同幕 かごめかごめ 伍



「さて、そんな存在自体が不謹慎な百先生は放っておいて」



「存在自体不謹慎て」



「では私達もやってみましょう!」



「うん、何を?何をする気なの?桃瑚少女」






 最近……というより今に始まったことではないけれど、本当に桃瑚少女からの当たりがやけに強くなってきた気がする、そろそろ泣きたいのだけれど。これが例の親離れ的なアレなのかな?

 だとしたら再三言うけど泣きたい…まだそんな歳じゃない、早いだろう?シクシクシク……。






「何のために現場に来たと思ってるんですか?現場に来たならやることひとつ!」



「まさか…」



「そう、そのまさか!」



「うげぇ」



「まだ何も言ってません聡司さん」



「恒例のだろう?」



「そう恒例の!!実体験しましょうのコーナー!!!」



「コーナーじゃないよ?」





 

 笑顔が消えたと思ったら、あっという間にテンションが上がって年相応の可愛い笑顔でクラッカーを鳴らす。

 どっから出したんだろうそのクラッカー


 偶にあの子普通持ち歩かないような物持ち歩いてる時あるんだよな、絵馬とかクラッカーとかホッチキスとか鋏とかクレヨンとか。この前なんか確か爬虫類のリアル模型おもちゃとかパラパラ漫画とか、ボルトとか…ゴトッて落ちたから拾ってソレに気付いた時は心臓が一瞬止まったよね。


 ホントあの子のポケットどうなってるんだ?






「かごめかごめをしましょう、消えた条件の“あること”が誰にもわからない一番不明瞭な点だから。そこをまず知らないといけない


 何も知らないと話は作れない、先ずは彼等と一緒になって“ソレ”を体験しなければ何も語れない。

 何も語ってくれない。


 だからやりましょう、小間取を」






 大丈夫、彼等は私達のです。


 そう言って人差し指を口に当てて内緒話の合図をするように、桃瑚少女は静かに綺麗な弧を描いた口で笑って、次に両手で顔を全部覆った。そしてその場にしゃがみ混む。

 その瞬間、広い校庭に霧のような何かが充満し視界を朧気にした。


 甘い砂糖菓子のような匂いを漂わすその霧は、しゃがみこんで独りでにクスクスと笑っている桃瑚少女を隠すように私達の周囲を囲む。



 薄暗く目に刺さるような紫がかった橙色の空を反射して不気味に状況を作る霧は段々と私達の視界を不明瞭にしていき遮るように濃くなっていく。

 しかし私達に直接的な害を負わせるような物では無いのは経験上良くわかる。



 ─────あぁ、逢魔が時だ。


 霧に反射してキラキラと周囲の大気を輝かせる西日が校庭に生えている木々の隙間から覗いている。流石に光が目に入って痛い。


 そんな事も無視して桃瑚少女はずっと、ただただしゃがみ顔を覆い隠し、かごめかごめを待っている。きっと今の桃瑚少女の中には時間の概念がない、前もそうだった。

 桃瑚少女はこういう怪異事に関して、豹変するから。


 霧の匂いと西日の日差しで頭が次第にボーッとしてくる。


 ……あぁ、まただ、また彼女が。






「桃…」






 彼女に向けて伸ばした手を、また、邪魔される。


 姿も見えない霧の中のソイツらに掴まられ、私が伸ばした手は今は決して桃瑚少女に届くことが無い。




        駄目だよ



      あの子はあげない






 耳元で微かに囁かれるその言葉に伸ばしかけた手を元に戻す。そして力強く拳を握る。


 貴様らこそ彼女に気安く触れるな、攫うな、笑いかけるな、喋りかけるな、近付くな、囲むな、貴様達のような奴等が手を出していい相手じゃない…!!

 目を思い切り瞑り心の中で文句を垂れ流す。毎度毎度こうなんだ、此奴等は生意気にも桃瑚少女に手を出そうと近寄ってくる。不敬だし不相応だし汚らわしい。不愉快だ、実に不愉快。






「それじゃあお二人さんお願いします!」



「あのさ?大の大人二人がやって良いもんなのかね、これは?」



「まぁでも全部これも貴方の万年ネタ枯渇の為を思っての事ですから、のってあげましょうよ。貴方がネタに万年枯渇しなければこうはならなかった訳ですし、仕方ないでしょうね」



「ぐうの音も出ない」



「ぐう」



「桃瑚少女が出してどうする!?……はぁ、それじゃあ行くよ?」






 聡司君と手を繋いで輪っかを作り、しゃがみこんでいる桃瑚少女を取り囲むようにしてクルクルと回り出す。勿論唄も忘れずに。


 もう私達以外の人気もないと思う事にした静か過ぎる校舎、そして校庭。


 大人二人と女子高生一人の三人だけでこじんまりと行われるかごめかごめは他者から見たら異様過ぎて誰も近付きたくないような光景だろう。正直私も他者側だったら近付きたくないし見たくもない。


 ただでさえ私と聡司君は身長が平均より高い方だから、約160cmもある桃瑚少女とて一見すれば小さく見えるだろう。

 けど四の五の言わせないのが桃瑚少女だ。将来誰かのお嫁さんになったとしたら、きっと旦那を尻に敷くだろうね……この子変に我が強いし。


 ほんと誰に似たんだか……あっ私か。






「「───……後ろの正面だーぁれ」」



「…………」



「桃瑚ちゃん、どう?何か掴めることはあったかな?」



「……さん…駄目だちがう、ここじゃなかった」



「ここじゃない?……“あること”は場所も関係してるのか、という事は慰霊碑前かな?それとも中庭か」






 ここじゃないと言って立ち上がり、スカートに着いた土や泥を払って頬を膨らませてムスクれる桃瑚少女の頭を撫でる。先程までの不気味な笑みや真顔は何処へやらだな。

 全く子供だ、素直にこんなネタ探し関係なく同年代の友達と一緒に遊んで楽しめれば良かったくせに。


 全く、そぐわ無ければ拗ねる、子供心のまま成長した奇跡的なアホの子だな?可愛らしいからいいけれど。






「慰霊碑前なのかは何となく分かるけど、何で中庭なんですか?ここの中庭ってただ綺麗なだけでそう言う現象や実象とは無縁でしょうに。桃瑚ちゃん情報で何かしら知ってるんですか?


 また俺だけハブ?」



「聡司さんハブ嫌いだもんね」



「爬虫類のハブは好き」



「無駄話はよそう、逢魔が時の学校は神社の次に嫌いだ……早く用事を済ませて帰らないとだよ桃瑚少女、聡司君」






 嫌な思い出がある分良い気がしない。思い出すだけでも身震いが……ってあぁ、そら見た事か鳥肌までたってきたじゃないか!

 早くある程度事の収集をして撤収しないと、どうも嫌な予感がしてならないんだよね。


 学び舎というのは子供が沢山集まる場所だから格好の餌場だし、拠り所にもなる場所だ。とあーだこーだ我ながら自分でも呆れるほど在り来な言い訳を心の中で述べ、肩をわざとらしく竦めて二人の背中を押しながら中庭へと足を進み始める。


 聡司君の言葉の通り確かに桃瑚少女伝いの情報だ。けどそれを鵜呑みに出来るほどの確証がないから聡司君には言わなかっただけ、確証の無い話や噂は記者の彼にはだらけ言葉だから。






「この学園は広い、だから七不思議とまではいかなくとも都市伝説程度の怪談や噂がそこら中にあるんだ。中庭にも幾つか。


 それこそ七不思議から出てるもある、今からそれを試してからまたかごめかごめを……と言っても百先生の言う通り、時間が時間だからそろそろ帰らないと不味い。


 どうしよう?」






 腕時計で見た時間はあらまぁ何と子供はご飯食べて風呂入って寝る時間。






「あー……時間に関してノープランだった」



「天才なのか馬鹿なのか、親御さんに連絡しなくてもいいのかい?桃瑚ちゃん」



「大丈夫!今日は母さん遅いから先生の家に泊まることになってるの、姉さん達は知らない」



「そうか……まぁそれなら安心だけど、健康の為にも早めに寝た方がいいよね?勉強や宿題もあるだろうし」



「まぁそうだね、実の所明後日までの課題し忘れてるから結構やばい」



「よし帰ろう」



「検証はまた明日、か……明日は確か聡司君手が空けれないんだったよね?なら桃瑚少女、あのオカルト少女も呼んでくるのかい?」



「うん、あの子こういう話に結構強いから」






 あの見た目とそぐわないアクティブっ子なオカルト少女、また来るのかぁ…。

 嫌いではないんだが、如何せん若者のテンションのようなノリについていけない時があって少し苦手なんだよな。


 なんて考えながら、中庭に向かっていた足を方向転換させて渋々校門の方に歩き出した。

 本当なら一日中で終わらせた方がいいんだけど、これはもうどうしようもないか、ないよな?ないよね??


 あ"ー……ポリ公にまた何かとやかく言われる、ド正論な当たりまた辛い。






「もうヤダ不貞寝したい」



「すればいいのでは?」



「割といつもしてますしね、日常ですよ」



「二人とも私の扱い段々酷くなって言ってるよね、泣いちゃうよ?」



「「どうぞご勝手に」」







声揃えて言われた……ツラい…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネタを探しネタを活かせないホラー小説作家先生と女の子 元薺ミノサト @minosato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ