第9話 伝説のギャンブラー、ゴイ2

 2000グルダの金をぼろ切れに包みながら、ゴイはあの試験内容を思い返していた。


 ゴイが全財産を賭けたのは、まだ若い剣士ウェイン=シェリス。


 試験内容は陣取り合戦だった。約1000人の受験者を10の部隊に分け、それぞれの陣地の旗を守って戦うという単純なものだった。


 しかしかつての採用試験と違い、チームでの募集はされていない。


 そのため各々が人を見極めて協力者を決めなければならない。チーム決めで戦いが決まると言っても過言ではなかった。試験の前日、丸一日を使って行われたチーム分けは、地竜の街の中央広場で行われ、その様子も市民たちに公開された。


 見物人のほとんどは試験に金を投じたギャンブラーたち。


 あまりに多い人数に、お目当ての人物がどこでどんな動きをしているか探すことも一苦労だった。


 だが、安宿の屋根に座っていたゴイは、双眼鏡の内に正しくウェインの姿を捉えていた。何か光るものがある人物は、不思議と目立つのだ。


 チーム分けは、過去の試験で名を上げつつも合格に到らなかった者、明らかに見た目の強そうな者、良い武器を持っている者などから選ばれているのが分かった。


 武器自体は申し分ないものを持っていたウェインだが、その若い見た目から相手にされていないようだった。


 20、30ほどの集団が2つほど出来た頃からだろうか、まだ大勢が右往左往している時に、ゴイはウェインが不思議な動きをし始めたのを見つけた。


 ウェインはまだ所属先を決めかねてそうな、人物に積極的に声を掛けて、あっという間に100人を揃えると、広場から去って行った。


 同じように屋根上でその様子を観察していたギャンブラーが、


「どうなってんだ……」


 と狼狽えている。


 確かに、とゴイは思ったが、なぜあんな短期間にチームを作ることに成功したのか。それに、何を基準に人物を選んだというのか。適当に声を掛けただけでは、話はまとまらないハズだ。


「かたい所ばっかり揃ってやがる。少なくとも優勝はあそこだろうな」


 また別のギャンブラーが言ったとき、ゴイはウェインのあまりに早いチーム結成の方法に気がついた。


「オッズ表……!!」


 名も知らない連中と足並みを揃えるには、何らかの共通点、そして共通の目的が必要だ。


 この入団試験で行われる公営賭博は、試験の当日までなら受験者自身も自分に対してのみ金を賭けることが出来る。その金が入団祝い金の一部になるという仕組みがあるのだが、ウェインはそこに目を付けたのだ、とゴイは思った。


「他人を結束させるのに金は最も有効な手段……。オッズ表を覚えていたウェインは、倍率の低い、合格に近い連中に声を掛けて100人揃えたんだ」


 倍率の低い連中は、自分に賭けても実入りが少ない。


 そこへきてウェインは最高倍率を持つ男だ。


「自分と組んで自分を合格させられるなら、金を預かって賭けよう」


 おそらくそんなことを言ったのだろうと、ゴイは思った。


「恐るべき男だ……」


 ゴイは自身の審美眼に酔いながらも、ウェインの機転に驚いていた。


 オッズ表が出たとき、まだこのような形で試験が行われることは誰にも知られていなかった。その中で、彼はオッズ表が戦略上の情報になると察知して記憶していたのだ。


 翌日の試験当日。早々と100のチームを作りあげたウェインたちは、他のチームがどのような戦い方をするのか、自分たちの陣地が地竜の街のどこになるかを十分に話し合い、かつて行われた十二回の陣取り試験の内、もっとも早い時間で決着させた。


 また、入団試験開始以来、ドラグ=ナイツは最高額の入団祝い金を支払うことになった。


「勝つには理由があるということか」


 ゴイは金を担いで、次に試験、そして次のギャンブルが行われる水竜の街へと向かった。

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ドラグ=ナイツ 沢田輝 @sawadateru

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