遠くて近い、近くて遠い?
荒川馳夫
不自由も悪くない?
「みなさんのご両親の時代は、今ほど便利ではありませんでした」
私は中学校に通う女の子。ただいま、社会の授業を受けている。
年配のおじちゃん先生が現代の歴史を詳細に説明していた。正直、退屈だったが、次の文言にはとても驚いた。
「スマートフォンも携帯電話も、パソコンすらもない時代がつい最近まであったのです」
えー……。今聞いてる授業よりも、退屈に感じそうな時代じゃん。
退屈に耐えられなくて、死んでしまいそう。
(便利な時代に生まれて良かった。さて、放課後に連絡しなきゃ。アイツ、今日は何してるのかな?)
交際相手との会話を楽しみにしつつ、その後のつまらない授業も私はのりこえた。
「ああ、イライラする!今日は話したくない?こっちの都合も考えなさいよ。それだけを楽しみにして、今日を生きてきたのに」
交際相手に話すことを拒まれて、私は不満を態度にあらわした。
毎日、放課後に話すことが当たり前だと思っていたから、裏切られた気分になった。
「私たちも終わりかなぁ。スマホで簡単に話せるのに、上手くいかないよ……」
話せない悲しみを胸に抱き、私は帰宅した。
「元気ないな。どうした?学校で嫌なことがあったのか」
夕食をとっている最中も、私はがっかり調子であった。それを感じ取った父が声をかけてくれた。
「ああ、いや、実はね」
社会の授業中に聞いた言葉と、放課後の出来事を両親に話してみた。
「昔より、ずっと便利になったんだよ。どうして、彼氏と上手くいかないんだろう?いつでも話せる時代になったのに」
そう言った途端、父は大笑いをした。なぜだか分からなくて、私は父に理由を聞いた。
「お前はまだまだ子どもだなあって。いつでも会えるから仲良くなれるわけじゃないよ。それに、文字だけで会話してるんだろ?相手が本当はどう思ってるかなんて、分かりっこない。電話越しに話してる昔と変わらないよ」
うぐぐ。確かに文字だけで交流しているから、アイツが本当はどんな状況にあるのか分からなかった。もしかしたら、ほかに優先すべき事柄があったのかもしれない。
「俺たちは遠距離恋愛をしてたんだ。めったに会えないから、顔を合わせて話をすること自体が貴重な体験だったよ。服装や髪型とかも熱心に考えておくんだ。予定のはるか前の時点でね!」
「そうだったんですか。わたしと同じだったんですね」
それまで聞くだけだった母が口を開いた。とても、嬉しそうな感じだった。
「へえー、そうだったんだ。はじめて聞いたよ」
「電子画面で話すよりも、その彼氏さんに直接会って話してみな。不仲が解消されるかもしれないぞ」
私は父のアドバイスを素直に受け取ることにした。
「久しぶりだな。〇〇と顔を合わせるのも。前はすまなかった。調子が悪くてさ。心配させたくなかったんだよ」
彼氏が私にそう告げた。照れているようにも見えた。
「んで、話しってなんだ?大切なことなのか」
私は一言だけ、彼氏にこう告げた。
「顔が見られてよかった!これからもよろしくね」
彼氏は私にむけて不思議そうな視線をおくってきた。
でも、どこか嬉しそうな感じにも見えたのだった。
遠くて近い、近くて遠い? 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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