14話「やむを得ず大学へ」
「あれ、過去問がいくつか足りないな……」
試験が、数日前に迫って来ているということもあって、去年までの過去問を使って学習を進めていたのだが、何枚か足りないことに気がついた。
この部屋には、コピー機がないので印刷するが出来ないため、大学にまで足を運ぶ必要がある。
面倒に感じるが、科目によっては過去問と同じ問題が一部出たりするので、やらないわけにはいかない。
「……今から大学に行くかぁ」
マンションから大学までは、それほど遠くはない。
歩いて10分ほどの位置にあるため、何か急ぎの用事やこうしたちょっとしたことで大学を使いたいときも、気軽に足を運ぶことが出来る。
身支度を整えて、必要最低限の荷物だけを持って部屋から出る。
冬の寒さと風の強さを感じながら大学に行くと、試験前でもう講義をやっていないこともあってか、ほとんど人がいない。
厳しい寒さと風に耐えかねて、急いで大学の建物内に入った。
急ぐ必要はないが、このタイミングで大学をウロウロしている姿を、教員とかに見られたくもない。
そういう気持ちもあって、早足でパソコンとコピー機が設置されている情報処理室を目指す。
「あっ!」
「おっと!」
角からいきなり人が出てきて、思わずぶつかりそうになった。
何とかとっさに気がついて、ぶつかることは回避できた。
「す、すみません」
「い、いえ。こちらこそ……。って、中野君?」
「あ、あれ。江夏さん?」
ぶつかりそうになった相手は、江夏茉優という女の子。
実習で同じグループだったので、それなりに話をする仲だったりする。
俺が大学内でそこそこ話すことができる、数少ない人物の一人である。
綺麗な顔立ちで、周りの男子たちからも美人とよく言われている。
「久しぶりだね!」
「そうだね。講義は去年のうちに終わったから、なかなか来ることがないもんね。おっと、あけおめだね」
「そっか! 年明けてから初めて会ったことになるのか! あけおめ!」
最初の頃は、お互いに人見知りしてしまって全然話さなかったが、実習というどうしてもコミニュケーションを取らないといけない場面を通して、よく話すようになった。
「江夏さんはここで何してるの?」
「大学内の自習室を使って自習してる!」
「わざわざここで?」
「うん。家に居ると、あんまり集中出来ないし、暖房もしっかりついてるし」
「分からないことも、すぐに聞きに行けそうだもんね」
「そうそう! 中野君は?」
「えっと、過去問が何枚か足りないことに気が付きまして……」
「印刷しに来たんだ?」
「そうそう。もう試験直前っていうのにね」
江夏さんに良い感じで捉えられたいというわけではないが、こういったところがちゃんと管理が出来ていないと思われるのは避けたい。
普通にこのタイミングで過去問の管理が出来てない=勉強してないやつと思われても仕方ない。
そんな思いもあって、なぜ大学に来たか問われて少し言いにくい。
「あるある。確認しておこうって思ったら、なんか無いものあるなって」
「江夏さんもあるの?」
「もちろん。何科目もあるし、去年以降のものも印刷してたら、分からなくなったりするよ」
笑顔で頷きながら、俺のミスに共感してくれた。
江夏さんはとてもしっかりしているので、本当にそうか分からないが、特にあり得ないという顔もしない辺り、優しさを感じる。
「じゃあ、パソコンあるところ行くの?」
「うん。印刷して、それで復習して本番って感じだね」
「お、ちゃんと計画立ててやってるじゃん」
「留年するわけにはいかないからね……」
「ほんとね。明後日から頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
「じゃあ、私は自習室に戻るね」
「俺も情報処理室に行くね」
お互いに別れて、それぞれの目的の場所へと向かおうとしたときだった。
「中野君!」
「ん?」
少し歩みを進めたとき、後ろから江夏さんに再び声をかけられた。
「テスト終わって落ち着いたら、ご飯……とか行かない?」
「あ、ああ……」
江夏さんから、テストが終わったあとにご飯に行かないか、と誘われた。
雰囲気で判断してはいけないが、異性をこうしてご飯に誘う印象は全く無かったので、俺はびっくりしてしまった。
「ごめん、嫌だった……?」
「ううん! まさか誘ってもらえると思ってなくて、びっくりしちゃった。俺で良ければ是非」
びっくりはしたが、断る理由は特にない。
ここで断ると、今後のやり取りに支障が出る可能性があって、そっちが怖い。
「ありがと!」
俺の返事にニコっと笑って、江夏さんは自習室へと向かっていった。
「みんなで、ってことだよな……? 一年お疲れ様的な……。まさか二人でとかあるわけないよな」
情報処理室に向かうながら、ご飯を食べに行くという詳細について、色々と考えてしまった。
彼氏と喧嘩別れした幼馴染を、迎え入れたということ。 エパンテリアス @morbol
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