俺の情報網にかかる範囲では9割方結婚までたどり着いている。

「そ、それで昨日の話なんですが?」

「あっタメでいいよ。敬語イラつくから」

「なんか敬語に恨みでもあるの!?」

「同年代に使われると気持ち悪いんだよね」

「始まった優太の敬語ディスりムーブ」

「ほんと不思議よね。私も初対面同じこと言われたわ」

 ちなみに敬語が嫌いな理由は特に論理的なものはない。

 体がムズムズするとかそんな感覚的な理由だ。

「そうなんです...だね。じゃあこんな感じいいかな?」

「そんな感じ!それでいいよ!最高!エクセレントだよ!」

「何で私こんなに褒められてるんだろ...。ねぇ敬語やめただけでこうなの?」

「そうね(だな)」

「それだけ敬語が嫌いなんだよ。ま、目上には使ったりするけどな」

「そ、そうなのね。あの本題移ってもいいかな?」

「あっいいよ」

「軽いね!?まぁ移るけど昨日は助かったよありがとうってことと店長から明日来てね♡だって」

「…」

「あれ?固まった?大丈夫?」

「俺の尻の処女奪われるとかそういうのですか?」

「なに優太男にこい...」

 嫌な気配がしたので拳を腹にすかさず入れておく。

「ゴフッ」と智樹から声が零れる。

 次言ったら顔面だなこれ確定。

「単純にシフトとかの話じゃないかな?店長取引先との連絡以外に電話使わないから私に伝えてるんだと思う」

「そうなんだ...時代には合わないところあるのねその店」

「というかバイト決まったのな優太」

「そうだな。マジでよくわからんが受かった」

「わからんって何したんだよ」

「そもそもこの学園がおかしいんだからそれがある地域もおかしくても仕方ないでしょ」

「そうなのかな?」

 なんか汗を流していそうな顔をしているな。

 空気感に慣れないのだろう。

「ま頑張れ!」

 せめてもの応援?のため声を掛けておく。

 夢見さんはすごい真面目な顔で、

「いや、応援してるだけじゃなくて助けてよ...」

 と言って疲れようにぐったりした。

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きっとこれが純愛だ 星宮 穹 @hosisora

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