二頭龍探偵 龍野士竜~死体消失と日記とニッキの謎?~

まっく

死体消失と日記とニッキの謎?

「ここが取調室か」


 感慨深く、部屋を見回す。

 ミステリ好きとしては、やはり一度は訪れたい場所だ。

 卓上のライトや灰皿など、凶器になりそうな物は、机に置いてないというのは本当のようで、白い壁の酷く殺風景な部屋だった。


 こんな場所で長時間に渡って、刑事に詰められると、気の弱い人間だと、思わず自白してしまうのも致し方ない。



 俺は二頭龍探偵の龍野士竜たつのしりゅう。事件専門探偵だ。


 しかし、実績に乏しい俺が、事件探偵一本で生活するのは難しく、アルバイトとの二刀流を強いられている。


 最近、軽い小火ぼや騒ぎを起こしてしてしまい、喫茶店のアルバイトを首になったのだが、帰り道で手にしたフリーのアルバイト情報紙で倉庫管理の仕事を見つけた。

 即座に二刀流復活となり、事なきを得た。


 現在、俺が警察署の取調室にいるのは、探偵としてではない。

 ましてや、重要参考人や犯人としてでもなく、警察に協力する一市民として、義務を果たすべく情報提供に来ているのだった。



「何だよ、お前モグラじゃないか」


「刑事さん、こんにちは」


「タツノシリュウとか偽名使いやがって」


 そっちが本名だよ。


「遂に誰もモグラのへっぽこ推理聞いてくれなくなったのか」


 くっ、言わせておけば。

 しかし、ここは冷静に。


「いえ、今回は探偵として来たのではありません。市民の義務を果たしに来ただけです」


「義務? じゃ、急に大きな声で言う、あの意味不明の口上やらないの」


「『この事件の謎、二頭龍探偵の龍野士竜が、四つの竜眼で見通しつかまつそうろう!』って、やつですか?」


「モグラっ! しーっ!」


 あんたがやれみたいなフリ入れたんだろうが。


「とにかく、今日は殺人事件の情報提供をしに来たんですよ」


「うちの管轄で殺人事件は無いはずだが」


「ええ、おそらくはまだ明るみに出ていない殺人事件です」


「ちょっと待て、モグラお前まさか、事件を解決した過ぎて、自分で殺人を犯したのか」


「そんな訳ないでしょう」


 老刑事の目を見ると、半分以上本気で疑っているようだ。


「場所は?」


「M町の廃倉庫です」


「その死体の顔は。どんな顔をしてた? 男か女か」


「顔は分かりません」


「潰されていたのか、酷い事を……」


「いえ、ありませんでした」


「おいおい、首無し死体かよ」


「はい。手足もありません」


「胴体だけ……、って事か」


「いえ、胴体も無かった」


「じゃあ、殺人なんか起こってねぇよ!!」


「絶対にそんな事はありませんよ!」


「ああ、すまん。早とちりした。血溜まりだけあったんだな」


「いえ、何もありませんでした」


「テメェ、いい加減にしろっ! だったら、何も起きてねぇだろうが!」


 老刑事の剣幕は凄まじい。

 しかし、ここで怯む訳にはいかない。俺の中に確信めいた物があった。こんなのは初めてだ。


「臭いがしたんですよ、血生臭い。これは間違いないです」


「場所に引っ張られてないか? 廃倉庫って、そんな雰囲気あるし。モグラの妄想だと思うがな」


「妄想ではないです」


 やはり、そう簡単には信じてもらえないか。

 心なしか老刑事の目が、憐れむように俺を見ているのは気になるが仕方ない。


 こうなったら、遺留物を出そう。


「現場にこれが落ちていました」


 フリーザーバッグに入れた二つの遺留品を老刑事の前に出す。


「モグラ、こんな袋いつも持ち歩いてるのか」


「探偵のたしなみみとして」


「これは……」


「日記帳とニッキ飴。どちらも百円ショップの商品です」


マニアの犯人の遺留物だと言いたいのか」


「犯人の物か被害者の物かは何とも。で、日記なんですが」


「何か書いてあったのか」


「何も」


「新品って事か。飴の袋も開いてないしな」


 老刑事は顎に手をやり、うんうんと頷く。


「刑事さんは、熱で消えるペンをご存じですか」


「馬鹿にするなジジイでも、それくらい知ってる。擦って摩擦熱で消すんだろ」


「そうです。六十度で消えて、マイナス二十度で復活します」


 老刑事は、だからなんだという顔で先を促す。


「今、倉庫管理のアルバイトをしているのですが、そこに冷凍倉庫がありまして」


「日記をマイナス二十度に?」


「そうです」


「まさか?」


「残念ながら、何も」


「だろうな」


 老刑事は納得の顔で腰を上げる。


「指紋とかDNA調べられませんか」


「調べるのもタダじゃないんでな。それにデータベースに登録がなけりゃ、検出したところで、どうにもならんよ」


 老刑事は、もう話は終わりだというように、俺を出口の方へ促す。


「か、もしくは! とかいうのは、もういいよな、モグラ。」


「ええ、今日は推理をしに来たのではないので。でも、この件、僕はもう少し調査しようと思います」


「まあ、ほどほどにな。一応、日記とニッキは預かっとく。あと、廃倉庫でも不法侵入だから、覚えとけな」


「はい、肝に銘じます」




 二頭龍探偵の龍野士竜、得意のへっぽこ推理すら披露せず大迷走!?


 そして、物語は続く……のか?


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