第7話 寛子VSマリキータ!?

「〝バインディング・リドン〟通り、クラックトポット三番地の奥!!」


アタシは、拳を握りしめついガッツポーズをしてしまった!


目を覚ましたベアトリスことアタシは、目覚めてから無口になったジュリオを引き摺り。

諸悪の根源の根源である、マリキータの家に辿り着いた。


歩く、道すがら。

人々が顔を引き攣らせて、サーっと路肩に避けていったのは、きっと気のせいだ。


あれだ。

映画で見た『モーセの十戒』みたいに、道が開けたから。

思いの外、早くついたんだと思う。


つか、OLの脚力と圧力舐めんな。


「ベアトリス様……いや、ヒロコ様」


敵地目前にして、ジュリオが初めて口を開いた。


「んだよ」

「本当に……何をされるつもりですか?」

「元の場所に。適材適所になるだけの話。それをチキチータかマリキータかに、話すんだよ」

「今、こういうことを言ったら。ヒロコ様が怒るかもしれませんが」


困ったような、苦しそうな。

変な表情をしたジュリオが、煮え切らない態度でアタシを見つめる。


イタズラをしてバレた犬みたいなジュリオの顔に、アタシは思わずため息が出た。


「怒らせるようなことなら、なんで敢えて言おうとすんだよ、ジュリオ」

「好きかもしれません」

「は?」

「あなたが、好きかもしれません」

「誰を? 誰が?」


ジュリオの言わんとしていることが、全く分からなくて。

アタシは詰問気味にジュリオに言った。


「あなたをです。ヒロコ様」

「はぁぁ!?」


つーか、アタシが殴ってアルコールを飲ませたのが悪かったのか?


と、少し心配になるジュリオの言葉。


アタシは一気に肩の力が抜けてしまった。


「ジュリオ。あんた、それ、今言うこと?」

「今言わなきゃ、あんたは帰ってしまうんだろ? の世界に」

「そりゃそうでしょ」

「だから、その前にちゃんと思いは伝えなきゃと!」

「……あんた、どっか変なスイッチ入っちゃった?」

「いや、俺は正気だ」

「正気のヤツが言う言葉じゃないだろ」

の世界に行くんなら、俺を連れていってほしい!」

「はぁ???」


やべー、マジで変なとこぶつけたかも。


ジュリオの目や態度は真剣そのもので、嘘や冗談じゃないって分かるだけに。

アタシはジュリオを殴って、ワインをがぶ飲みさせたことを後悔した。


アタシのやってることって、あっちの世界のベアトリスと変わらなくね?


「とにかく!! ジュリオ、あんたちょっと頭を冷やしなよ!! 途轍もなく変な事言ってんぞ?」

「いや!! 俺は正常だ!! エール(※ビール)を飲んでゲップせずに主要都市を二十言えるぞ! それくらい正常だ!」

「一体何の正常の基準だよ、それは!!」


「人ん家の前でギャーギャー騒いでんのは誰なの!? 落ち落ち寝てられないじゃない!!」


怒号と共に。

いきなり強風がアタシとジュリオの間を掠める。目の前の、諸悪の根源の根源である魔女の家の玄関がバタンと大きな音を立てた。


「あ……」


目を丸くして固まるジュリオが、短く声を発した。


薄紫色の長い髪に、派手な化粧をした……そう、夜の繁華街にいそうな。

露出高めの服を着た女性が、アタシたちを鋭い目つきで睨んでいる。


あぁ……なんとなく。

こういうタイプは、よく知ってる。


アタシは、色々察しがついてしまった。


「あんたが、チキチータ? マリキータ?」

「マリキータだよ!」


アタシを一瞥したマリキータは、不機嫌そうに大きな欠伸をする。


「あんた、ベアトリスじゃないね」

「分かってるなら、話は早い!」


アタシはメンチを切って、マリキータに詰め寄った。


「アタシを元の世界に戻して!」

「……はぁ? 私はベアトリスに頼まれただけ。何で異世界からきた小娘の言うことなんか聞かなきゃいけないんだよ」


マリキータは鋭く言い放つと、勢いよく玄関のドアを閉めようとした。

咄嗟に、アタシはドアの隙間に足を滑り込ませる。


「待って!」

「なんだよ、うるさいね! とっとと帰んな!」

「もちろん、タダとは言わない!」

「え?」


よし! 食いついた!

もうひと推しだ!


「アタシを元に戻してくれたら、異世界のホストクラブで一晩豪遊させてあげる!!」

「ホストクラブ?」


興味ありげに、マリキータの眉根が上がる。


「異世界のイケメンズに、興味ない?」

「……」


言葉を詰まらせるマリキータに、アタシは畳み掛けるように言った。


「あんたを女王様クイーンにしてあげよっか? マリキータ」

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絵に描いたような深窓の令嬢は、重度の睡眠不足。しかし、その中身はオヤジギャル(死語)である。 @migimigi000

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