信濃第六〇一航空団
「さて、作戦は今、話したとおりだ」
信濃の格納庫の真下に設けられた居住区にある搭乗員待機室。
飛行隊ごとに与えられたブリーフィングルームに作戦に参加するパイロット達が集まっていた。
信濃の航空部隊第六〇一航空団に配属されていたのは戦闘第一飛行隊、戦闘第二飛行隊、攻撃一〇一飛行隊、重戦闘爆撃第三〇一飛行隊、警戒第五〇一飛行隊、対潜第六〇一飛行隊、輸送第八〇一飛行隊だった。
戦闘第一飛行隊の待機室に声が響いた。
「攻撃隊に先立ち、我々は出撃し、制空権を確保する。簡単に言えば飛び立つ機体は全て撃墜しろ」
飛行隊長である上原は部下達に命じた。
ベトナム戦争で色々言われている人物だが、技量は圧倒しており、一目置かれていた。
「攻撃隊の仕事がしやすいように全て撃墜しろ。北ベトナムもここまで攻撃されたら反撃に出てくるだろうからな」
「質問良いでしょうか」
若手パイロット、二十歳前の梶谷曹長が疑問を口にした。
航空学生出身で飛行隊に配属されたばかりだが、操縦課程から卓越した技量を見せていた。
その腕を見込まれ戦闘機課程に入り、最優秀の成績で艦載機部隊に配属。
ここでパイロットしての資質を見せた。
中堅相手に勝つこともあり天性の才能を持っている。
足りないのは経験だけで、ベテランたちが自分たちの技量を叩き込もうともんでいる。
それだけに腕はたしかで将来枠として期待されいる。
洞察力にも優れており、幹部昇進試験で合格をつかみ取っており、今回の出撃から帰還すれば昇進は確実だった。
それだけ古参からも一目置かれていた。
「何だ?」
当然上原も目をかけており
「攻撃を行ってよろしいのでしょうか。和平交渉を呼びかけているのに」
「良い質問だ。呼びかけたが北ベトナムは席に着かない。苛立った米軍は交渉に出席するよう招待状を出した。我々が運ぶ役目の一端を担うと言うわけだ」
「それで北爆を、それもこんな大規模空爆を」
「そうだ」
米軍が北爆再開を決定し、最初の作戦になる。
「良いか、担当空域の全ての機体を撃墜しろ。制限は無い」
北爆再開にあたり、全ての制限が解除された。
攻撃の制限は無く、空を飛ぶものを全て破壊して良い事になった。
敵機かどうか視認して破壊する必要などなくなったのだ。
「味方機の誤射と地上からの対空ミサイルだけは注意だ。ミサイルは味方が破壊してくれるが全て撃破出来ると思うな。だから絶対に油断するな」
「しかし上手くいきますかね」
「何か疑念があるのか?」
「ホー・チ・ミンルートへの攻撃は何度もやっていますが、一部では失敗しています。タン・ホア橋への攻撃など幾度やっても失敗しており破壊出来るか疑念です」
タン・ホア橋は南北ベトナムを結ぶ重要な橋であり、米軍の攻撃目標となっていた。
しかし北ベトナム軍も防備を固めており、米軍は千回以上の空襲を行い七万トン以上の爆弾を投下したが、破壊に失敗し、機能を喪失していなかった。
「そこは米軍の管轄だ。俺たちが気にする必要は無い。だが、連中も馬鹿ではない。上手くいく方法を使うそうだ。それより、俺たちの方もキツいぞ。北ベトナムの戦闘機が全力出撃してくるはずだ。食われないように注意しろ」
「了解」
「FDO――戦闘機誘導士官の指示に従え、広範囲を見れる分、俺たちより的確に戦況を見ているし優位な位置に連れて行ってくれる。だが最後に頼りになるのは自分の腕だ。特に六時方向には注意を向けろ。以上だ。必ず帰ってこい。出撃」
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