「凄いぞ、赤軍アカデミーで見たクルスク戦の講義の再現だ」

私がいた一九三七年初期のアラゴン戦線の片隅がちょうど一九一五年のフランスの目立たない作戦区域のひとつとそっくりだったことは疑いない。

欠けているのは大砲だけだ。

ウエスカ内外の全ての銃がいっせいに火を吹くめったにない場面でさえ、雷雨が止む時のような不規則で貧相な騒音が上がるのがせいぜいだった。

フランコの六インチ砲から放たれる炸裂弾は当たれば大音響を引き起こしたが一度の戦闘で一ダースも使われなかった。

初めていわゆる大砲の「怒れる」砲声を耳にした時、私は多少の失望を感じたことを憶えている。

二十年のあいだ予想していた、とてつもない、止むことの無い轟音とは似ても似つかないものだったのだ。

-「右であれ左であれ我が祖国」著ジョージ・オーウェル-


ロシア軍がキエフ北部戦線から総退却した3月の後半。

サーバー内部ではこれが意味するものが一つであると考えられた。

すなわちウクライナ東部戦線への再編成、そして正面決戦だ。


「で、この東部戦線大攻勢どうなるんだろうな」

「いやあー、きついと思うよ僕は・・・」

「独立装甲旅団飛んでますからねえ・・・」

「でもVDVが死んで航空攻勢が不可能な以上五分五分とも言えると思うんすよ」


サーバー内部で東部戦線大攻勢で懸念されたのはロシア戦車とウクライナ戦車のスペック差であった。

露軍のT-90やT-72obr2016などはウクライナ戦車のT-64BVより遥かに新しい戦車だった。

時期的には10年~20年の差であるが、兵器でこれだけ時間が有れば変わるところは大きい。

さらに今回の戦争ではウクライナ軍のT-84というウクライナ最強戦車が見掛けられていない、理由は容易に推測できる。

この戦車はガスタービン戦車で燃料をバカ喰いする、タイガー戦車と同様の代償が大きいものだ、1943年のウクライナ戦線と対して変わらない。


「あ、ロシア軍が東部で集積基地作ってるって」

「物資集積基地今まで作らずにやってたの!?」

「バカがよ」

「戦略ゲームの無能フルコンプかよ」


我々のサーバーが普段している戦略ゲームでは、基本的に無能が三種類いると第一章で述べた。

しかしながらあのゲームには低レアであるが「味方から物資を奪う前提で物資集積基地を持ってこないカス」がいるのだ。

そもそも攻勢に出るにあたって前線物資集積基地が存在しないと言うのはあまりにナンセンスだ、NATOなんかPOMCUS事前重装備集積場を冷戦期にずっとベルギーでスタンバイさせていたぞ。


「でもこれ要するに攻勢事前前兆ですよね」

「そりゃそうだろ、物資集積してんだから」

「この大攻勢はどうなるんですかね」

「でも正直これで負けてもウクライナ軍はドニエプルにキエフがあるしなあ」

「仮に降伏しても健闘したし」

「ブチャで盛大にやらかしたからパルチザンが蠢くネストル・マフノの後継者たちの大地になるだけだよ」


そんな話をしてる中でも、開戦以来ハリコフとマウリポリは陥落していなかった。

抵抗軍は激烈に戦闘し、市を維持し、ロシア軍はここを対応する兵力を引き抜けなくなった。

中世や古代によくある包囲軍側が「割に合わない」となり始めるルートそのものである。

挙げ句の果てにロシアは占領統治の最悪手を常に打っていた。

略奪、虐殺、強姦、強制移住、文化と民族の否定。

こんな間抜けな占領軍のザマは無能の一言しか与えるつもりはない。

侵略者は残虐であり降伏は無意味だと知った防衛軍がどのような手を打つか、「敵と分かり合えない」となった軍民が立て籠る地域がどのように死兵に化けるかは本邦の歴史が語るところである。

まして、故郷を蹂躙し家族を狙い、友人を傷つける輩を許す人種はこの世界に存在しない、存在する例とされているのは基本的に「自分は対象外」な売国奴であると断言できる。

もはや4000万人のウクライナ人は徹底抗戦の闘志を抱くあらゆる意味で統一された存在になってしまった。



そして、東部戦線で重砲の轟音が轟いた。

だが結果は暗澹たるものであった・・・。


ロシア軍にはまともな作戦能力が存在していない。


攻撃に出るにはルートを選択する必要がある。

全正面で攻撃というのは衝撃力を分散させてしまっているのだ。

帝国陸軍の秋山氏は端的に騎兵(つまり攻撃の衝撃力)とは何かを表現するに際して、拳で窓ガラスをぶち破って見せた、的確な例えである。

拳骨で勢いをつけて殴れば相手をノックアウト出来る、これが衝撃と畏怖というわけであるが、全正面で能無しの平押しというのは、相手をただ単にビンタしているだけである。

確かにビンタされた側も痛い、しかしながらビンタだけでショック死する人間はいない。


「14時間準備射撃したけどそこ本命の陣地じゃなくて単なる警戒陣地だったとさ」

「突出部に対して包囲ではなく全面攻撃したってよ、フルンゼの教官何してるの?」


なんと愚かな事を!!

正直言ってこれが言いたくて仕方ないが黙っていたが!!

俺に指揮権と計画の概案を書かせればウクライナ軍と多少まともな戦争出来ると思えてくるぞ!!!


攻勢目的は不明瞭!

砲撃目標の選定は杜撰!

攻勢部隊の針路も雑!

挙げ句の果てには戦車師団2個というが戦車連隊が二つしか存在しない!!

1914年のロシア帝国軍だってもう少し戦争出来たぞ!!


俺たちの愛したソ連軍は本当に死んだ!

何故だ!!


「クレムリンが頭69歳の陰謀論者だからさ」



そっかあ・・・。






【真面目な話】



真面目な話をしよう。

まずウクライナ東部戦線は2014年来の戦争状態であり、8年間も着々と陣地化がされたものだ。

時間がかけられた防御陣地の群れは要するに要塞そのものである。

つまり、ロシア軍が最初からまともでもコレはなかなかにキツい。

なんならアメリカ軍も困るかもしれない、似たような陣地をイラクで組まれて三回取って取られてを繰り返していた。


しかしながらこれはそれ以下の前提で開始された。

戦車師団を自称する事実上の戦車連隊、砲撃目標と計画が練られてない支援火力では目的を達成するなど論外中の論外だ。

中学生に大学受験を受けさせる様な無謀さと言えば日常生活で理解しやすいだろう。

あるいは失敗した料理に近い、期限が切れた食材にグラム数も足りてないのにレシピはうろ覚えで料理をするものだ。

これで美味しく料理するのは一部の天才であるし、常人なら「別のにするか」と判断する、それが正しい選択肢だ。


攻勢数日後、露軍の攻勢に成功した距離は乏しかった。

ソ連軍は大規模な抵抗を受けつつ攻勢初日から2日ないし3日で15キロは前進するつもりだったが、それ以前だった。

・・・それからさらに時間が経ち、誰の目にも取り繕えなくなった頃、ロシア軍が攻勢中止を発表した。

あまりに、あまりにも遅い判断であった。

何故ならその攻勢は、3日目に成果が上がらない時点で中止するべきものであったからだ。


そして何より怒れるべきポイントは、敵突出部に対する最も優れた攻撃法は突出部を根本から切り離す攻撃を仕掛ける事である。

世界最大規模の戦車戦、クルスクの戦いはソ連軍突出部に対してドイツ装甲部隊による突出部への攻撃で始まったのだから。

ろくな軍事知識のない作者ですら正攻法を理解している、そして突出部全体で攻撃を仕掛ける愚かしさも。

士官学校で彼らは何を学んだのか、無能と怠惰が蔓延ったと言うのか。

風紀と倫理観が終わってる大戦前のアメリカ陸軍士官学校の方がまともに違いない。


もはやロシア軍に通常兵力で挽回する力はない。

しかし、それ以外で頼るものというと・・・。



私は核兵器が嫌いだ、日本人だからではなく、アレには戦争の僅かに有する人の抵抗がない。

硝煙と火薬の中で掠れて見えなくなりそうな、ほんの最後の煌めきがない。

あんなもの、嫌いなのだ。

だから、私はあれが実戦投入されない事を願っている。



少なくともこれを書いている現在。

ロシア軍の司令部はT-90M型という最新鋭戦車で事態が解決出来ると心から信じてるアホのようなので、それはなさそうだが・・・。



とか思っていたら、ゴールデンウイークキャンペーン5月初頭戦役でジャベリンどころかグスタフぶちこまれて炎上していた。

お前それで良いのか?火星人の三脚兵器のがもっと強かったぞ。



5月が中盤に入り、ロシア軍はようやく再編を完了したと言う話が出てきた。

砲兵が前線を圧倒し始めたという話も出始めてきた。

しかし、すでにロシア軍に突破戦力はほとんどが残っていなかった。

だがロシア軍はここに来てようやく現状を理解したらしく、セベロドネツクへ攻勢を絞ろうとしていた・・・。


【終わりに】


自由と民主主義と独立の光は決して消されていいものではない。

私は全てに終わりがあるように、神の法と、人の意志と、民主主義の勝利を信じている。

この戦争でそれが未だに生きている事が確認されて嬉しく思うし、我が国が素早い支援をした事を感銘を持っている。



そして、滅んで良い国というのは確かに存在するのだと実感を持っている。

我が国はそんな国と隣り合ってる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プーチンの演説要約で9000RT2万いいねを押し付けられた私が思った戦争 南部連合のメスガキ @DixietooArms

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ