第3話 キャラシティオーバー

 笑い声に溢れる酒場。

 レッドリィ(めぐる)とライを馬鹿にする男たちを中心に、客たちが大いにその空気を盛り上げる。


 満足そうにそれを確認した鬼のような表情の男は、ライの冒険者ライセンスを持ち侮辱を続けた。

「このライセンスを持つっていうことはな、プロの冒険者になるってことだ。当り前に魔物を倒し、人を助け、報酬をもらう。それがお前らみたいな弱虫、いくじなしに務まると思うか? 夢だったけか? 誰でも夢を叶えられると思ったら大間違いだぜ。やることはきちんと自分のことを知って選ぶべきだ。そうだなぁ……お前は雑草駆除がお似合いだぜ」

 笑い声に包まれる中、ライは悔しさのあまり拳を震わせる。

 廻も同じだった。


 こんなに悔しいのに、


 何もできないのだから。


「……っぐ」

 やり返したいのにやり返せない。

 言い返したいのに言い返せない。


 だって、こんな全員が敵みたいに笑われてたら言い返せっこないじゃん。

 完全にあたしとライは孤立してしまってる。

 

 けどいいの……?


 このままで……?


「人の役に立つ業者が人に馬鹿にされていては、冒険者にはなれませんっ!」

 鬼男はついに、

 木製のライセンスカードを、真っ二つに折ってしまったのだ。


「そ、そんな……!?」

 ライの顔が白く変わった。あまりの衝撃に声もそれ以上出さなかった。


「そ、それは……ライの大事なものだ。お前ら何をしたか分かってるのか…?」

 レッドリィ(廻)は震える声と共に睨みつけた。

 

 鬼男は剣に手をかけ、血管を顔に出して言い返す。

「ああん? 何か言いましたか?」



 くっ…と廻は言葉をつまらせる。


 ああ……あたしに力があれば。

 この状況を打破できる特別な能力があれば……!





 特別な



 能力…?




 いや、あるじゃん!

 異世界にきて変わってるもの。

 あたしには無かったもの。


 


 男になっている!!




 そうだ。あたしは今、男として発言できる。対抗できる。

 これまでの自分を越えろ。ふっきれろ。

 個性をぶっ壊して、心でぶつかれ!!!!!


「おめぇらはよぉ!!! 他人を使わなきゃ自分を表現できねーのかって言いてぇんだよ! このカス共!!」


「……は?」


「知りもしない人のこといちいち馬鹿にしやがって。それで強くなったつもりか? それでしか笑いをとれないのか? お前がライの何を知っている。ライにとってこのライセンスが何を表すか知ってんのか! 何も考えずに人の大事なもんを道具みたいに扱いやがって。いちいち人を悲しませることでしか注目を集められねーのかお前らは!」


「なぁに、俺は事実を言っただけ。弱者が叶えられない夢を追って何になる?」


「あぁ…誰でも夢は叶えられるもんじゃない。けどな、夢は叶えるだけのもんじゃないだろ。どんなに遠くても、無理でも、見えなくても、それの為に必死に生きて追えるってのが夢の醍醐味じゃねーのかい! そんなダチの夢のためなら、俺は何だってやってやる」


 廻は溢れ出そうな涙をこらえて、

 剣を抜き、鞘を放り投げた。



「舐めんなガキ!」

 戦闘態勢に入ったレッドリィ(廻)に対し、2人の男が剣を振るってきた。


 剣を振ったことなど、戦ったことなどない廻はゲームやアニメの見よう見まねで動かそうとするが、

 あっけなく男たちの剣捌きに圧倒されてしまった。

 剣は弾き返され、後ろから首と両腕を拘束される。



「まぁまて。そこられんで止めてやれ」

 そう言って鬼男がニヤニヤしながら近づく。

 そしてレッドリィの周囲をうろうろしながら語りかけた。


「俺たちが正義だろうと悪だろうと、お前らが夢を追うだろうと死ぬだろうと、関係ない。ひとつだけ事実がある。それはお前らは完全に、俺らブラッグファミリーに反抗したということだ。これはボスに報告、そして判決を下されるべき愚行だ。連れて行くぞ」


「あいよ」

「お前ら2人、こい」


 ライは囲まれて、レッドリィは強制的に同行をさせられ始めた。


 怯えるライの表情を見て、廻は少し後悔するのであった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る