三の十二 永遠の高圧洗浄 〜浄化〜

 屋内に戻り、再度キッチンシンクから水を流してみた。排水溝に吸い込まれていく水を眺めながら、意識を耳に集中する。


 


 数秒の間を開けて鳴り出していた例の音、と排水トラップを揺すってキッチンに響いていたあの音は、鳴らなかった。


 。本当に、解決したんだ。


 作業終わりの通水確認にて、水の流れが格段に良くなっていることは分かっていた。音も止んでいるだろうと、予想、いや、ほとんど確信していた。

 しかし、数年に渡って悩まされてきたあの音とオサラバできたという実感が、胸よりもっと内側の、臓腑の隅々までこびり付いていた不快感を拭い去った。


 身も心も軽くしてくれたのは、高圧洗浄機ケルヒョー(仮)とパイプクリーニングホースだ。

 洗浄の効果自体も高かったが、高圧洗浄機を用いての洗浄であった今回は、衣服どころかゴム手袋さえ、ほとんど臭いが付かなかった。

 汚水枡の中に肘まで突っ込んだために汚水が長手袋に入り込み、手指に臭いが染み付いてしまって、近づけた鼻が曲がり、遠ざけても一度着いた臭いが鼻腔内で繰り返し対流し、食事の際にふと思い出してしまって何もかもが不味くなっていた最初の汚水枡洗浄とは大違いだ。

 専用装備の有り難みを噛み締め、そして。


 もっと、もっと、うねるホースを繰り入れたい。うなる水流をぶつけたい。

 汚れを、汚れている箇所を、探さなくては。


 手段が、目的になる。


 排水管洗浄の快感は動画でも感じていたが、誰かの作業風景ではなく、自分自身の手が生み出した光景は刺激を倍化させた。

 パイプクリーニングホースを操りたい欲求に駆られて、洗浄できそうな箇所を探した。

 

 こうして、もちろん表向きは未洗浄部分を片付けるという名目の元、次々と排水管を洗浄していく。

 

 まずは、外の汚水枡と汚水枡の間の排水管。各汚水枡の間は一メートルから一・五メートルほどの排水管で繋がれている。予想以上に狐色の油汚れ。

 続いて、シンク下の蛇腹ホースと床下を斜め下に降りる排水管。これは台所シンクの排水口からパイプクリーニングホースを突っ込んだ。

 さらには、洗面台と風呂の排水管も。

 洗面台は排水口の数センチ下にある突起が邪魔で上から入れることはできなかった。

 風呂場は、トラップを外してカビ臭い封水と縁裏のヌルヌルを洗い流す。排水管は太くて詰まるようなモノは流さない上、汚水枡の状況からも問題はなさそうだったが、せっかくなので高圧洗浄。

 

 あっという間に、一通りやり終わってしまう。あぁ、次は。一年くらい経てば。

 


 【掃除とは最も簡単なカタルシス精神浄化である. O. Mayuu】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

台所の排水詰まりを自力で解決した話 沖綱真優 @Jaiko_3515

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ