刑事Aの日記
misaka
あなたは探索者です。
ある日。
原因不明の事故があって数年前に廃墟となった病院で、あなたはとある日記を見つけた。
目を通す場合は、下記の情報を知る。
…………
『刑事Aの日記』
ある日。刑事をする私は奇妙な事件に遭遇した。
その記録をとどめるため、こうして筆を執る。
ことの発端は一本の通報だった。
通報者曰く、夫の様子がおかしい。
いたずらの可能性もあったため、近くにいた警察官たちが現場に向かう。
しばらくして、警察本部に届いた無線からは叫び声が聞こえ、音信不通となった。
折り返し問い合わせるも、応答も無し。
事件の可能性が高まり、手の空いていた私と同僚の刑事、2人で現場に先行することになった。
現場は閑静な住宅地にある、こじゃれた一軒家。
周囲を確認すると、庭先からリビングの明かりが漏れていた。
庭先へと続く出入り口のカーテンが開け放たれていたため、そこから屋内を確認する。
そこには――。
おびただしい量の血と、倒れている3つの人影が見て取れた。
すぐに救急車と、応援要請を行なう。
同時に、重要参考人になるだろう、通報にあった「夫」の捜索に当たる。
と、家の中から女性の悲鳴が聞こえたため、同僚と2人、救援を待たずに現場に突入する。
アプローチを抜けて、玄関扉へ。
玄関の鍵は開いており、音を立てないよう、慎重に扉を開いた。
途端に漂ってくる鉄のにおい。
嫌な予感がして踏み込んだその玄関には血だまりに沈む、1人の警察官がいた。
息はしていない。というよりは、それを確認するための頭が叩き潰されてしまっていた。
玄関から上階へ続く階段へと続く血の足跡をたどって、2階へと急ぐ。急げば、悲鳴を上げていた人物を助けることが出来るかもしれない。
今思い返せば、その足跡は異様に大きい、50㎝ほどもあったように思う。
物音がする一室。
重いものを叩きつけるような重音が振動とともに響いてくる。
運よく扉が少しだけ開いていたため、中を確認する。
最初に見えたのは、肥え太った人間の裸だった。
そこで私は、ふと、疑問に思った。
その部屋に明かりはついていない。正しくは、照明がついていない。
にもかかわらず、そのだらしない身体をつぶさに観察できている。
その理由は、腕を振り上げる裸の人間そのものが蒸気を上げ、白熱しているためだった。
と、ソレが振り向いた、ように見えた。
というのも、その身体には、そこにあるはずの頭部が存在していないのだ。
顔が無いというのに、振り向くという表現がおかしい。
いや、そもそもの話。
頭部が存在しないことを歯牙にもかけない様子で動いていることを疑問に思うべきだった。
腕も、足も。成人男性の胴体ほどはあるのではないだろうか。
ゆっくりと立ち上がる体高は2mを優に超え、横幅もそれに負けず劣らず大きい。
フォルムは赤ん坊のそれに近いのだろうが、愛らしさなど一切存在せず、ただただ
脂肪が垂れ下がる腹がこちらを向く。
その足元には、悲鳴を上げていたと思われる女性が血まみれで倒れていた。
制服を着ていたために、駆けつけた警察だということがわかる。
私の隣では、同僚が何かを叫んで、銃を構えていた。
しかし、私は状況をうまく飲み込めず、何もすることができない。
よたよたと、醜悪なソレが歩くたびに、恐怖に負けた私は一歩ずつ後ずさる。
勇敢な同僚はなおも、銃を構え、警告をする。
それでも、その異形の生物は止まらない。
やがて、短い発砲音。
同僚が放った銃弾が大きな的を捉える。
しかし、それが止まることは無い。
再び、発砲。
何度も、何度も。
それでも迫ってきたソレはやがて、震える手で弾切れをした銃を構える同僚の頭を鷲掴みにした。
硬い殻が砕けるような音。
大量の液体が滴り落ちる音。
そして、床に重いものが落ちる音。
その光景はおぼろげだが、妙にリアルな音だけは今も、耳の奥で響いている。
一瞬の出来事だった。
目の前で繰り広げられただろう惨劇に、さしもの私も腰を抜かしてしまう。
逃げなければ、と思う反面。
ソレから目を離すこともできない。
床を這いずるように後ずさる私に、ソレがゆっくりと手を伸ばす。
そして、私はそこで確かに見たのだ。
その手のひらに、黄ばんだ歯、と真っ赤な舌をのぞかせる人間の口があったことを。
そして今、病院で目覚めた私は、こうして事の顛末を書いているわけだった。
やはり、こうして書いて整理をしてみても、アレが何だったのか。
何が起きていたのか。
さっぱり分からない。
そばには銃弾を受けて倒れている家の主人。苦悶に満ちた表情のまま、絶命していたようだった。
まだまだ事件は調査中だが、何らかの理由で精神が耗弱した夫による一家心中ではないか、というのがおおよその見立て。
家族4人に警察官2人、刑事1人。犠牲者が計7人も出た、悲惨な事件だったが、じきに解決することだろう。
どうせ入院中はヒマでもあるし、私が抱いていたという本を読んでみることにする。
見覚えのない、古びた本だが、英語で描かれているようで、容易に読むことが出来そうだ。
ひょっとすると何か事件の手掛かりにつながっているかもしれない。
……いや、そうに違いない!
『グラーキの黙示録』。
偉大なるこの書を読まなくては。
そして、かのお方をここに……。
…………
そうしてこの日記を読み終えたあなたは、足元に落ちている古びた英書を見つけるだろう。
先ほどは無かったように思うが、そんなことはどうでもよく思える。
そして、たとえ英語を読めなくとも、あなたはその本が『グラーキの黙示録』であることを知っているだろう。
すると、どういう訳か、金色に縁どられた分厚いその書を、無性に読みたくなる。
『きっとそこには、あなたの知りたい世界が広がっている。あなたの知りたいことも、全て書かれているだろう。例えば、かのお方を降臨させるための儀式の方法など』
そんな魅力に抗えるかどうか。
そして、それを読み終えた時、あなたは何を見るのか。
――そもそも、今のあなたが正気であるかどうか。
全てはサイコロだけが知っている。
というわけで1D100を振ってください!
刑事Aの日記 misaka @misakaqda
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