エピローグ 大和撫子との日々

「……」

「……」

「……」

「ちょっとちょっとちょっと! ちょっと待ったぁぁぁ!」

「ちっ――」


 正直今はこの人を相手にしてる余裕はないのであえてスルーしようとしたのだが、思い切り待ったをかけられる。


「こんな『待ってたよぉ』って意味深に立ってたのにスルーはないんじゃなぁい?」

「もう色々あって疲れてるので、明日でお願いします」


 どうせ全部把握してるんだろうし。


「もう、つれないわねぇ……まあいいわぁ。それじゃあ一つだけ、私は貴方たちの味方だからね」

「それはもう、知ってますよ」

「あらぁ?」


 桜さんに教えて貰って、光太とこのなでしこ荘に来たときから、この人はずっと味方だった。

 だから今更、なにを知っていようと、どんな裏があろうと気にする必要はない。


「俺たちにとって、大家さんはただの大家さんですから」

「……ちょっと今の、キュンとしちゃったわぁ」


 最後のは聞かなかったことにしよう。


 階段を登り、自分の部屋に入ろうと思ってふと九条さんの部屋に光太を置いていたことを思い出す。


「……先にそっちだな」


 そう思ってチャイムを鳴らすと、バタバタと忙しい足音が鳴り響き、勢いよく扉が開いた。


「にいちゃ! お帰り!」

「おお、ただ……いま?」


 なぜ光太は全裸なのだろう?

 いや、まあ濡れているからお風呂に入ってたのはわかるのだが、だとしたら……。


「ぁ……一ノ瀬、さん?」

「え?」


 当然ながら、ここは九条さんの部屋。

 だから彼女がそこにいるのはいい。

 ただし、その恰好があまりにも問題だった。


「あ、え、あ……」

「……」


 光太が駆け出したからか、よほど慌てていたのだろう。

 今の九条さんは、お風呂上りで身体にタオルを巻いただけで、ほぼ全裸と言っていい格好。


 タオルから身体のほとんどの箇所は見えており、ギリギリ隠れている胸は大きいため零れ落ちそうになっているし、太腿から垂れる水はあまりにも色っぽい。

 

 正直、夢で見た光景よりもずっとエロかった。


 ――これは、ヤバイ!


 自分が思考が今大変なことになっているが、どうしても視線を逸らせなかった。

 せめて叫んでくれれば俺も動けるのかもしれないが、彼女はあまりにも突然の事態すぎてただ顔を紅くして目を回しているだけ。


「にいちゃも一緒にお風呂入ろー」

「光太……このままだとお前もお姉ちゃんも風邪を引くから、お風呂に戻れ」

「にいちゃは?」

「俺は自分の部屋の風呂に入って来る!」


 くっついて来る光太を地面に降ろし、勢いよく扉を閉める。

 そして自分の部屋に戻り、先ほどの光景が脳裏から離れず思わず座り込んだ。


「……くそ、綺麗だったな」


 本音を言うと、九条さんは俺のドストライクの容姿をしているのだ。

 そんな彼女の痴態を見て冷静になどなれるはずがない。

 

 これから、どんな顔で彼女を見ればいいのだろうか?


 そんなことを想いつつ、頭を冷やすために風呂に向かうのであった。




 八王子たちから事情を聞かされた翌日からも、俺の行動は変わらない。

 ただ、ゴールデンウィーク前とは色々と変わった関係もある。


 それは――。


「にいちゃ、おはよー!」

「おふ」


 俺の腹に突撃してきた小さな弟。

 今日からゴールデンウィークも終わり、学校が始まる。

 同時にこいつの幼稚園も始まるので、朝送っていかなければ……。


「光太さん、その起こし方をしたら一ノ瀬さんがビックリしちゃいますよ?」

「あー」


 俺の腹から光太が離れていく。

 見れば両脇を持たれ、空中に浮かされていた。


 それをした人物は――。


「……おはよう、九条さん」

「はい、おはようございます」


 制服姿にエプロンをつけた彼女は、すでに朝食の準備をしてくれていた。

 以前美味しいと言ったら、毎日作ると言ってくれて、俺も助かっているのでお願いした形だ。


「もう朝食も出来てますので、顔を洗ってきてください。その間にお布団、仕舞っちゃいますので」


 なんというか、あまりにも自然にそう言ってくれるのはいいのだが、どうしても色々と意識してしまう朝だ。


 エプロンをつけた制服姿の美少女が、朝を起こしてくれて、ご飯や世話までしてくれる。

 これは学校のやつらにバレないようにしないとなぁ……なんて考えながら顔を洗い部屋に戻る。


 するとそこには椅子に座った九条さんと光太が待っていた。


 俺も自然と彼女の前に座り、そして温かさの残る和食を見る。

 ほぼ毎日食べている、彼女の料理だ。


「いただきます」

「いただきますー!」

「はい、どうぞお食べください」


 ふと、もし桜さんが生きていたら、こんな光景が続いていたのだろうかと思ってしまう。

 そう思い、それは九条さんに失礼だなと思い直した。


 ただ、この味噌汁は毎日食べたいと、そう思うくらい心温かいもので――。

 

「九条さん……」

「はい?」

「これからもこの味噌汁、毎日食べさせてくれる?」


 つい自然とそう言うと、彼女はほんの少し頬を染めながら小さく頷いてくれるのであった。



 大和撫子との日々 fin



――――――――

【後書き】

ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。

普段はファンタジーを中心に書いてますが、久しぶりにラブコメを書くと楽しいですね!


これからはまた書籍化作業とか、連載の方を進めていく予定でので、良ければまたお付き合い頂ければ幸いです。

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大和撫子と過ごす日々 平成オワリ @heisei007

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