第2話 異世界転移したのだから


「俺らもパーティに入れてくれるよなぁ?」

「お前ら二人だけだと弱っちくて何もできないだろ」

「一緒にいればたくさん遊べるじゃねーか」


 高身長、そして体格のある四人の男共が、食事をするレッドリィ(めぐる)とライの周囲に並んだ。


「やぁ……」

 ライは肩をすくめて引きつった笑顔を見せた。

「心強いけど、たぶん迷惑になるだけだよ。だから別に…その…」

「ああん!? 俺らブラッグファミリーが邪魔だってか!?」

「ち、違うよそうゆうわけじゃぁ!!」


 男達はがっちりとライの肩に腕をかけ、身を寄せた。


「じゃあ……どういうわけなんだ? 3秒以内で答えなければ、強制的に俺らの配下だ」

「……っ」


「レッドリィよぉ、お前も黙ってねぇで答えろよ?」

 他の男に腕を巻かれる廻。


 廻は息を呑み、回答を待つ彼らにこう述べた。

「……3秒経ったよ」


「……は?」


 困惑の表情を浮かべる一同。

 廻は満面の笑みで淀みなく喋り続けるのだ。

「まったくよぉ〜! んな3秒以内になんか整理つくかよ〜! 言われなくても、いつも通り一緒に馬鹿やってればいいんだろっ!?」


「……」

 

 廻は決して誤魔化しているわけでも、反発しているわけでもなかったのだ。

 いたって真面目。いたって正常。

 この男らはふざけている、そう捉えていたのだ。


 風呂屋から忘れ物の剣を届けられた時に言われた「馬鹿だなぁ」で、廻の勘違いは始まっていた。

 嬉しかったのだ。"馬鹿をやっている"で済まされたことに。そして繋がる、"男だからそれで済まされた"という思考に。


「なぁなぁ、今日は何して遊ぶよ。回復薬をかけて男気じゃんけん? 魔法ぶつけ合いっことか? それとも全裸で魔物退治としゃれこもうか?」

 

「こいつ……大丈夫?」

「なんかいつもと違うな」

「はっはっは……。ならば戦って負けた方が受付嬢に愛の告白なんてどうだ?」


「うわー! でたそれ。男子お決まりのやつ! 最高!」


「駄目かもしれない」

「ちょっと怖い……」


 この人たち絶対いい人たちだ! 仲間に誘って、さらに遊ぼうなんて言ってくれるなんて! 完全にこれは一緒に馬鹿なことをしてはしゃげる流れじゃないかぁ!!!


 以上、廻の思考である。

 目を輝かせるレッドリィに男たちは引きを見せたが、1人だけ、仁王立ちで睨み続ける鬼のような男がいた。


「どうやら……いよいよライセンス入手で調子に乗り始めちゃったみたいだな? ライセンスを持っていれば冒険者として同じ位置に立てるとでも思ったか?」


 鬼男はレッドリィの赤髪を鷲掴みにし、顔をぐるんと動かさせた。

「ぐっ……!」


「どうなろうがお前らはな、永遠に最底辺なんだよ。同じ世界にいようとアリはアリだ。雑魚は雑魚なんだよ」

 

 こいつら……!

 レッドリィ(廻)の黒目がきゅっと縮こまり、目つきが変わった。


 ……最底辺? それはどうかな。

 あたしは異世界転移者なんだ。異世界転移した人間には何かしらの能力がついていて無双するのがお決まりなんだよ。今からニヤケが止まらない。

「おい、てめぇニヤニヤすんな」

 これから、このチンピラ共はあたしの力によって屈服させられる。そんなストーリーが丸見えでヨダレが出そうだ。

「こいつ、ヨダレ垂らしてまっせ」

 ここは一丁、簡単な魔法か何かで蹴散らして力を見せつけてやりますか……やれやれ。




 そしてレッドリィ(廻)は、右腕を掲げた。


「いでよ、いかずち!!」


 響き渡る詠唱。

 しかし、

 何も

 起こらず。


「あれ……魔法陣展開! 我に力を授けたまえ! 封印解除! スキル発動! ステータス! シャザム!」


 


「…………」


 



 ナニモオキナイ!?

 どうして! あたし、異世界転移したんだよ!? なんで何もできないのさ! もっと手順があるパターン? 無能からスキルアップするパターン!?



「口だけは魔法使い気取りか?」

 鬼男は不敵に笑うと手のひらを見せ、

「魔法ってのはこうやるんだ! コネクト・フレイマ!!」

 それを唱えると、廻の目の前にあった料理が瞬く間に大きな炎に包まれ、丸焼きの肉が黒く焦げてしまったのだ。

 廻とライはのけ反り、驚きの声を上げる。


「ふあははは! みろ、初めて魔法見たのかなオチビさんたち?」

 周囲の男が笑う。


 するとライの背後にいる男が、

「おっ、冒険者ライセンスじゃねーか」

 大事に手に握ってきたカードを見つけ、奪い取り、晒すように掲げた。


「こんなもの持ってても、最弱魔物にやられちゃうんじゃないの? きみたちぃ」

「「ははははははっ!」」

 その空気につられ、客までもが豪快に笑い始める。

「どれどれ? うーん。まだ反映されてないけどこの人たち、ランク1でぇーす!」

「「わっはっはっは!!」

 この場で笑っていないのは、うつむくレッドリィ(廻)とライの2人のみ。

 それをみて鬼男はライセンスを持ってニヤリと口角をつりあげた。


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