第2話 財政を見直そう!

 エリシャは自室のベットに寝転がりながら書類とにらめっこしていた。


 今のエステル家の財政はまあやばい。素人のわたしが見ても分かる。赤字なのだ。


 神谷みきとして大学に行っていたが、経済学部だったわけではないし、当たり前に経営なんてやったことない。でも何かしらしないと1億なんて到底返せるわけがない。


 まずはこの家にある財産は処分すること。赤字を解消することが先に解決しなければないことだろう。黒字だったらいつかはお金納税できるはずだし。


 ……でも、転移先でこんな苦労があるなんて。


 普通の生活だったらどれだけ気楽だったことか。


 兄が読んでいた転生ものでは主人公は発明をして儲けたりしてたっけ。


 でも昨日のセバスチャンから説明してくれたことや書類から読み取るに発明するだけでお金が稼げるとは到底思えない。下手に目立って命を狙われたり誘拐されたりするリスクも有るだろう。


 わたしにできることってなんだろう…前途多難ね。


 エリシャは書類とにらめっこしていると、いつの間にか眠っていた。



 目が覚めると笑顔の父がこちらを見ている。


 「エリシャこれが高等学校の入学祝いだ。開けてご覧なさい。」


 横に目をやると大きな白い袋が置かれている。ってサンタさんじゃないんだから。


 大きな袋になにか入っているみたいだ。中を開けると、檻の中にミニキャットと言われる羽の生えた猫のような手のひらサイズの真っ黒な生き物が入っていた。


 「なにこれっ。うれしい。パパありがとう。」


 「その子を従魔として一生かけてかわいがりなさい。」


 パパにギュッとハグする。ペットを飼うことが夢だったのだ。


 抱きつかれた父ブルクハルトはのけぞる。


 「エリシャも良い年なんだから。落ち着くことを覚えないとな。」


 ギクッ。たしかに年甲斐もなくはしゃぎすぎたみたいだ。


 「体調もだいぶよくなっただろう。ほらミニキャットと契約しなさい。」


 どうやら従魔にするには契約をしなければならないらしい。契約することで魔力を供給し、戦闘時や魔法を使う際には従魔から魔力をもらったりできるみたいだ。


 「はいっ。さっそく契約しますね。」


 従魔との契約は簡単だ。契約者の名前を宣言し、従魔に名前をつける。従魔が拒まなければ大丈夫みたいだ。


 「エリシャの名で命じる。名前はそうね、レインちゃんなんてどうかしら。契約してちょうだい。」


 レインは大きなあくびをして、ニャオンと鳴いた。


 ニャオンと鳴くと大きな光がエリシャを包み、力が漲るのを感じだ。


 『汝がエリシャか。余はレイン。よろしく頼むにゃ。』


 「レインちゃん?」


 『従魔は声を発することができないから、魔力で直接脳に話しかけるしかないのにゃ。よろしく頼むにゃ。』


 レインはまた大きなあくびをして丸まり寝始めた。


 従魔とはいえ常に主人について来るわけじゃないんだ。少し残念。


 父ブルクハルトの説明を聞く限りだと、ご飯も基本的に食べないらしい。ミニキャットは気まぐれな生活でだいたい寝ているらしいのだが少し残念ね。



 夜食を父ブルクハルトと食べながら財政の話をする。


 「パパ。財務表見たのだけど、すごくやばい状況よね。どうするか考えてるの。」


 「具体的な方法は思いついていない。親戚にもお金を借りよう手紙を送っているがどこも芳しい答えはもらえていない状態だ。」


 「それは嬉しくない情報ね。パパ、もしこの家の財産処分するって言ったら怒る? 」


 「財産をか。ううむ。それは考えていなかったな。」


 ブルクハルトはひげを触りながら、うんうんと考えている。


 「思い出のものもあると思う。だけどこの家がなくなると母や家族の思い出がなくなるのと一緒だわ。それに妹のシャルロットも学校にいけなくなっちゃうし。それだったら財産を手放したほうが良いじゃない。財産はあの世には持っていけないし。」


 「それもたしかにそうだ。おいセバスチャン。」


 お呼びで。とセバスチャンが部屋に入ってきた。


 「今エリシャから提案があってな。家財をすべて処分したいんだが、やってくれるか。」


 「…もちろんです。ご主人さま。セバスは嬉しく思います。よく英断してくれました。」


 「なに。エリシャに言われたらしょうがない。家が無くなるよりはマシだろう。全部処分したらいくらくらいになるだろうか。」


 「そうですね。数ヶ月かけてオークションに出すのが良いと思われます。金額で言えば5,000万Gくらいでしょうか。」


 全ての財産が頭に入っているのだろうか。さすが長年ミステル家に仕えている執事セバスチャンだ。


 「これで半分くらいは納税できそうね。他に売れるものってないかしら。」


 「そうですね。今のところは思いつきませんが、思いつき次第、報告させていただきます。」


 「後、数字を見て思ったんだけど、ミステル家って100人を超える人数を長年商会で雇ってるわ。これって雇っている人数が多すぎことも赤字の大きな原因だと思うわ。」


 元々は帝都の一大商会として与していたミステル家だったが、様々なジャンルの仕事をアンカー家へ取られてしまっている。仕事も減っているので、人数も減らすべきではないだろうかと考えたのだ。


 「それは…暴動に発展しますぞ。」


 「待てセバスチャン。エリシャの言うことも一理ある。エリシャ話を続けなさい。」


 「もちろんいきなりクビなんて言うことは考えてないわ。ただ、ミステル家が潰れてしまえば従業員の彼らも仕事がなくなります。そこは話し合いしなければ行けないと思うの。」


 「一番最初はノース鉱山の鉱夫が多くなっているわ。元々はノース鉱山で銀や金が取れていたけどそれはもう3年前の話。取れなくなってきてからは採算が合っていないの。一度話合う必要があると思う。」


 「たしかに。だが彼らも職人で気性も荒くてな。」


 「わたしが話してみます。ミステル家のことも説明して、職人さんの意見も聞いてみたいし。」


 ブルクハルトとセバスチャンが絶句している。


 「危険です。お嬢様。」


 「たしかに危険かもしれない。危険を冒さないとミステル家は存続できないじゃない。危険なことがあってらセバスチャンあなたが守ってくれるでしょ。」


 「それはそうですが。」


 「善は急げよ。さっそく明日鉱山に向かいましょう。地図を見る限りだと1日で帰ってこれそうだし。お父様それでいいかしら。」


 「たしかにエリシャの言うとおりだ。そうだな。セバス、エリシャについて行ってほしい。エリシャに任せる。その変わり無理はするな。年頃の女の子なんだからな。」


 セバスチャンが分かりました。と頷く。


 「それに移動に馬車なんてわたし要らないわ。歩けるし。馬も乗ったことないけど、乗れるようになるでしょ。」

 

 「それはいかん。曲りなりとも貴族の娘なんだから。襲われたらひとたまりもない。」


 「たしかにそうね。わかりました。それは父上様の言葉に従います。」



 食事も終わり、部屋に戻り書類に目を通す。鉱山での費用を減らせたらなんとか黒字になるだろうか。


 「半分は目処が立ってよかったわ。後12ヶ月で5000万Gって1ヶ月あたり400万Gくらいかぁ。減ったとしてもまだまだあるわね。」


 ふと急に不安がこみ上げてきたのである。


 「本当に大丈夫だろうか。」


 明日の鉱山のこともそうだし、これから学校にも行かなければならない。それにこの世界のことをすべて把握しているわけではない。元々<エリシャちゃん>の記憶はあるが、知ってることと体験していることには大きな違いがある。


 不安に押しつぶされて泣きそう。


 ダメね弱気になっちゃ。明日に備えてベッドに横になると、レインが寄り添ってきた。


 『エリシャは大丈夫だにゃ。自分を信じて。ダメだったら猫になってしまえば良いにゃ。』


 うん、ありがとうレイン。嬉しいわって。人間は猫になれませんっ!

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誠意は金銭!没落商人のどたばた成り上がり記 神谷みこと @mikochin

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