ヤンキーステーション

 ヤンキーステーション、南シナ海、北ベトナム沿岸に設定された米軍の作戦海域を航行する複数の艦艇があった。

 北ベトナムへの牽制のため、米海軍は常に一隻以上の空母をヤンキーステーションで航行させている。

 だが、この日は違った。

 一〇隻の空母がそれぞれ護衛艦を従え航行していた。

 それは、ベトナム戦争の全期間を通じてなかったことだ。

 ジョンソン政権では、戦域を拡大しないように、ニクソン政権では交渉再開のため刺激しないように空母の数を制限していたからだ。

 しかし、この日は違った。

 ミッドウェー級のビスマルク・シー、フォレスタル級レンジャー。

 就役して数年しか経っていない原子力空母エンタープライズとキティフォーク級ジョン・F・ケネディ。

 そして同盟国である英国のアークロイヤル。

 英国の財政難で維持費が捻出できず、存在意義に疑問を持たれており退役を財務から勧告されている空母だ。

 何としても空母を残すため、活躍の場をベトナムに求めた英国海軍の意地で、半ば無理矢理参加していた。

 異質だったのが離れた所を航行するフランス海軍の空母クレマソーだ。

 仲介者として68年からアメリカとベトナムの交渉場所としてパリを提供していたが成果を出せなかった。

 そのため仲介者として警戒監視を行うためと宣言し南シナ海に艦隊を送っていた。

 実際はベトナムの旧宗主国としてインドシナおよび東南アジアに影響力を残そうと乏しい財政の中から無理に派遣していただけだ。

 攻撃に参加しないが、存在感を示そうと躍起になっているフランスの象徴といえる空母と行動だ。

 参加艦艇の中で珍しいのが、ここ最近建造された生駒級とその同型艦だ。


 日本の軽空母について

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093086809961363


 生駒は戦後日本が建造した初の空母だったが、政治的、国際的、予算的な事情。

 信濃級が改装で十分活用できた。

 何かと足りない数を補うため量産を考慮し三万トンの船体に抑えられた。

 それでもサイドエレベーター、蒸気カタパルトなど最小限必要な装備を搭載し、空母としての能力、F4ファントムを運用できる性能を持っていた。

 残念なことに、大和と信濃級を維持するため、建造費が捻出されず日本の保有数は二隻だけだ。

 だが、空母としての能力は十分であり、小型で維持費が安いため、安価に空母を持ちたい国からの建造要望が多数上がった。

 日本向けの艦の配備を後回しにして輸出する程だった。

 購入した国は、海から北中国を抑え込みたい中華民国。

 独立後の混乱から立ち直り工業化、ベトナム戦争の特需に沸き経済発展著しいが、海を隔てた隣国中華民国を警戒する台湾。

 インド洋の支配権を握りたいインド。

 アルゼンチンとブラジルに一九世紀からの軍拡競争上対抗するため空母を必要としたチリだった。

 そのうち、EATOに加盟する中華民国の広州、台湾の鄭成功が作戦に参加していた。

 細部に違いはあるが同型艦であるにも関わらず、国籍がそれぞれ違うという珍しい空母達だ。


 生駒級軽空母

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093086810021638


 そして、最後に加わったのは日本の空母信濃だった。

 佐久田が方々を回り、日本の参戦へ向かわせた。

 勿論、ニクソンショック、北日本および北中国への訪問とドルと金の兌換停止による外交経済的な打撃を受けたことは怒っている。

 経済的な混乱を理由に出撃を遅らせていた。

 だが、北ベトナムが攻勢を始めると余裕はなくなった。

 米軍の撤退が進んでおり南ベトナム軍は敗退を重ねた。

 残ったアメリカ空軍と海軍による支援で撃退できたが、不安である事は変わりない。

 だから北ベトナム軍の勢いを削ぐための作戦が練られた。

 戦力を撃破するだけでは意味が無い。

 長期にわたって活動できないように補給線を破壊する必要があった。

 そのために計画されたのがラインバッカー作戦であり、アメリカが世界各国に戦力の提供を要請した。

 日本も例外ではなく、信濃を出撃させることとなった。

 いずれにしても西側諸国の大型および中型空母各型がベトナム沖に勢揃いしていた。

 すべては北ベトナムの補給路を遮断するラインバッカー作戦を成功させるためアメリカが呼び込んだ戦力であり、西側が投入できる戦力を誇示する格好の場となった。

 そしてその威力を、北ベトナムのみならず東側に対して、今まさに見せつけようとしていた。




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