第9講 健全な商社会への回帰のために

 筆者は大阪生まれで大阪育ちでありますが、結婚してから20年以上は滋賀県で暮らしております。


 何を唐突に言い出すのかとお思いでしょうが、この滋賀県において、「あきない」の基本となる「こころ」について伝わっている言葉があります。


「売り手よし、買い手よし、世間よし」


これを「三方よし」と言います。


 近江商人の心構えのような言葉としてたびたび紹介されていますが、筆者は学者さんではないので、詳細はお答えできかねます。


 なので、私見で述べさせていただきますが、この言葉、「売り手も儲けて、買い手も儲けて、社会も良くなる」という意味だと簡単にとらえるべきではないと思います。


 そうではなくて、

「売り手はこの人に売ってよかったと思えるように。買い手はこの人から買ってよかったと思えるように。そしてこの売買が社会にとっても良い取引であったと思えるように」、そういう「あきない」を行うべきだ、ということであると考えます。



 前講までに述べてきた「商社会」では今後、必ず閉塞してゆくでしょう。なぜなら、ひとのこころは案外もろいものだからです。

 自分では気づかぬうちに「こころ」は疲弊していき、他人に冷たくなったり、自己本位になったり、人間不信になったり、もしかしたら自虐行為に走ったりするかもしれません。

 

 昨今、ニュース等で、客側の理不尽な要求や横暴に警鐘を鳴らすような報道が見受けられます。


 筆者は一つの希望をそこに見出しています。


 ついこの間までは、逆の報道のほうが多かったからです。

 店側の怠慢や接客態度を問題にするニュースの方が圧倒的に多かったのです。

 

 ところが最近になってようやく、「カスハラ」という言葉が現れたように、客側の理不尽を取り上げる傾向が強まっているとみています。


 そろそろ、新しいもしくは歪んでいない「商道徳」とはどういうものか、企業側も経営者側もそして労働者側も気付くべき頃ではないでしょうか。



 筆者が店舗経営者であったころの取り組みは時期尚早であり、失敗に終わりましたが、これから先の世の中であれば、むしろ、成功例になりえたのではないかと、そのように思わせてくれる未来の商社会であればという願いをこめて、このあたりで、筆をおきたいと思います。



                                

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私説「商論」――顧客満足(CS)という麻薬―― 永礼 経 @kyonagare

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