テト攻勢の状況

「やれやれ、生殺しだな」


 河川砲艦松島に乗り込むよう命じられた須加は不満だった。

 各所でベトコンの攻撃があり、反撃を行っている。

 それに参加できないのは非常に心苦しい。

 確かに同盟国の国家警察総監を殴ったのは悪いが、自分の捕虜を勝手に殺されて黙っていられない。

 そのことは上官も分かっていたし、須加の行動を暗黙に肯定していた。

 しかし、同盟国との外交を考える立場の人間、外務省や防衛庁の上層部は須加のことを厄介者としていた。

 与野党でも当然の行動だ、同盟国の高官への暴行は許されないという意見があり揉めている。

 そうした政治的な人間となってしまった須加は、前線に出せない存在になってしまった。

 もし戦死したら、本当に作為が無くても、マスコミなどから口封じに殺されたと誰かが言われる。

 それを避けたいことで、誰もが、須加を厄介者扱いする人間でさえ、この意見に同意し須加を守ろうとした。

 特別機で日本に帰還させようとしたいが、手続き上の都合により、遅れていた。

 出来る事は、所属する海兵連隊の司令部へ部隊ごと移動させる程度だった。

これなら部隊で出来る範囲だ。

 それ以上は出来ないが。


「快適なのは良いがな」


 松島は日本が中華民国へ揚子江防衛のために建造した河川砲艦で700トンクラスの大型船だ。

 河川砲艦は日本の貴重な輸出品で建造はお手の物だ。


https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093084973817461


 おかげで近代化がなされており、世界でもレベルは高い。

 そのため複雑に入り組むメコンデルタを警備するため、小舟を使い移動するベトコンを阻止するため、部隊の輸送や火力支援のために河川砲艦や魚雷艇、哨戒艇を派遣させた。

 今ではベトナムの主要河川に配備され、各地域で司令部として警備と指揮調整を行っている。

 日本らしく凝り性のため様々な機能が詰まっている。

 中でも松島型は大型化した事もあり、艦内には司令部設備、通信装置は勿論、医療設備まで揃っているしヘリまで着艦できる。

 格納は無理だが、降りてこられるだけ凄い。

 乗員も50名以上。

 それでも居住区には余裕があり、須加達、海兵連隊の司令部が乗り込んでも問題ない。

 大きさ故に操舵は難しいが、司令部、連隊の移動指揮所として活用する分には問題なかった。

 陸上で指揮所を開設したら他の場所へ移動するのに大きな手間が掛かる。

 その点、船に全てを積み込んで移動できるのは好都合だ。

 前線に近く、通信設備も整っているので周囲の部隊の通信がよく入ってくる。

 おかげで須加が前線は勿論ベトナム全体の様子を把握することも出来た。

 だが、他の部隊の活躍を聞かされるのは苦痛だった。

 テトの奇襲で米軍は大混乱。

 フエはベトコンとそれを装った北ベトナム軍に占領されてしまった。

 アメリカ軍は奪回の為に大兵力を投入している。

 日本にも治安警察機構の特殊武装機動隊投入を依頼し、制圧に乗り出している。

 市街地戦の為に作られた部隊なので、各隊員の圧倒的な火力を前にベトコンは撃退されるとのことだ。

 安保闘争での彼らの武勇、圧倒的な制圧力、そして全てを破壊する行為は一般大学の学生時代に見ているのでよく知っている。

 ゲバ棒ではなくAKを装備している兵隊が相手だが、彼らの場合、軽機で全てをなぎ倒すだろう。

 ケサンも酷い。

 二万のベトコンと北ベトナム軍に包囲されている。

 空中補給で何とか維持されているが、第二のディエンビエンフーにしようと攻撃が激しい。

 下手に輸送機が降りられないため、YS11を使って強行着陸させている。


https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093085098884832


 C130は物資投下に使えるが、負傷者の救出には強行着陸しかない。

 ヘリも使っているが輸送力が少ないため、ヘリより輸送力が大きいYS11を旅客型のため機体の位置が高く、負傷者を乗せるのに不利という条件に目を瞑って使用していた。

 旅客機らしからぬ頑丈さを考慮されてのことだが、米軍の戦況が劣勢である証拠だった。

 そもそもケサンが必要かと言われれば、重要ではない。

 ただテレビがケサン攻防戦に注目しはじめたため、ケサンが陥落したらアメリカが敗北したと人々は認識してしまう。

 それを阻止するために、アメリカが強いという幻想を維持するために粘っているだけだ。

 馬鹿馬鹿しいが西側としても盟主が弱いのでは求心力が無くなり東側に対して不利になる。

 ここは何としても頑張って貰いたい、そのために日本も付き合っている。

 馬鹿馬鹿しいが、これが国際政治の現実だった。


「ブルードラゴン、青龍師団が支援要請を出しています」


「連中、また何かやらかしたか」

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