第4話 暗闇の招待


 ボスのところへ連れていく。

 そう言われライと共に連れられためぐるは、

店を出た後に少し後悔した。


 取り囲む男達の神妙な顔つき。先ほどまでの小馬鹿にしたようなオーラはどこかへ消えさってしまっていた。

 ライも異常に怯え震えている。


 暗い道中、廻は小声でライに話しかけてみた。

「なあ。これから行くところ結構やばい感じ?」


「何言ってるんだよレッドリィ……。その記憶もないのか? ”ブラッグファミリー”はこの国最強の魔法使い”ブラッグ”が率いる闇の組織だよ。ワケアリの兵士や冒険者で固まったその勢力は国を裏から支えていると言われるほど誰にも手出しはできない、恐ろしく謎の多い秘密集団さ」


 廻はとても後悔した。


「僕らみたいな駆け出し冒険者が連れていかれるなんて。生きて帰れる可能性の方がはるかに低いよ」

 ライは目も合わせてくれずにただ口を動かして状況を説明してくれた。

 

 廻は非常に後悔した。



 

 いかにもな豪邸に入ると、空気が変わる。廻は自分の足が重くなるのを感じた。警備として配置された剣士たちが一斉に廻とライを睨みつけてくるのだ。

 館内は照明が最低限の灯のみで薄暗く、静かで足音だけが響き渡っていた。


 そして大きな扉の前に着くと、そこで立ち止まる。

「ちなみにこの時間、ボスは寝ている。寝起きは人一倍機嫌が悪い」

 相変わらず男は鬼のような表情で、誰も喜ばない助言をしてくれた。




「行けってか……起こせってか……?」

「ああそうだ」


 い、行きたくねえええええ。

 けど、ビビってるのもバレたくない……!

 いや、別にビビってないけど……。ちょっと、あれ、コミュ力がね。うん。




 扉の前で廻は必死に鬼男に問う。

「けどさ、いきなり何者かも知らない俺達が入って起こしてってどうなのかな? 不審者の侵入を許しているわけで。いくら寝起きが悪かろうが、あんた達から一言紹介があってからの方が、俺達がどんな愚か者かがボスにも伝わるし、怒りやすいんじゃないかな」

 なんであたしは如何に怒られるかのプレゼンをしているんだ。

 いや、でも、寝起きで意味不明に逆鱗に触れるよりかはマシな選択肢の提案なはず。うまく誘導できているはず。


「しゃーねえ。おい、お前がボスに伝えてこい」

 鬼男が命令し、

「失礼しやす」

 一人の男剣士が扉を開けて中に入って行った。



「……」



「…………」



「………………



 ――へ、変態!!!!!!!」



 ボガン!!!!



 扉が勢いよく開き、飛び出た男剣士が床に転がり落ちた。


「?????」


 一同は状況に困惑する。


 男剣士の顔面には真っ赤な殴られた跡が残り、白目をむいている。


 彼はボスの部屋から吹き飛ばされてきた。

 彼らのボスの部屋から。「変態」という大声と共に。 


「……ボス?」

 鬼男は暗闇の中でたたずむ、大きな影に目を移した。


 そこには息を上げ握り拳を突き出した状態の男が、彼もまた困惑した表情でこちらを見ていたのだ。

 

「あ、わりとタイプかも」

 レッドリィ(廻)が呟いたそれに、ライは「はぁ?」と素で返す。


 長身で足も長く、体格もしっかり男らしいと言えるくらいの幅がある。防具から見える筋肉は引き締まり、顔立ちも非常に整っている。癖のある黒髪にやや褐色の肌が、何とも言えない頑丈さと勇敢さを表していた。

 彼はレッドリィ(廻)やライ達を何度も見ると大きな口を開き、ついにその威厳のありそうな声を発したのだ。

「ちょっと、あなた達誰なんですか!? 警備は、お父さんやお母さんは!?」


「……ボス?」

 恐らく、普段とは違う彼の言動に頭が真っ白になっているだろう、部下の男達。



 …そうだ。さっきの「変態」もこの声だった。

 このボスが出したのだと、廻は気づく。


「ていうか、わたくしが変なのかしら? 男? 何なのよ一体~!」


 その言葉に廻はピンときた。

 すぐさま声をかける。

「あの、もしかして……元々、お金持ちなオタクの女子高生だったりしませんか……?」


「えええ!? そうです。分かるんですか、わたくしのこと!」


「たぶん。いや、きっと……。まさかとは思うけど……



 ……きみの名は?」




「……目黒めぐろ世玲菜せれな……です」


 この世界で女はもちろん男からも恐れられていた集団のボスは、


 屈強な肉体を持つそのボスの中身は、



 なんと、あたしの大親友だった。



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