佐藤から佐久田への指示
「何かご不満でも」
「いや、君には感謝している。有効な対応策だ」
「ありがとうございます」
「だが、許せないのはニクソンだ。我々を狙い撃ちにした」
ニューヨークも欧州も市場が開いていない時に発表し日本だけが開いていたため混乱していた。
「しかし、ヨーロッパも混乱しています」
時間的猶予があったヨーロッパだが、欧州各国で対応が分かれた。
いつも通り開いたり、頭が冷えるまで市場を閉めたり、変動幅を設けたり、と対応が分かれむしろ混乱を助長した。
一方、日本は市場を開放したため、信頼、どんなことが起きようと市場を開いてくれるという信頼がアジアを中心に生まれ、資金が集まり始めている。
「そうだ。だがそれとこれとは話が別だ。日本に相談なく自由化したニクソンが許せん。この落とし前はつけてもらう」
「何をするのですか」
一瞬暗殺という言葉が佐久田の頭に浮かんだ。
大戦中、アメリカの交戦的な要人を暗殺して講和への道筋を作り出したことがあった。
極東戦争でも軍部の力を削ぐため軽軍備を進めようとした吉田総理を除いたこともある。
しかし最早、大戦後ではなく、混乱した大戦直後ではない。
極東戦争のような暗殺爆撃など相手が危険すぎて、ソ連の仕業と勘違いしたり、これ幸いと切っ掛けにして大惨事、いや第三次大戦を起こしかねない。
ケネディ暗殺があったとは言え、露見した場合の事を考えると米大統領暗殺は悪手だ。
「暗殺しろなどとは言わん」
もちろん佐藤も理解している。
「政治的な生命を絶つんだ。ニクソン、キッシンジャーに任せたら我が国は滅ぼされてしまう。そうなる前に二人を排除する方法はないか調べろ」
「……分かりました」
確かに日本に批判的な二人がホワイトハウスいると日本に対するアメリカの態度がキツくなる。
聞くところによれば米軍が日本に駐留するのは、日本の制約がなくなれば勢力拡大に走る可能性が高いとキッシンジャーは言っていたそうだ。
日本が本当に独立するにはアメリカの影響を無くす、出来れば可能な限り低くする必要がある。
そのために最低限自分で国を守れるだけの力を手に入れるべきだ。
だからこそアメリカには親日的な人物が上層部に、大統領になって欲しい。
そのための工作を佐久田は、対米連絡官及び対米工作責任者の大尉――キャプテンに依頼することにした。
だがニクソンは今回の声名で大きな成功を収め、国民の支持を得ている。
成果を得られないかもしれない。
しかし、やらないよりマシだと考えた。
「それでベトナム派遣の件ですが」
「経済的混乱により、中止だろう」
「暫くはそれで宜しいと思います。しかし、ベトナム戦争が終わらなければ米国の衰退は続き、西側の中心が倒れる事となります」
力を付けつつある日本だが、まだアメリカの軍事力が必要だ。
日本単独で東側を抑えるなど国力も兵力も足りない。
米軍の支援が必要なのだ。
自業自得だがベトナム戦争でアメリカがこれ以上疲弊して世界を守れなくなっては困る。
「ならばどうする」
「今度の大統領訪日までベトナム派遣を延期し、よりよい条件を引き出してから承諾しましょう。戦争を終わらせる為に我々に手をして欲しいなら、それだけの事はしてもらわないと」
「分かった。その方針で行こう」
外貨準備が一気に一〇〇億ドルの大台を超えることになったが、市場への信頼を損なわないよう市場は開き続けた。
混乱回避のため、即時閉鎖を大蔵事務次官は主張したが、反対と佐藤の対応により市場は開き続けた。
しかし固定相場制を維持する事は混乱のため出来ず外貨準備が一五〇億ドルに達した翌日28日に閣議決定で変動相場制に移行した。
これで一ドル三六〇円の時代は終わった。
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