ゲッコウ
高黄森哉
喧嘩
大親友の伊吹ちゃんと喧嘩してから半日が立った。伊吹ちゃんは、この学校に入学した時、最初に出来た親友で、クラスが別れてしまった今も友達で居続けている。けれど、それが壊れたのが、今から十二時間前の朝の登校で、伊吹ちゃんにこないだの罰ゲーム彼氏の手紙は実は私製なのだと告白した時だった。
私は善意でバラしたつもりだった。仕掛け人は強制されたことで、騙し続けることが役目だった。でも、気もない正樹くんにアプローチし続ける彼女を見ているとかわいそうで、いじめの輪に入ることも覚悟でネタ晴らしを決心したのだ。
ばらした時、伊吹ちゃんは何でもなさそうだった。やっぱりそうだよね、と呟き、景色を見ていた。それで、ホッとしたのだけど、それきり話しかけてくれなかった。私から話すこともできたのだけど、返してくれない自信があった。
それで、クラス前で別れる時は、手を振ってくれたから、すこし安心した。仲直り出来そうな予感がした。それで、二限目は体育の授業で、私は下に来ていた体操服を晒すことになった。バレーが終わって、三つ編みに戻して、制汗剤を撒いて、机から英語の教科書を引き出した時、はらり一枚の手紙が落ちてきた。
床に落ちたそれを拾い上げてみると、伊吹、と右下に小さく書いてあって、手紙には大きなヤモリの絵が描いてあった。それだけしか書いて無くて混乱した。訳が分からないけれど、仲直りならいいなと思った。これが何を表しているか測りかねたまま、眠い英語の授業に突入した。授業前に時間があったのだけど、汗の匂いが気になって、遂に彼女のクラスには訪れなかった。
それで、窓際の席でとろとろとまどろんでいると、いろいろな単語が浮かんでは消えた。授業中に、どういう経緯か聞きそびれたが、ヤモリと言う単語が取り上げられた。イケメンの田村先生が、読み上げる反復は最初は心地よかった。しかし段々と息継ぎが激しくなり、顔も息苦しさに歪み、鬼気迫る読み上げに変化していく。蛙が吠える呻きなのだ。それなのに、先生が黒板に書いた文字は、読み上げるそれとは明らかに違う。
黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板『Hysterica passio !』板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒板黒
―――――― ハッと目が覚める。
授業は、もう終了していた。お昼寝してしまったらしい。私は、わるい生徒だ。だから伊吹ちゃんのところにいって、もっとちゃんと謝るよ。ごめんね、ごめんね、ごめんね。伊吹ちゃん。そう思い、突っ伏した腕の砦の中で誰にも見えないように、舌をちろっと出した。
ゲッコウ 高黄森哉 @kamikawa2001
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