第14話 襲撃04

 レイラは一瞬、何が起きたのかわからなかった。いつもならダヴィデの行動を予測できそうなものだが、『ネイトに早く逃げて欲しい』という甘ったるい感情が隙を生んでいた。



──わたしのせいでネイトが死んだ……。



 愛する弟分の死はレイラを愕然とさせた。周囲では次々と人が死んでゆく。両親、クラッチ兄弟、そして今度はネイト。レイラは蔓延る死の中心にいた。それこそ、『冷たい死神メル・デロサ』という異名そのものだった。



──わたしは何をやってるんだろう……。



 最初は自分の無力さを痛感したレイラだったが、やがて心の奥底でふつふつと怒りが滾るのを感じた。レイラはダヴィデを睨みながら、薄い唇を微かに動かして問いかける。 



「ねぇ、ダヴィデ。家族ファミリーって何?」

「今さら何を聞いてんの。家族ファミリーとは血よりも濃い絆で語られるものよ!! だから、家族をられたらやり返す!! 絶対の掟よ。わかるでしょ??」



 ダヴィデは苛立ち紛れに答えた。そもそも、レイラと問答をしている余裕はない。目の前にはアリオという強敵がいる。しかし、レイラはアリオを見向きもしなかった。



「そうね。家族の報復は絶対の掟だわ……」



 レイラは独り言のようにポツリと呟いた。そして、右手で腰の後ろに隠し持ったダガーを引き抜く。結局のところ、レイラも感情にまかせて暴力を振るうギャングの一人だった。ネイトを失った喪失感と怒りをダヴィデへ向ける。



「てめぇはネイトを殺した。わたしの弟を殺したんだ。わたしとニコラの協定はたった今、破られた」



 レイラの口調がかわった。暗い声色で言いきると地面を蹴る。



「な、何をする気なの!?」



 ダヴィデは驚いてトンファーを身構える。しかし、レイラはすでにダヴィデの懐に飛びこんでいた。ダヴィデの顎下にダガーの切っ先を突きつけると、柄頭つかがしらに掌底を思いきり打ちこむ。


 すべてが一瞬の出来事で、ダヴィデに『暴虐トンファー』の能力を発動させる間はなかった。ダガーは顎から頭部の中枢へ向けて深々と突き刺さる。



「ハニフンノホ(なにすんのよ)……」



 ダヴィデは白目を剥きながその場に両膝をついた。致命傷を負っても戦意だけはあるらしく、レイラへ向かってトンファーを一閃させる。レイラはトンファーをかわすと再びダガーの柄に触れた。その瞬間、今度はダガーの剣先から無数の剣撃が繰り出され、ダヴィデの脳内をズタズタに引き裂いた。勢いが余ったいくつかの刃風は頭部から外へ血と脳みそを撒き散らした。



「に、にほは(ニ、ニコラ)……」



 ダヴィデはトンファーを手放し、ダガーの刺さった喉を掻きむしりながら斃れる。ダヴィデの巨体が地面に転がると辺りは急に静かになった。レイラはダヴィデの死体に歩みよるとダガーを引き抜いた。そして、今度は剣先をアリオへ向ける。



「アリオ、すぐにこの街から出て行って。そうしないと……」

「わたしを殺すのですか?」



 アリオは何事もなかったかのように平然としている。転がる死体を無感情に眺めながらレイラへ尋ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Nothing But Requiem(ナッシングバットレクイエム)N.B.R. 綾野智仁 @tomohito_ayano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ