百合豚は異世界召喚されて追い出される〜足りない。足りないんだよ百合が! 異世界なんてクソだ!〜

ネリムZ

第1話

 この俺、俺の部屋は百合系アニメのポスターやフィギュア、漫画に小説にDVDで埋め尽くされている。

 キモイと言われる部類のオタクである。

 だが、俺にも信念がある。それは、百合物は正義と言う事だ。


 クラスメイトの可愛い女の子と女の子の絡み合いを妄想して授業を受けている。

 現実は、どっちが上かのマウント合戦だが。


 当然いじめられる⋯⋯と思われガチだが、俺がキモすぎるのか誰も寄って来ない。

 俺は自分でも漫画を描いている。実は結構売れているしファンも居る。

 同人誌も描いてたり。


 そんなある日、唐突に派手で露出の多い金髪の美少女が教室のドアを蹴飛ばして入って来た。

 窓がパリンと割れる。

 教卓の前に立った女は高々と告げる。


「我は女神。名も与えられておらぬ女神である。貴様らにはこことは違う世界、異世界に行って貰う。そこで戦争でもなんでもして争ってくれ。細かい事は言わん。異世界を楽しんでくれたまえ。質問あるかい?」


 誰も動かない。

 それりゃあそうだろう。この頭意味不明の女の言葉を理解する方が難しい。


「あの」


 まずは俺が動こう。


「はい。なんでしょうガリガリの見るからにキモオタの君」


 なんだよ。鞄の中に大量にぬいぐるみやキーホールドを入れてるだけだろ。

 見えてんのかよ。


「どうして行くんですか? 目標は? 目的は?」


「行く理由はクジで決まったから。目標はそうですね〜うーん。あ、じゃあ魔王デモンズロード討伐で。目的は⋯⋯あっちの文明を発展させる為」


「そうですか。他にも良いですか?」


「どうぞ」


「あっちにも国はあるんですよね?」


「そうですね」


「なら、ある程度の文明はあるんですし、行く必要ないですよね?」


「決まった事ですから」


「電気はありますか?」


「ありません」


「現代のようなトイレはありますか?」


「ないです」


「現代のような風呂は?」

「ない」


「車は?」「ない」

「自転車は?」「ない」

「漫画は?」「ない」

「小説は?」「ない」

「童話は?」「ある」

「ネットは?」「ある訳ない」

「電波は?」「ない」

「ポテチは?」「以下同文」


 成程、成程。


「僕は行きたくないです」


「無理です。規則です」


「それは、貴女方の規則でしょ? 俺達には関係ない」


「⋯⋯確かにそうだね。でも、人間風情の事情とか関係ないので」


「異世界に行ったら帰れるんですか?」


「知らない」


「家族にも会えませんよね? ゲームだって、アニメだってない! さらに、基本的に生活水準も下がる、なんで行かないといけないんですかそんな所!」


「君のようなオタクは異世界やったーなると思うんですが? チート能力もありますよ?」


「興味ねぇよ。そもそも俺が好きなジャングルは恋愛百合物だ!」


「そ。ま、決定事項だし。他に質問ある人居る?」


 家族に会えないと言う俺の言葉に教室中がガヤガヤし始める。

 ふ、さぁどう出る自称女神よ!


「はぁ。面倒くさ」


 指パッチンすると、教室の道具と言う道具が全て消えた。

 お、おお、俺のグッズまで!

 あいつ絶対にぶっ殺す!


「て、動けない?」


「君達さぁ、我さぁ女神、神なんだよ? お前らのような蛆虫のようなゴミなんて一瞬で消せるの? 社会人家族無しの方が確かに楽だし良いよ。だがな、今回はクジで決まってお前らになったんだよ。⋯⋯ま、このままだと本当に面倒くさいので、いい事を教えてあげよう」


 ひとつ、ごほんとする。


「異世界で暮らし、こちら側が用意した神獣を三体倒しせ、そしたらここに返してやる。しかも、時間もこの時間にだ。さらに、異世界で手に入ったスキルその他諸々全てこの世界でも使える。つまり、君達は勝ち組に確実に入れる切符を手に入れたんだ」


「だが、命の危険性もあるだろ!」


「強くなればいい。強くなって、そして生きたいと思えば生きれるさ。大丈夫、言語も分かるし、読み書きも出来るし、じゃ、目標適当に決めた魔王討伐から神獣討伐に変更ね。さぁ、現実世界に帰れるように神獣三体倒す目指して異世界ライフを楽しもう。あーもう面倒いので質問は受け付けません。さぁ、行って来い」


 一瞬の浮遊感、叫ぶ余裕もなく俺達の視界は変わった。


「おお、英雄達よ」


 王様か豪華な格好をしたおっさんが現れた。

 俺はそいつに詰め寄った。


「戻せ! 今すぐ戻せ!」


「無理じゃ」


 即決簡単安易な完璧で正確なクソみないな回答をどうもありがとうそして死ね!


「聞いて欲しい!」


 そう言ったのはクラスの英雄じゃなかった。

 クラスの級長イケメン親が大企業の社長で御曹司で高身長で頭も良い、つまり勝ち組の男が叫んだ。


「今、僕達の置かれた状況は理解出来てないかもしれない!」


 してんだろお前は。

 クソ女神とやらに異世界に強制搬送されて『帰りたい? 良いだろう。だったらこの世の何処かにばらまいた神獣を三体殺せ!』だろ?


 王様と思われる豪華なおっさんがキョトンとしている。


「僕達が日本に帰るには皆で協力しないといけない。そこで、クラスの輪を乱していたこの男は邪魔だと思う」


 何言ってんだよクソがあああ!

 お前俺と幼馴染やん! 昔仲良かったやん!

 途中で俺の方が運動も勉強も出来るようになってから疎遠になったけど!

 え、ちょと、ちょとちょと待って!


「確かにキモイし」


「デュフフってキモイし」


「百合最高ってキモイし」


「おい待て2個目の奴、俺はデュフフ、なんて言った事ねぇよ。最後の奴、百合の何がキモイんだ」


「百合物じゃなくお前がキモイんだよ! ガリ!」


 あんまり食べないので俺って結構体細い。

 ちょ、待って、まじでこの流れはやばいぞ。

 どうする。考えろ。

 クラスの輪を乱す⋯⋯いつ?


 文化祭の出し物、俺が提案したのは『百合アニメ鑑賞会』、演劇では『シンデレラ(百合バージョン)』などなど。

 畜生、なんか否定出来ねぇ。


「そう、分かった」


「へ、陛下?」


 王様の言葉に近くの人が反応する。


「なら、こいつを追い出せば良いのだな。運べ!」


「え、あ、はい! かかれ!」


「ふざけんなあああ!」


 せめて金寄越せええ!


 母さん、父さん、鈴菜(兄)、鈴音(弟)、海佐(姉)、海奈(妹)、俺、一文無しで何も分からない異世界に放り出されました。

 どうしてこうなったんでしょう? 百合豚だから?

 違うね。


「ぜってぇ嫉妬に狂ったあいつの差し金だろ! あのクソムカつく幼馴染イケメンやろうがあああ! そして、全ての元凶はあの露出狂自称女神のクソ野郎のせいだあああ!

 ⋯⋯あ、急に叫んですみません。すみません。すみません」


 周りの人達に頭を下げる。

 適当に歩き回り数時間、もう夜だ。


 キュルル、腹が減った。


 ギリギリの体を保っていた俺の栄養状態の影響か、俺はその場に倒れた。

 痛い。


「こんな、とこで、死ぬんかい」


 俺は意識を閉じる。



 いい匂いがする。

 それに目を覚ました俺の前には美味そうなスープがあった。


「おや、起きたかい。おたべ」


「遠慮なく図々しい頂きます!」


 う、美味い。喉に飯が湯水のように通る。

 美味いぞ! うめぇえええ!


「お、起きたか。家の前で倒れてたもんだから拾って来たんだよ」


 夫婦か、助かった。


 俺は現状を相談した。異世界召喚の事は控えて、一文無し、住む場所なしなどなど相談すると、夫婦がとある提案をしてくれる。


「俺は騎乗用の魔物を育てて売って暮らしてんだ。それを手伝ってくれるちゅうなら衣食住与えてやる」


「あ、ありがとうございます!」


 あんな自称女神よりも旦那さんの方が神に見える不思議現象。


「名前はなんですか? 俺は拓也って言います」


「タクヤか、俺はガンツ」


「私はアイク」


 ガンツさん、アイクさん、よろしくお願いします!


 仕事は魔物の小屋の掃除と毛並みの手入れやマナーの躾や特訓らしい。

 魔物、二足歩行の大きなトカゲや大きな狼などが基本だった。


「ワオ!」


「わぁ! び、ビックリした」


 ぺろぺろ舐めえて来る狼。

 そう言えば、どうやって掃除するんだろう?


「あの、どうやって掃除するんですか?」


「え? そりゃあこうだよ。魔力を我が声に応えよ、彼の者を綺麗にせよ、クリーニング!」


 一瞬で小屋が綺麗になる。

 ⋯⋯な、なんじゃそりゃああああ!


「い、今のは?」


「ん? 清浄魔法だよ。掃除に便利だろ。ガハハ」


「お、俺も出来るかな。魔力を我が声に応えよ、彼の者を綺麗にせよ、クリーニング!」


 なんも起こんねぇ!


「はは。魔法は簡単には覚えれねぇよ。ホウキとかはあっちにある」


「ど、どうも」


 魔法、本当に異世界やなぁははは。


 数ヶ月後。


 俺は狂っていた。


「はぁはぁ」


「ど、どうした? 頭でもぶったのか?」


「足りない」


「な、何が?」


「娯楽が! 俺の欲と言う欲を満たしてくれるぶつがないんですよ! はぁはぁ。あの、紙とペン借りて良いですか?」


「あ、ああ」


 俺はそれを受け取り、一瞬で漫画を描いて行く。

 同性愛者とそうでは無い女の子が同じ女子高に入り、紆余曲折を得て恋愛が発展して行く物語を描いていく。

 ダメだ、自分の描いた物ではダメなのだ!


「ああああ!」


「紙破ってどうしたあああ!」


 そして、この世界にはスキルと言う物があるらしい。

 最近知って、貯まった金を使ってスキル鑑定を受ける事にした。


「あの、よろしくお願いします」


「はーい」


 やる気なさそうな受付嬢な事。


 ・タクヤ

 ・スキル:スペルカード


「ぷっく、ふーはー、すーはー、スキル、い、くす、1個、くすくすあははははは!」


「最後まで仕事はしろよ!」


 内容を見せろ!


 ・スペルカード

 ・ユニーク、スペルカードを生成し扱う事の出来る力


 はい。分からない。



 家に帰り、日課の掃除を行っている。

 僕は魔法が使えなかったよ。クソ。


「ワオ?」


「よしよし、もうすぐ終わるからなぁ」


 俺の精神を落ち着かせてくれるのはこの魔物達だよ。

 さて、スキルを使ってみよう。

 使い方分かんないけど。取り敢えず言葉にしてみせるか。


「スペルカーとっ」


 噛んだ。


「スペルカード」


 瞬間、半透明のウィンドウのような物が目の前に出現した。


 ・前に出る

 ・伸びる

 ・曲がる


 などなど。

 ふむ。理解した。

 これあれだ。小・中レベルのプログラミング授業のような感じのプログラムをパズルのように組み合わせて作るようだ。

 1つ、作ってみた。


 ・手入れ

 ・毛ずくろい

 ・魔法

 ・雑菌排除

 ・癒し

 ・回復


 適当にやってみた。

 えっと、これで左下の作成をタップすると名前を入れる必要があるらしい。


「ん〜実験作その1っと」


 次に保存しますか、と来たのでYESを選択する。

 そして、1秒後に徐々にカードが生産される。

 出来たスペルカードを手に取って、狼に翳す。


「スペルカード発動!」


 スペルカードが光、消滅する。

 合わせるように、狼の毛並みが良くなったりして、狼が目を細めて嬉しそうにしている。


「す、すげぇ」


 プログラムとプログラムを組み合わせて新たなプログラムを作成する。

 そのプログラムにも名前を付ける。

 色々と試行錯誤を行い、良いのが出来た。


「発動!」


 小屋は新品のように綺麗になり、生き物達も体が綺麗になったりする。

 1枚のスペルカードで全て解決させる。最強だね。

 ただ、作る度にかなりの体力が使われる。土壇場で作成は危険かもな。

 さて、色々と作って保存はしておこう。

 寝る前に一気に作成しようかな?



 国から出て僕はスペルカードを発動させる。


 ・自動回廊

 ・魔力貯蔵

 ・現物化

 ・バランス調整

 ・騎乗者補正

 ・落ちない

 ・加速

 ・向かい風防止

 ・自動運転

 ・バイク


 ネーム:オートバイク


「スペルカード、オートバイク、発動!」


 目の前にバイクが現れる。

 見た目もこだわった仕上がりだ。

 何処が1番手をかけたかと言うと、カーナビである。

 これはDVDも使える仕様だ。


「ふ、スペルカード、アニメ『女の子同士で愛し合うのは間違ってますか?』DVD、発動!」


 アニメのDVDが出て来る。

 これ作んの大変だった。


 ・DVD

 ・記憶映像搭載


 一言一句思い出して、細かい所も思い出す。

 幼い頃から見て何百週としていたので問題なく作れた。

 自動で進んでくれるので俺はアニメを見るだけだ。


「はぁ、日本って最高やな」


 アニメを見て、涙を流しながらそうかみ締める。

 ここよりもパンはフワフワ、栄養もある料理が多い、インスタントもあり、コンビニもあり、何よりもネットやアニメの宝庫!

 新作アニメを見てないし、さっさと帰らなくては。


 目指せ日本! 目指せ百合豚マスター!


「⋯⋯やっべここ何処だ?」


 アニメに夢中に成ってたら森に入っていた。

 バイクは1時間後に消えるので、今はない。

 スペルカードで日本に帰る事は出来なかった。

 スキルは己が強くなると強くなる。

 いずれ、日本に帰れる力が手に入るかもしれない。


「ま、のんびりするか」


 ぶっちゃけると帰る事は普通に出来る。

 スペルカードで召喚する物は記憶か記録か、全てが引き継がれる。

 なので、バイクのナビを使えば普通に帰れる。


「ガルガアアア」


「へ」


 森の奥から現れたのは、大きな黒い狼だった。

 ⋯⋯無理。


「スペルカード、高速オートバイク、解放!」


 すぐに乗り適当に移動する。

 これには移動速度をあげるプログラムが沢山組み込まれた物となっている。

 これなら逃げ切れる⋯⋯この世界の魔物ってのを甘く見てたようだ。


 何故か既に横にいた黒い狼が爪を横薙ぎに振るわれバイク事吹き飛ばされる。

 木に背中が当たる。


「がは」


「ガルガアアア」


「スペルカード、ヒール、発動」


 体が癒える感覚。

 ⋯⋯なに、笑ってやがる。

 人を痛め付けて楽しいか?


 俺は珍しく、怒った。

 さっきアニメが見られたとは言え、今までの溜まった百合を見れなかった俺の精神状態のせいだ。

 全てのストレスを解消する様に俺はスペルカードを鞄から大量に取り出した。


「ガル?」


 首を傾げる狼。


「スペルカード、ヘルフレア、コキュートス、発動」


 地獄の業火と冥界の川のような感じのが出現し、大地を溶かしハゲにし、それを受けから凍らせて行く。

 激しく熱い炎が森の木を一瞬で飲み込み塵にして行く。

 大地をも溶かす。

 それを冷やして氷の山に変えて行く。

 どのくらいの範囲か分からない。

 俺の中でも最高火力だと思われるスペルカードを選択したのだ。


「ガ、ル?」


 ボロボロに成りながらも氷から出て来る黒い狼。


「スペルカード、聖なる槍、全て発動」


 大量の神々しい光の槍が空に出現する。

 1個1個が黒い狼に向き、一気に放たれる。

 目を潰さん勢いの光と大地を抉らんとする火力。

 確実に倒した。串刺しにされた黒い狼が目の前にいる。


「⋯⋯ッ!」


 その瞬間、体に何かが入って来る感覚があった。

 俺はスペルカード『鑑定』を使って己をチェック。


 スキル

 ・スペルカード ・闇操作


 な、なんか増えてる! でも闇ってなんか厨二くさいな。


 闇操作って凄いんだぜ。

 スペルカードでは今は使えないみたいだけど、影空間が使えるようになった。

 あいつが俺の横に現れたのは、木の影から出て来たみたいだ。

 広い空間を手に入れたので、この中にスペルカードを入れておく。

 服の隙間の影からスペルカードが出せるので、俺ととても相性が良かった。


「この死体、どうしよう?」


 魔物の死体の処理なんて知らねぇ!

 スペルカードに死体をアンデッドにするような力はないしなぁ。

 影に入れとこ。


 今度は大きな車を出して帰る。

 中には大きなテレビが搭載されており、何とかDVDが見られるので見て帰る。

 既に夜中だ。


「ガンツさん、アイクさん。ただいま」


「おう。帰ったか」


「こんな遅くまで何処に行ってたの?」


「北の方の森に行ってました」


「お、お前! なんでそんな危険な所に行ったんだ! スキル確認して浮かれるのは分かるけど、北の森に行く事ねぇだろ!」


「そうよ!」


 2人がどうして起こっているのか分からない。


「お、お前、本当に知識がないのな。明日、アドベンチャーギルドに行ってこい。そこで色々と学べ」


 冒険組合?

 なんでそんな所に。

 ま、2人が行けと言うのなら俺は行くけどね。


 翌日、そこに行って情報掲示板とやらを覗く。


「ふむふむなるへそなるへそ。北の森はAランク指定の魔物が多く存在する危険な場所、ね」


 ⋯⋯狼倒した後にすぐに帰って来た良かったあああああ!

 ヘルフレアやコキュートスのスペルカードは1枚しか持ってなかったし、まじで助かったあああ!

 良かったあああ!

 神様ありがとううう! じゃねぇ!

 その神にあの神せいでこうなってんじゃねぇか!

 2人が優し過ぎて忘れる所だったわ。マジで!


「おい、お前冒険者登録しないのか?」


「誰ですか?」


「俺はタツタツ。Cランク冒険者だ」


「冒険者って?」


 名前は触れないであげよう。


「冒険者とは、依頼をこなしたり魔物を倒して売ったりする⋯⋯まぁ自由な職業だな。色々とキャリラが詰める」


「成程フリーターか」


「ん?」


 魔物なら、コイツ売れるかな?


 俺はそんな事を思い影からおもむろに黒い狼を取り出す。

 ⋯⋯って、あんな血だらけな物をこんな所で出すとか頭イカれてんだろ俺!

 危ない。顔が出た。

 顔ならセーフ。


「いやあああ! なんでこんな所にシュバルツが!」


「もうダメだ。おしまいだ」


「アイルビーバック」


「死してなお一遍の悔いあり!」


 なんかすげぇ騒がしくなった。

 よし。帰ろう。逃げよう。そして寝よう。その前にDVDを見よう。そうしよう。さらば!


「あの〜そこの人、ギルドマスターがお呼びです。こちらへ」


「帰って良いですか?」


「この場にいる全員で全て貴方を捕まえます」


「行きます」


 現在目の前には禿げているおっさんがいる。

 そして、指でクイクイと動かしている。

 なんだろ?


 ギルマスが怒りを表情に表す。


「さっきのシュバルツを出せ」


「シュバルツってなんですか?」


 さっきのクイクイはそれか。さっさと言葉で言えよハゲ。

 それかスキンヘッド。


「黒い狼だ」


「ああ、あれですか」


 俺は影から黒い狼基、シュバルツを取り出した。

 ギルマスが近づき、シュバルツに触れて、顔を歪めている。


「本物だな」


「やばいんですか?」


「元々はAランクだったが、つい最近Sランク指定に上がった魔物だ」


 いや、分からん。SランクやAランクやら、どの程度の力か分からん。

 ま、Sだしかなりの強さだとは分かる。

 まじで出したの失敗だったな。


「こ、コイツを譲ってくれないか?」


「良いですよ」


「良いのか!」


「ええ」


 逆にギルマスにと問うぞ。

 俺に魔物の死体を持たせて何が出来る?

 解体? 加工? 出来ねぇよばーか!

 あぁ。すぐに悪口言ってしまう。まじで最近の精神状態やばいな。俺。

 つーか魔物の死体なんてなんで欲しいの?

 もしかして、ギルマスって変態!


「おいなんだその顔は! 違うぞ。魔物の死体は皮などが防具になったりするんが。Sランクともなるとな。言い値で買い取る。幾ら欲しい?」


「すまん。定価が分からん」


「俺も知らん。こんなの出回るのは王都などの大きな国だからな。魔石は何処にある?」


「おう。モンスターストーン?」


「モンスターストーン? なんだそれは、魔石とは魔物の心臓だ。何処にある?」


「知りません」


「解体している様子もないし⋯⋯まさか中か。これは1度解体しないと売値が分からんな」


「でも、こんな穴だらけで売れるんですか?」


「ここまでの大物だ。傷だらけなのは仕方ない。それでも高く売れる」


 いやーそれは楽しみ。じゃ帰ろ。


「待て」


「帰りたいんですけど」


「売値諸々決まるまで、待機!」


「断る! 断固拒否する!」


「なぜだ! ギルマス命令だ!」


「俺はここに登録してない一般市民だ! 上司でもないあなたの命令を聞く必要は一切ない!」


「な、何?」


「え、何その反応」


「その、登録してくれんか?」


「なぜに?」


「税金が取れないくて、こっちの利益が無い」


「どゆこと?」


 なんでも、冒険者が倒した魔物はアドベンチャーギルドが1度買い取り、商業組合ショップギルドに買い取って貰う。

 その時の売値から税金として少し奪われ、アドベンチャーギルドの利益になるらしい。


「成程。ではそれを俺が直々にショップギルドに渡しますね」


「定価が分からないのだろう? つまり、安く買い叩かれるのがオチだ」


「⋯⋯」


 ふん。否定出来んな。よかろう。

 登録しまーす。


 登録し、売るのもそこそこの時間が要するようだった。

 シュバルツの事があり、Cランク冒険者となった。


「⋯⋯冒険者、か」


 ちょー興味ねぇー。


 ◇


「ミスリルナイフでようやく切れるのか、流石はシュバルツと言った所か。褒めてやりたい所だな」


「そんなのどうでも良いですからギルマスも手伝ってください! 大きさも大きさですし、今日は徹夜ですよ」


「はぁ。定時帰りは今日もおわずけか」


「魔石、ありました。壊れてます」


「⋯⋯ま、まぁ。仕方ない、よな。そう。仕方ない」


 勿体ないと思うギルマスであった。


 数十日後、シュバルツの死体などはオークションに掛けられ、様々な国から貴族或いは王が現れた。


「成程。死体はまだ残っているのか」


 ◇


「アドベンチャーギルドから重い荷物が届いたわよー」


「はーい。アイクさん、それなんですか?」


「分かりません」


「ですよね」


 大きな木の箱が4つ。まじで重かったので捨てよかと思う程だった。

 1個目、ガンツさんとアイクさんと一緒に開ける。


「「ブフー」」


「えっと、確かこれは⋯⋯」


「ぷ、白金貨だ。金貨よりも1つ上の硬貨だ」


 それが、木の箱にびっしりと。

 あ、手紙がある。


『タクヤ、ショップギルドがオークションに掛けて様々な貴族達から高値で買い取られた。結果として、目が痛くなる程の金になった。ショップギルドに口座でも作って入れる事を進めるぞ。使い方には気をつけろ。それと、念の為にお前用の素材も半分残ってるから2個の箱にあるから、まぁ有意義に使ってくれ。我々アドベンチャーギルドも良い利益になった。今後共よろしく! アドベンチャーギルド代表、マスター:ガリレオより』


 はは。はぁ。

 今頃アイツらはどうなってんのやら。



 ◆



 拓也達のクラスメイトは特訓して、スキルを磨いて、北の森へと来ていた。


「ほ、本当に森なんだよな?」


「あ、ああ。氷の山だが、森だった筈だ」


 強くなった証拠にAランクモンスターをボコボコにする予定だった。

 他の生産に特化したスキル持ちは色々な武器などを作成していた。



 ◆



 2箱目、金額がびっしり。

 3箱目、シュバルツの毛皮。結構モフモフで目玉が飛び出そうになった。

 4箱目、骨や爪だった。



「「「いやああああああ!」」」


 誰でも骨見たらビビるわ!

 あのギルマス趣味悪いだろ絶対! 絶対! そーうーだー!

 はぁ、心の叫び、最近増えたなぁ。


「あ、日課して来ます」


「こ、こんなのこんな所に放置するな! 怖い!」


 ガンツさん達にお礼も兼ねて全て渡そうとしたら、「白金貨1枚でお釣りも来るよ」と1枚しか取ってくれなかった。

 俺1人分の食費などがそれだけで収まると。

 はは、怖いなたしかに。

 影に永久封印確定案件いぇーい! はぁ。


「ワフ? ワオワオ」


「ほらほらこっちだよー」


 狼とランニングをしていると、二足歩行のトカゲが俺に飛び付いて来た。


「あははは。くすぐったいよ」


 いやーこの日課だけは癒される。


 そんな日々を続けていると、新たな訪問者が現れた。

 最近はスペルカード作成、体力切れでぶっ倒れる生活を続けていた。


「はい。どちら様で」


 ガンツさんはお店の方に出ていて、アイクさんは買い物に行っている。


「ああ。入るよ」


「ダメです」


「⋯⋯え?」


「いやいや。なに当たり前のように入ろうとしているんですか? 頭湧いてんじゃないの? 要件はなんですか? 不法侵入ですか? 兵士呼んできますね。兵士さーん!」


「あほか! 我の顔を知らんのか!」


「知りません」


「お、お前! この方に対して、不敬だぞ!」


「よい! 剣を収めよ! そのな。シュバルツの素材を買い取りたくて来たのだよ」


「あ、良いですよ」


「まぁ、レアな素材だ。Sランクで珍しく魔物の素材だ。譲りたくないのは分かる。だが、我もきちんとしたネタを持って来た。それでは取引に入ろうか」


 あ、そこは途中で気づいて「ええええ!」ってならないんだ。

 あの切り返し見て見たかったのに。


 見た目的に貴族のようだ。どんな貴族か、何処の貴族か、知らない。興味もないので聞きもしない。


「それでは、まず、そちらの素材を貰うに対して、貴方が受け取ったであろう金の倍を払おう」


「結構です」


「そして、我の1番の鍛冶師と縫製師を紹介し、骨で武器、毛皮で革防具を作らせよう。さらに、何か要望があれば家具も用意しよう。折角の高価な毛皮だ。家具にも使いたいだろ」


「結構です」


「どうだ? これで、取引をしてくれないか?」


「結構です⋯⋯じゃなかった危ない。危ない。あの、俺の話聞いてます?」


「いや全く」


 コイツ、殴りてぇ。


「では、その半分の値段、俺が貰った金の量で、素材を半分、骨に関しては全て渡しましょう」


 折角だし、スペルカードでいずれ使えるかもしれないので、毛皮は貰っておこう。

 骨は⋯⋯正直怖いので渡しておく。


「ふむ。分かった」


 あっさり交渉が終わった。

 白金貨の入った箱を見せて、そこにプラス1枚を伝える。


「了解した。追って送ろうと思う。武器に関して要望は? あと、身長諸々」


 結構やり手かもしれないこの貴族さん。

 ま、よく分からないまま話が進んで行っているけどね!

 はは!


「あ、それとぜひ良ければ我の商会に来て欲しい。奴隷を安く売ろう」


「奴隷!」


「あぁ。呪印に寄って主の命令には絶対に従う者の事だ」


「犯罪じゃないんですか?」


「蜜流、誘拐での奴隷は違法だが、家族に売られたり犯罪者だったりは問題ない」


「そ、うですか」


 日本人的には奴隷はNGかな。

 しかし、そこで俺はある欲望が出て来た。

 1度でたら止まらない欲望。

 それは、可愛い女の子2人の奴隷を買って、2人を恋愛に発展させると言う欲であった。

 貴族が帰った後、渡された名刺? を見る。


「カクバル王国、か」


 全く、何処だよこんちくしょう。


 カクバル王国、ミンク公爵、ミンク商会会長


 数日後、ガンツさんに地理を聞いて、俺は行く事にした。

 バイクたのっしー!

 ちなみに無免許運転なので日本でやったら即アウト!

 都会人に車は要らん。

 免許取る金があるなら推しに使え、俺の座右の銘だ。


 数時間も掛けて到着。

 商会の道を適当に聞いて、その場所に向かう。

 中に入り、名刺? を見せると、受付の人が驚いて急いで奥に向かい、出て来るのが前のおじさん。

 ミンクさんだ。


「いやはや。ここまで速く来るとわ。ちょうど良かった。前のお金をお渡ししますね」


「あ、それで奴隷買います」


「それではこちらに来て下さい」


 ミンクさん、あんたボスなんだろ? 1人の客相手してていいの?


「あんな良質な素材をくれた方をそんじょそこらの人に相手をさせる訳にはいきませんよ」


「いい性格してますね」


「ありがとうございます」


「皮肉です」


「こちらです」


 案内されるがままに来た所は牢屋が沢山ある場所だった。


「どゆな奴隷がお好みですかね?」


「可愛い子で」


「(性奴隷が要望ですか。強い人はよく求めますね。白金貨ですし、なるべく高い物を、そして少し割引を効かせる。これで行こう)では、こちらです」


 最初に見せてきたのは巨乳の大きなお姉さんだった。


「エルフです。処〇です」


「あ、性癖的な欲望はありますが、性的欲望はないので、他のをお願いします」


「(あ、あれー?)」


「あ、でも純潔の方が良いかも」


「(意味不)」


 つーかこのミンクさん。

 なるべく高い奴選んでそうだな。

 ま、いいや。


「13人め、この子です」


 ふむ。見た目はだいたい高二辺りかな?

 大人の顔立ちをしながら本の僅かに幼さも残っている。

 体付きも無駄に色気がある訳でもない。

 奴隷的な服装のせいか、艶めかしさがあり、見る人が見たら1発で一目惚れしそうな美貌を持っていた。


「この子買います。他にもあと1人お願いします」


「(やっとお眼鏡にかなったあああ! 大抵の男は巨乳で買ってくれるのに、成程、この方は貧乳が好み、と。だったら!)」


 次は小学生だった。

 こんな子供まで奴隷になるんだな。なんか、見てて苦しさがある。

 それに、小学生が百合物に出ちゃダメでしょ?

 茶番に見えてしまうんだよな。勿論好物の1つだけど。


 ま、流石にこれは無しだな。


「25人目です」


 さっき買った奴隷のようなルックスの良い人だった。

 よし、買った!


「ありがとうございます!」


 今日は遅くなると言っているので、この国の宿でも取る。

 奴隷を買っても余った金を受け取り、ミンクさんの紹介状を貰って高価で大きな宿に泊まった。

 いや、もうホテルだ! 2人の美少女連れてるしラ〇ホ紹介それかもしれん!


 俺は2人に向き直る。

 そう言えば、ガンツさん達やこの子達にもシュバルツの毛皮で服を作って貰うかな?

 あれ防御力高そうだし。


「まずは風呂に入っておいで」


「「⋯⋯はい」」


 そう言えば、なんか奴隷に種類あるらしいけど、この2人はどの種類だろう?

 ま、どうでもいいや!


 取り敢えず、買った奴隷の事が書かれた紙を見てみる。


 ・ネーム:ミク

 ・スキル

 ・体力強化 ・体力急速回復 ・性欲制御 ・精神保護 ・感情移入

 ・状態

 ・無経験


 ・ネーム:リン

 ・スキル

 ・体力強化 ・体力加速回復 ・性欲制御 ・精神保護 ・夜目 ・聞き耳

 ・状態

 ・無経験


 ミクは銀髪碧眼、リンは金髪に琥珀色の瞳だった。

 2人が風呂から上がってくると、タオル1枚で虚無の目をしていた。


「なんでタオル1枚なの?」


「「⋯⋯すみません」」


 え、なんで謝るの。


 そして、2人はタオルを脱いだ。


「いや、なんで脱いでんねん! スペルカード、女生徒用制服、解放!」


 2人に似合う制服を用意して着させる。

 一瞬で制服になった2人は驚愕している。


「なんで脱いだの!」


「え、え? わ、たし達、性、ど、れい」


「う、うん」


「は、じめ、て、こわい、けど、やらないと、ころされる、こわい」


「うん、うん」


 なんか泣き始めたあああ!


「そんな事しないよ! ただ、命令には従って貰う」


 数分後。


「おお、良いね。お、うん! そ、その目線! 良いぞ!」


 パシャリと写真を撮る。


「「(何この状況)」」


 ミクがソファーに座り、その膝にリンの頭が乗っている。

 そう、膝枕だ!

 クール系2人なので凛々しい絵が取れる。

 あ、やばい鼻血が。


「ご主人様、どうしてこれであんなに喜んでいるんだろう?」


「ミク、これ喜んでいるの? 壊れてない?」


「感情移入のスキルで相手の感情が分かる。間違いなく高揚している」


 久しぶりの百合絵。

 しかも、生!

 あれ? 異世界って、案外良い場所?


 と、俺も風呂入ろう。

 水属性と火属性の魔石を組み合わせた物に手を当てると、勝手に魔力が吸われてお湯が出て来る。

 大体温度は32度くらいでぬるい。

 シャワーは無いので、水を溜めてかけるだけ。

 しかも、シャンプーもボディーソープもない。

 それに似たような物はあるけど、ネバネバして使いたくない。


 前までは使っていたけど、今は要らない。

 何故なら、スペルカードがあるから!


 風呂を上がり、効果時間の切れた制服が消えたので、今度はリンをナースにミクを患者服にする。


「で、リンはミクの奥にある物を取るように少し乗りそうな感じで⋯⋯あ、そうそう」


「で、ミクはリンが近づいて来て、胸元が見えそうで顔を逸らす」


 よし、いい感じ!

 ま、実際は逸らすよりも瞑った方が良いんだが、逸らした方が良い。絵面的に。

 いやーカメラの中のデータもスペルカードのプリントアウトを使って紙に移せば永遠に保存出来るから最高だぜ!


「と、晩御飯だな。確か1階で食べれる筈だ。行こ」


「「⋯⋯?」」


「どうした?」


「私、達。奴隷だ、よ? こんな、立派、な。所で、ご飯を、食べれる、資格、ない」


「はは。そんな下らい。そんなの誰が決めた? 法律か? 違うなら問題ない。行くぞ!」


「は、はい」

「うん」


 2人を連れて豪華なご飯を食べる。

 いやー俺元気もりもりで今日は良く食べれて良く寝られるわー。

 奴隷の証のせいか、俺のマナーが悪いせいか、周りからは悪目立ちか! あはは!


 車を呼び出すと2人は驚いていたが、取り敢えず乗せる事にする。


「そうだ。護身用にスペルカードを渡しておくよ。危なくなったらこれを持って、心の中で発動! や解放! って感じで使えるから。言葉に出しても問題ないよ」


「なにこれ?」


「意味が分からない」


 2人はスペルカードに興味心身だ。

 百合系アニメを見るのは止めて、CDでアニソンを流して帰る。

 アニソンに驚いている2人は子供に見えた。


 国に戻ったら2人用に宿を一時的に借りて住まわせる。

 そして、俺はガンツさん達に話をする。


「今まで沢山お世話になりました。俺は、そろそろ自立したいと思います。これ、心許ないですが、お礼です!」


「20枚も要らないよ。そうだな。お前の思いを汲み取り、2枚だけ貰っておく」


「そうね。私達も楽しかったよ」


「ガンツさん。アイクさん。お世話に、なりました」


「だが、年に数回は帰って来いよ?」


「はい。俺にとってここは実家のような物ですから」


「それと、絶対に1年後には帰って来い!」


「は、はい?」


 ガンツさんが本気の顔をし、アイクさんがお腹を摩る。

 俺は察した。そうか。


「おめでとうございます!」


 それだけ行って、荷物は影の中なので出て行こうとしとら、ガンツさんに止められる。


「あの2匹、連れて行ってやってくれ。アイツらは俺よりもお前に懐いているからな」


「良いんですか?」


「ああ!」


「ほんと、ありがとうございます」


 俺は庭に向かう。

 そして、狼のヒリ、二足歩行のトカゲ、確か地竜だった気がする。地竜のチリを連れて俺は家を後にした。

 いずれ、絶対に恩返ししよう。そう、心に決めて。


 宿主に言って2匹を預かって貰い、部屋に入る。

 部屋に入ると、リンが地面に仰向けに倒れ、それを抑えているような格好のミク。

 2人の服は適当に買った物となっている。


「ご、ご主人様、こ、これはその!」


「ご、誤解です」


「いや、良いんだ。俺はR18でも全然OKだから! 見てるから続けて!」


「違いますぅ!」


「違うんですぅ!」


 別に、隠さなくてもいいのに。

 寧ろそうであってくれ! マジで!


 なんでも2人で話して、風呂に入ろうと立ち上がったミクが慣れない服に足を取られ、倒れた所にリンが居て、リンを押し倒した格好になったようだ。

 で、そのタイミングで俺が来たと。


「いいんじゃないかな?」


「「何が!」」


 ポコポコされる。

 別に良いじゃないか。俺は好きだよ。そう言うの。


 風呂にお湯を入れて、スペルカード『温度上昇』を使って42度に上げる。

 俺はこのくらいが普通で好きなのだ。


「あ、あちゅい」


「うん。暖かい」


 数秒浸かってホンワカな顔をする2人。

 そして、2人は俺を見る。


「どうして入ってるの?」


「一緒に、いるんですか?」


「入らない。気にしないで。2人で風呂に入る姿を録画する為にカメラセットしているだけだから。終わったし、じゃあね!」


 2人が上がって、カメラを確認すると、真っ白だった。

 ま、湯気で見えなくなるよね。知ってた。

 悲しくないよ。

 ほんとだよ。悲しく、なんか、ないもん!


「折角の百合サービスシーンが。楽しむのはボイスくらいか」


「「ッ!」」


 ポコポコされる俺。

 俺も風呂に入る。


「今後の事、どうしようかな?」


 金は結構あるだろうし⋯⋯家でも建てようかな?

 2人の百合的関係を支援する為にも金は必要だ。

 そこで俺のスキルだよな。


「ユニーク、唯一無二のスキル」


 スペルカードは絶対に金になる。

 そうなると、ミンクさんの所でやろうかな?

 ま、それは2人とも要相談だな。

 2人の望む場所じゃないと、恋も進まないと言うもの。


「ふへー」


 1時間と風呂に入っていたら、心配した様子の2人が風呂に入って来た。


「い、生きてたァ」


「心配させないでくださいです!」


「あはは。すまん」


 ミクとリンは長風呂の経験はないのかな?

 ま、上がるか。

 取り敢えず、1度出て行ってくれ。


 翌日、2人と一緒にこの国に居るのは最後なので、散歩する。

 ヒリとチリにお土産も買っておかないとな。


「ふんふん」


「ミクって散歩好きなの?」


「は、はい。好き」


「そっか。リンは?」


「家でゴロゴロしている方が、好きです」


「素直でよろしい。2人で恋人繋ぎしてくれないか?」


「「えー」」


「2人は2人ともの事が嫌いなの?」


「「うんうん」」


「じゃあ、お願い」


「「むー(ご主人様と繋ぎたい。ばか)」」


 2人が手を繋ぐ。恋人繋ぎではなく友達繋ぎだった。

 ま、良いだろう。

 一気に距離を詰めた感あってもつまらないからな。

 しゃーない。


 そんな事を楽しみながら散歩してると、懐かしいの奴らを見つける。


「お、お前は拓也!」


「お、お前は⋯⋯」


 やっべー見た目は分かるのに誰か分かんねー。

 イケメン、イケメン、名前が思い出さない。


「僕の名前を忘れたのか。僕は太陽」


「そうそう。で、なんだ?」


「そこの2人はどうした? お前のようなキモオタに女が出来る訳ないよね? それも、美少女2人って」


 ミクとリンが俺の背中に隠れる。


「なんの用?」


「なんだよその態度」


「いや、思い出したんだよ。お前のせいで俺がこんな生活をしているってな」


 今の生活最っ高なので追い出してくれてマジでありがとう。

 やっぱり感謝した方が良いかな?


「ま、ありが⋯⋯」


「ねぇ、2人共。こいつは気持ち悪い性癖があるんだ。君達も危ない。僕達と来ると良い。悪いようにはしない」


 そう言って、手を伸ばす太陽。

 後ろのクラスメイト⋯⋯名前知らんけど、そいつらも同調するようにウンウンと頷いている。

 それは困ったな。折角いい写真撮れてるし、シュバルツの毛皮で服も頼んだのに。


 ま、こいつらが行くと言うなら俺が止める筋合いないな。

 変な性癖⋯⋯変?


「おい待て太陽」


「な、なんだ?」


「俺の性癖は百合物が好きって事だよな?」


「ああ」


「てめぇ。それの何が『変』なんだ! いっぺん死んで日本に転生して地球全ての同性愛者とそう言う物が好きな人に謝ってこい! それになぁ。クラスメイトの女の中にもいるだろBL好きがよぉ! お前がどんな偏見を持っているか知らんがなぁ、俺の性癖を変って言うのは許さねぇ! どこが変だ! 同性を愛して何が悪い! 何がおかしい! 何が変だ! そんな昭和平成昔を持っているお前が──1番変だカス!」


「き、貴様!」


「わ、私行かない! 私はご主人様と居る。あ、貴方、キモイ」


「うん。怖い」


「君達は洗脳されているのかい? こいつのスキルで」


「違う。ご主人様がちょっと変なのとキモイ所は認めるけど、ご主人様は貴方と違って、そんな薄い言葉は言わない」


「うん。ご主人様は変だけど、とってもとっても変だけど、私達のような底辺でも優しくしてくれる。他の所に行く必要はない」


 2人とも⋯⋯⋯⋯泣くよ?

 目がうるうるして来た。


「おい拓也!」


「はい拓也」


「僕と決闘しろ」


「だが断る!」


「何故だ!」


「俺は折角のゆったりとした時間を邪魔されるのが1番嫌いなんだよ。お前が1番の立場を奪われるのがムカつくように、俺も俺の娯楽を楽しんでいる時に邪魔されるのがムカつくんだよ!」


「その子達を掛けて闘え!」


「そもそも、2人は俺と一緒に行くと言っているのにどうして引き剥がす! あれか、クラスメイトよりもこの2人の方が可愛いから、そんな美少女に囲まれたミニハーレム状態の俺が気に食わいってか!」


『は、はぁ!』


 キレる近くの女子達。


「くっ!」


「「〜〜〜〜〜(か、可愛い⋯⋯)」」


 図星かよ。きっしょ。

 流石に引くわー。俺は見るのを楽しむのでハーレムに興味ないんだけど。


「決闘するまでここは通さん!」


「だったら違う道行くわ!」


「⋯⋯くっ、⋯⋯⋯⋯良いのか?」


「ん?」


「僕達は英雄と呼ばれている? 知ってるだろ。この国にいるなら」


「知らん」


「なん、だと」


 怯んだ太陽は拳を握る。


「他の国に僕達がお前の悪い事を広めたら、お前は行きにくいだろうなぁ?」


「⋯⋯それは脅しか? 脅迫罪だぞ」


「違う。これはもしもの話だ」


 脅しにしか聞こえんが。

 仕方ない良いだろう。


「分かった。場所は?」


「アドベンチャーギルドの訓練室だ!」


 あそこめっちゃ行きたくいなんだけど!


 アドベンチャーギルドに入ると、英雄クラスメイト達を見て、俺を見る。


「闇狼殺しだ」


「めっちゃ穴空いてたけど槍持って無かったんだろ?」


「影に入っているって噂だぜ」


「山を氷山に変えたって噂だ」


「つまり、相当の魔法使い?」


 俺の方が目立ってらぁーやっべーイケメン君は目立つ事を生きがいにしているから面倒になるー。

 さっさと終わらせようギルマスが来たら嫌だ。


 訓練室で太陽は綺麗な剣を俺に向ける。


「こい! お前の腐った性癖を叩き斬ってやる!」


「叩くか斬るかどっちかにしろ! そして俺の性癖は腐ってねぇ! ぶっ殺すぞ!」


「武器を構えろ」


「構えてる!」


 俺は数枚のスペルカードを手に持っている。


「よーい初め!」


 審判の人が初めの挨拶をする。

 俺がスペルカードを作っているうちに考えたコンボを発動させる。


「スペルカード、水、発動!」


 周囲に水が出現する。

 それを剣で弾こうとする太陽。


「スペルカード、氷、発動!」


 水が凍り、太陽の動きを拘束する。


「スペルカード、炎雷風撃、発動!」


 炎と雷の合わさった風が太陽に向かって飛来する。

 氷を破壊しながら突き進み、動けない太陽はそれを諸に受ける。


「うあああああ!」


 無様に吹き飛び、気絶する。

 案外すんなり倒せた。


「ふん。無様なもんだ」


 ミクもリンを連れて俺はアドベンチャーギルドを後にする。

 ギルマス来なくて良かったー。観客席無くて良かったー。

 英雄倒した闇狼殺しなんて嫌だしな。


 翌日の朝、俺達は国を出て車に乗っている。


「じゃ、前の場所目指してレッツゴー!」


「おー!」


「ですー!」


 アニソン爆音で流して行きますよ。

 自動なので俺は寝てる。

 皆と寝てる。

 俺が真ん中で川の字である。


「いや、これはダメじゃね?」


 ちゃんと2人で並ばないと意味ないだろ。全く。

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百合豚は異世界召喚されて追い出される〜足りない。足りないんだよ百合が! 異世界なんてクソだ!〜 ネリムZ @NerimuZ

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