第8話 チケット=スカッリオ その後

 ウェインとの一戦を終えたチケットは、はぐれた牙の連中を探して空を駆けていた。懐に持っていたゴーグルを装備して速度を上げる。風が鳴る。わずかに湾曲した地平線を視界の端に捉えるところまで浮上すると、護衛として付けられた部下2人がもともと馬車を引いていた馬に乗っているのが見えた。


「貴様ら、どこへ行く。ドラゴニアはそっちじゃないぞ」


 馬と併走するように飛んで、チケットが呼びかける。


「チケットさん! 生きてたんですか!?」


「まさか招集を無視するつもりか?」


 チケットが問うと、部下の1人は伏し目がちに言った。


「いえ、チケットさんの護衛に失敗したとなったら団長に殺されると思いまして」


「親父が俺を気にかけるものか。さっさと作戦に戻るぞ」


 チケットは器用に空中で身を捻りながら姿勢を整え、馬の背中に立って乗った。


「あのイカれたガキたちは返り討ちにしたんで?」


「……ああ、殺した」


 生かされたと言って得になることは何もないと、チケットは思った。


「流石は団長の一人娘だなぁ」


「余計なことを喋るな。ドラゴニアへ向かうぞ」


「え? 俺たちは三番隠し砦で待機するんじゃありませんでしたっけ?」


「気が変わった。単独行動へ出る。ついてこい」


 そもそも部下たちは今度の招集がどんなことをするのか何も知らされていない。


 チケットを放って砦へ入っても、やはりどんな扱いを受けるかは分からず、2人に選択肢はなかった。


「チケットさん、今度の牙は何をしようとしてるんですか」


「誘拐だ」


「招集をかけてまで誘拐? ドラゴニアの貴族を片っ端から攫おうって腹ですか?」


「……今に分かる」


 そして一行はドラゴニアへ駆けだした。

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