第3話 疲れている...しかし

「それじゃ来てほしい日は後日言うから今日は帰っていいわよ」

 合格からの安心感か体から力が抜けていた。

 帰りは歩きで帰るとしよう。

 今の足で自転車がこげる気がしないからな。

 連絡用に電話番号などを伝えて、小夜曲セレナーデを出ていった。

 店を出ると空はオレンジ色に染まっていなかった。

 日差しが眩しくて鬱陶しいくらいだ。

 まだ春なんだがな。

 時計を見るとまだ14時を過ぎたところだった。

 家に帰ったら速攻お布団にダイブ確定かもな。

 寝不足と疲れが...体をひしひしと蝕んでいる、そんな気がしてしまう。

 自転車のハンドルを手に取り家への道へ押し進める。

 それにしてもあの店長キャラが濃かったな。

 言っていることが奇功といってもいいほど狂っていた。

 あんな人間が一人いたほうが店って繁盛したりするのだろうか?

 あの店長のことはテンション狂ってるオカマぐらいの認識しかない。

 これからのバイトであの人の人柄とかを知っていくんだろう...。

 何故だろうか考え出したら悪寒がする。

 あれ、これもしかして本能的にケツを狙われてると察知しているのか?

 そう考えたあのバイトが恐ろしくなってきたぞ、俺ケツ守れるかな...。

 ま、まぁ深くは考えないようにしよう。

 歩き出してから15分ほどたったところで、あるものが目に入る。

「これは...古本屋?こんなところにあったんだ」

 それはよくCMとかでも見かける大手の古本屋だった。

 そもそも小夜曲セレナーデに行くのに調べたら自宅から距離が近いのがこの道だった。

 だからここら辺の道はあまり使わないので今まで気づかなかった。

 寄っていきたいな...。

 でも足が痛い、いやしかし!今俺がそろえてるシリーズにネットにはもう残っていなくどこかの古本屋の店舗で手に入れるしかないものがある...。

 これは行くしかないのか...?

 いやそうだろう、なんか今日その場その場で切り抜けれてるしなんかあるだろ!(切り抜けれていません)

 行くしかないな。

 そのまま駐輪場に自転車を停めて俺はその古本屋へと足を踏み入れた。

「おぉ~!」

 店内で小さくだが感嘆の声が上がる。

 ココ意外と穴場だ、いろいろ置いてあるぞ...。

 財布の中大丈夫かな。

 その後、5時間はそこで時間を潰した。

 足の痛みなんて知らん。

 今が、人生のフィーバータイムなんだ。

 ここで足の痛みを理由に引き下がるわけがない!!

 案の定店を出るころには痛みが倍ぐらいになっていました。

 家帰るのダルイな。

 この足の痛みで俺帰るのか...ここで野宿は嫌だから帰らないといけないんだ...。

 正直めんどくさいな!

 というか外暗いな。

 電灯ついてんじゃん。

「はぁ」

 ため息をつきつつ自転車の籠に買った本を入れて自転車を押していく。

 あと15分くらいあるかなならんのか。

 現実に打ちひしがれながらとぼとぼと帰路につく。

 落ち込みながら歩いていると家の近所の公園までたどり着く。

 あと5分くらいか...と思いながら公園を見つめると人影が目に映る。

 今日はよく人見かけるなぁ...他人だけど。

 体を縮こませて...何かを探しているんだろうか?

 もう今日は声かけデーとでもしよう。

 困っているようなら手伝おう、まぁ足ぐらいなら何とかなるだろう、多分明日筋肉痛になるだろうけど。

 そんな心持で公園にいる人に声をかける。

「あの何か探してるんですか?」

「!!!」

 声をかけたら挙動でわかる...すごく怖がられた。

 そんなに怖かっただろうか?一応智樹に顔について聞いたことがある、なんかの遊びの結果聞くことになったのを覚えている。

 その時に「優太の顔?どのくらいイケメンだって!?くっいひひひ笑わせないでくれ...お前の顔はなぁ、強いて言うなら夏に虫取りしてる少年がそのまま大きくなったそんな顔だ...いひいいひ」と言われた。

 改めて思いかえすが智樹の野郎笑いすぎだろう。

 いやそんなことより今はこの人のことだ。

 とりあえず何かしら事情を聞き出してみるか...。

「あの、困っているように見えたので、お邪魔でしたか?」

「...」

 こちらに視線を向けてくれる。

 眼鏡をかけているが整った顔立ちというのがわかる。

 多分美人なのではないだろうか?

 今はこの情報どうでもいいのだが。

「あの、困っているなら手伝いますよ」

「...」

 無反応。

「あのできれば返事してくださいますと」

「...」

 無反応。

「あの...」

「...」

 無反応。

「困って、いるなら...」

 無反no...。

「あの!何か返事してくださいぃ!ここまで無視されると男でも泣きそうになんですよね!?」

 何故だろう...人助けに泣き落としにかかろうとしてる自分がいる。

 今日は気が狂っているな。

 警察来てもアホな行動しそうだわ、自分が怖いな。

「...あの泣くのは困るんだが」

「やっとしゃべっってくれたぁぁ」

 涙腺が軽く壊れて涙が流れながらガッツポーズをしてしまう。

 本来の目的からかなりずれている気がする。

「そ、そんなに私の手伝いがしたいのか?」

「はい!気分的にそうなんです!今日はそういう日なんです!!」

「そ、そうなのかならまぁ頼もうかな」

「はい!ありがとうございます!!」

 なんかいろいろ違う気がするがまぁいいだろう。

 目標らしきものは達成したからな!!!

「探しているのはコンタクトなんだ、この公園で落としたのは確かなんだが、焦っていてなどこで落としたかがわからないんだ」

「そうなんですか...公園のどこは歩いてないとかいなかったとかは覚えてないんですか?」

「そこの入り口からトイレまでしか行ってない」

 ほう、察したぞ漏れそうになって慌ててトイレに駆け込んだから焦ってて記憶がないと...。

 考えてることのデリカシーがないな。

「なぁ、なんか変なこと考えたか?」

「いえ!別に!コンタクトどこでしょうね!」

 何故だ!?気づかれた...獣、いや女の勘だろうか。

 すごいな。

 とりあえず公園内の彼女が通ったルートとやらを歩いてみよう。

 スマホのライトで照らしながら探せばすぐわかると思うんだがな。

 一通り探してみるが見当たらない。

 スマホで照らせばパッと見でもわかるんだがな。

 何故だろうか?どこかの段差の溝にでもあるんだろうか?

 溝か...とりあえず公園内にある角やら溝やらを探してみるがそこにも見当たらない。

 草木の中も探してみる。

 枝とか痛いな、まぁ地面は見やすいから我慢だ。

 探してみるが見当たらない。

 これ見つかるのだろうか彼女のほうはじっくり地面を見ながら探している。

 かなり集中しているな。

 そう言えばこの公園入るところが段差になってたな。

 まだそこを見てないし見てみるか。

 見てみるとあった。

 うん、公園内探してたらこれは見つからんわ。

 外と中の境界線だもんな。

 人の意識によっては外だと思う場所だしな。

 これは難しいというかハードモードすぎるな。

 とりあえず見つかったことを伝えよう。

 落ちているコンタクトを手に取り彼女のもとへ向かう。

「見つかりましたよ」

「ほんとうか!?」

 先ほど拾ったコンタクトを彼女に手渡す。

「ありがとう!助かったよ。何か礼を...」

「別にいいですよ。ただほんと、そういう気分だっただけなんで!!」

「いや、それでは私の気が...」

「じゃあまた会えたらにしましょう」

 正直に言おう、帰りたい...。

 見つけて手渡したら気が抜けてしまった。

 家に帰って早く寝たいのだ。

 お礼よりも自分の、身勝手だがわかってるんだ、でも寝たい!

「申し訳ないですが帰りますね、また!」

「あっああ、また会えたら礼を絶対するからな」

 なんか言ったな...聞こえなかった。

 まぁ今はそれより帰るんだ...。

 俺は早くこの帰りたいという気持ちを叶えるべく早い足取りで自転車を押して家まで帰った。


 次の日目を覚ますと足の痛みは特になく体の疲れも取れていた...。

 筋肉痛なんてそう簡単に起きないらしい。

 しかし、起きた時間は始業の30分前...急いで学園へ行っても20分はかかる。

 昨日の肉体負荷が回復した代わりだろうか、うれしいが朝から慌ててしまうのはうれしくない、なんなら最悪この上ない。

 その後大慌てで学園へ行った。

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