第5話 自分じゃない自分
強大な力を持つらしい集団のボス、ブラッグは
非常に弱弱しくこう言った。
「……
「いや、お前もかいいいいいい!!!!」
それもそうである。目黒世玲菜は廻の大親友。
彼女がトラックにひかれそうになった所を身代わりになって廻は異世界転移したのだから。
世玲菜はブラッグの男前な巨体で首を傾げて手を震わせた。
「あ、あなた、わたくしの事がわかるんですか!?」
「……二次元しか勝たん」
「え、まさか……赤ちゃん!?」
「そうだよ、世玲菜ちゃん!」
廻は思わず抱き着いた。
「会いたかった……。また会えてよかったよおおお」
「わたくしも、気づいたらこんな知らない場所で……。赤ちゃんに会えてよかったです」
ちなみに今これは女子高生二人の感動的再開シーンだが傍から見ると
チビな平凡男と屈強な男が互いに抱き合って感激しているだけであり、
部下の男たちやライはそれを茫然と眺めていた。あえて具体的には説明しない。ご想像にお任せする。
「ちょいちょいちょい! あんたら、なに間違えて歯磨き粉飲んじゃった時みたいな顔で見てるんだよ!」
いや、言うんかい。
「こちとら二人で話したいことがあるから、ちょっと出て待っててくれる?」
他の人達(ライも含め)を部屋から追い出した。
これは廻の企みである。
部下たちから見れば、今の状況は意味不明。恐ろしいボスが、連れてきた雑魚と楽しく接しているのだから。
なぜ世玲菜がいるのかは置いておき、助かるべくとにかく状況を有利に使った。
「世玲奈ちゃん、落ち着いてきいてほしいんだけどね……。あたしが思うに、ここは日本じゃない。剣士や魔物が存在する異世界なんだ」
二人は友達の家に来たかのようにベッドに横並びに座った。廻は説明を続ける。
「しかもお互いに男になっている。性転換までしてるんだ」
「ちょうどわたくし達がハマっていた異世界転移…ですか」
「世玲奈ちゃんは、どこまで覚えてる?」
「トラックに轢かれそうになって、赤ちゃんが助けれてくれて……。気づいたらここで寝ていました」
「この世界ではさっきが初めて目覚めた時だったってことね。ていうか、必死に助けたつもりだったのに、ダメだったんだ…はは…」
「わたくし達、一体どうなるのでしょうか…」
不安に駆られる世玲奈。そんな彼女の手を握り、廻は口角を吊り上げて言う。
「これはチャンス、だよ。人生を思い切り楽しむチャンス。赤坂廻と目黒世玲奈はトラックに轢かれて、本来の世界には戻れなくなっちゃったけれど、あたし達は異世界転移している! 姿も環境も違えど生きてるんだ! しかも憧れの異世界で! 死んじゃったのも運命、ここで生きるのも、運命だよ!」
「そう…かもしれませんね。何より、友達がいる。これが一番大きいです」
「そうだよ! 一緒に異世界で最強目指そうぜ!!」
廻はベッドの上に立ちガッツポーズする。
「でもわたくし達、見た目が……」
「そう、そこがポイントなんだよ。これまで様子を見たところ、あたしはレッドリィという名前の剣士。弱いらしくてめっちゃ嫌われてた。それに反して、世玲奈ちゃんはめちゃくちゃに敬られている。ブラッグという名前で、ブラッグファミリーという組織のボス。どうやら最強の魔法使いらしいよ」
「わたくし魔法の使い方なんて知らないですよ!」
「あたしも剣の振り方なんて知らない…。この世界で生きていく…最強を目指すには工夫が必要そうだね。とにかく、それぞれが自覚を持つこと!」
「と……言いますと?」
「世玲奈ちゃんは世玲奈ちゃんじゃなくて、この世界に住むブラッグという人物として振る舞わなくちゃいけないってこと」
廻はブラッグ(世玲奈)の目の前に立つ。
「ねぇ、ブラッグ」
「……」
「世玲奈ちゃん、返事! これ練習!」
「あー! そうゆうことですね!」
「ブラッグ、数学の課題やった?」
「……そんな会話異世界でしなくないですか?」
「…いいの、会話の内容は! いかに本人としてスムーズに対応できるかがポイントなんだから」
「わかりました。レッドリィの趣味を教えてください」
「……っぁっ、あ、あたしかっ、いや…俺ね! …うーん、そうねぇ…」
「っぜんぜんスムーズじゃない!!!」
廻と世玲奈はすっかり2人だけの世界に入り込んでしまい、
追い出された男達はひたすら待つだけであった。ライと部下達もいくら不仲とはいえ、この状況には謎の一体感が生まれ、会話を交わし始めた。出始めは鬼のような表情の男だった。
「……なぁ、あのレッドリィがよぉ、うちのボスとあんな仲良かったのか?」
「いや、長年一緒にいるけど知らなかったよ。まさか裏で繋がっていたとか……」
「いつまで話してるんだろうな。ていうかあの二人の会話って…一体何を話しているんだ?」
鬼男はそっと、扉に片耳を当てた。
「ブラッグ……お願いだ。ちょっと、ちょっとでいいから…筋肉触らせて」
反射的に扉から離れる鬼男。
「あ、あいつらまさか、そういう関係…」
「な、何が聞こえたんだよ! 僕にも!」
ライが今度は耳を当てる。
「……ちょっとレッドリィどこ触ってるんですか!! 腕だけですよ!」
「ちょっとずれただけじゃんー。胸くらいいいでしょ。なんなら、そのおパンツの中も非常に興味が…」
ライは扉と距離をとったその時、音を置き去りにした。
「嘘だ…。あり得ない。レッドリィは女の子のことが大好きなはずだ」
「いや、女の子みたいな男であるお前と一緒にいるのも、これで納得がいく」
「やめてくれよ!」
ライは必死に否定しようとする。興奮していた鬼男もひと息つき、体勢を整えた。
「と、とにかく…。お互いの立場や名誉を守る為にはこの秘密を隠し通すことが必須だ。あの二人が共に行動し、誰かに接触する。それは絶対避けなければならない…!」
その時、ずっと閉ざされていた大きな扉が勢いよく開いた。
中に立つのは、何か心に決めたであろう希望に満ちた表情で並ぶ、二人の男だった。
「俺たちは
「わたしたちは
パーティを組む!!」」
キャラシティオーバー ~ 女子高生が始める少年剣士生活 ~ 舞知崚博 @maiti-rt2
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