第9話

  幕間。



 そこは総合病院だった。

 街とは相反あいはんし、そこはまさに夜の静けさに溶け込んでいた。夜の十二時になったというのに、街は相変わらず活発なままだ。


「真紀子さん」

「なんだい」


 診察室のなか。笠井真紀子かさいまきこの名を呼んだ男性はひどく楽しそうだった。


「あいつのこと──少しでもわかったの?」

「まあ、順調だろう」

「あ、絶対順調じゃない口だぜ、それ」

「見抜かれたか」


 と、冗談ぎみに真紀子は舌打ちした。

 男性は今の一瞬まで楽しそうに笑顔を浮かべていたというのに、すぐに誰かを呪い殺そうとでも考えていそうな、そんな憎たらし気な顔を浮かべた。


「あーあ。早く殺してやりたいよ」

「まったく、ならそこらへんのじじいどもを殺しにいけばいいだろうが。あ、仮に捕まったとしても私の名前は出すなよ?」

「ふざけてんの、それ。つか、オレが言ってんのはさ──」

「わかってる。まだ我慢しろ。私にだって調べたいことはまだあるんだ」

「えー、次はオレの番だろ?」

「君の番は、まだあとだっての」

 

 男性は諦めたようにため息まじりに「あっそう」と言って、目をつぶって、診察室にあるベッドの上で眠ってしまった。


「まったく血の気が多いこと」真紀子は呆れると言わんばかりに言った。「本当に君には困るよ、八神くん」


 真紀子は、眠っている男性に視線を向けて、そう言った。



     一章・了

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八神奇譚~藍沢探偵はヤクザの用心棒~ 静沢清司 @horikiri2

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