いつも笑顔で誰にでも優しく、裏表がない。
そんな分かりやすい「いい人」は、殆ど出て来ません。「いい人」という言葉の範疇に収まる人が存在しない、と表現する方が適切かもしれません。
『Dead man’s hand(デッドマンズハンド)D.M.H.』には登場人物の心の多面性が、これでもかと言うほど克明に描き出されています。尚且つ「人間、誰しもいい面と悪い面がある」などと安易にメッセージをぶつけて来ることもありません。善悪の勘定を読者に委ねている点が素晴らしいです。
「格好良く成長する主人公」や「可愛いヒロイン」といった単純明快な枠組みは、すぐに打ち砕かれるのではないかと思います。きっと各登場人物への評価は二転三転します。
淡々としていながら、確かな熱を持ってこちらに迫って来る三人称の語り口が独特です。
パッと見は、怪異を物理でブッ飛ばすパワフルな悪霊退治ものです。エンタメ性を追求した展開の隙間に挿し込まれた心理描写を、より多くの方々に楽しんで頂きたいです。
丁寧な心理描写、軽快なアクション表現と登場人物達のフランクで個性的な会話シーンの対比がとても心地よい作品です。
そして、魅力的な登場人物達の三者三様の恋模様が心霊ホラーの恐怖をさらに盛り上げます。
主人公と特殊な関係を持つ、全能といっても過言ではない超常の力を持つ美少女の艶っぽい仕草は、男子諸君の胎内回帰本能を存分に満たしてくれることでしょう。
また、神的合一によって自己承認欲求が極限肥大して世界を2回も補完しかけた例の少年よろしく、自己肯定感が希薄で卑屈な少年の鬱積したデストルドーが、古の神との関係性のなかで自己の内部から徐々に外部へ向かっていってしまうのではというハラハラ感がたまりません。(中二病患者の方は特に。)
これからいったいどうなってしまうのか、次の展開がとても楽しみです。