ドラゴン・リバース
シンヤ レイジ
本編
皆さんは空を飛ぶ人間を見たことがあるだろうか。
時代によっては魔法使い、魔女なんて呼ばれたりして、殺傷された歴史もある。
彼らは
彼らは『空を泳ぐ』生き物なのに。
***
「ソレハ、ナンダ?」
彼女が指さしたのは俺が持っていた餃子。
「餃子だけど…お前も食べるか?」
しばらく匂いを嗅いで
この場面だけ見るとなんの変哲もない日常風景だ。しかし、彼女は空中で餃子を美味しそうに頬張っている。
そう、彼女は人間だが、俺たちが思うような人間ではない。
***
俺の親父が半年前に死んだ。そして葬式の時、親父の本当の仕事を知った。
俺の親父は俺が聞かされていたような平凡なサラリーマンなんかじゃなかった。
確かに、俺は母親がいないにもかかわらず、俺の家庭は何不自由しないほど恵まれていた。それはこの親父の仕事のおかげだったのかと俺は納得した。
俺の親父の仕事は特殊競売の違法出品の取り締まり及びその商品の返還。
つまり、非人道的な闇取引のその中でもヤバイ商品を元のあるべき状態へと戻す仕事だった。
「お父様のお仕事を引き受けてくださって助かりました。こういう
父親の葬式に現れた男性はこの特殊競売の出品管理及び監視者。違法として彼の目に留まったものを俺の親父があるべき場所へと戻していた。
親父はある程度の遺産を持っていたが、厄介な親戚がむさぼり持っていってしまったせいで、高校生の俺はほぼ無一文に等しかった。高校に通い続けるためにも、俺は働かざるをえなかった。
「今回の違法出品はこちらです」
男性が足を止めたのは獣を入れるような大きな檻の前。暗くてよく見えないがその中には鎖に繋がれてぐったりしている少女がいた。
「女の子…?」
「気をつけてください、これでも“女性”ですよ。…私たちの女性とは異なりますが」
彼がそう言うないなや、彼女が呻きながら足をバタつかせると体が宙に浮き、檻の格子にぶつかりながら宙に浮いて飛んだ。
「と、飛んだ…!?」
「彼女は竜神族なんですよ。今は絶滅危惧種ですから、出品はできません」
「竜神族…?」
男性に言われて手渡された資料に目を通す。
名前:不明
性別:メス
年齢:人間年齢十七歳相当
種類:龍
捕獲区域:アイールランド諸島
状態:不良 (衰弱)
用途:臓器提供、剥製、見世物小屋、玩具、飼育等。
言語:不明
「これを俺にどうしろっていうんだ…」
「簡単なことです。捕獲地域のアイールランド諸島に戻してきてください」
彼は涼しい顔で俺にそう言った。
「そこまでの資金は?」
「違法出品の罰金として協会が巻き上げたお金がありますのでそれを。今日はこちらの付属ホテルにお泊まりになってもらって、必要なものを準備出来次第出発してください。その際のお金もこちらで賄います。かなり衰弱しているので早めに返したほうがよいかと」
一見丁寧に見えるが、言葉の節々がそうではないことを物語っている。
俺は彼に案内されるままホテルへと向かった。しばらくして龍人のはいった檻が運ばれてきた。
「これをここに置いて行く気か!?」
「コミュニケーションをとっておいたほうが後々楽だと思いまして」
彼はそう言い残すと足早に部屋を出ていった。
「そんなこと言われても…」
俺が狼狽えながらぐるぐると檻の周りを歩いていると龍人が目を覚ました。
猫のような獣の人が俺の瞳を唱えるないなや聞いたことない鳴き声を発した。
「「ゥギャーーーーーー!!!!」」
彼女はそのまま宙を魚が泳ぐように暴れだした。
「やめろ!そんなことしたら骨が折れるぞ!」
とっさに檻に近づくと彼女が俺の首を絞めた。
補足白い腕からは想像もつかないようなその力は人間とは比べ物にならないほどで、俺の首はミシミシと嫌な音を立てだした。
「「オマエハ、ココカラワタシヲ出スカ?」」
二つの声色が同時に耳に強く聞こえ、頭痛がした。
「出してやる、出してやるから!でも、俺を殺さないでくれ!お前が俺を殺すとお前は国に戻れなくなっちまうんだぞ!」
彼女はしばらくすると俺の首から手を離し、空中で
俺はゲホゲホと痛めつけられた首をさすると、渡されていた鍵を使って檻を開けた。
彼女は外に出ようとするが、繋がれた鎖が邪魔をして外に出られなくて腹を立てて再び暴れだした。
「「コノ鎖、ジャマ!!!!」」
「わかった、わかったから。その声どうにかならないか?頭痛が酷くて目眩がしてうまく手足が動かない」
彼女は俺をじっと見つめたまま黄色いドラゴンのような瞳を数回瞬かせ、初めて人間のように少し考えるそぶりを見せた。
「…コレデドウダ?」
彼女の声が人間程度のものになった。
「助かるよ」
鎖を外すと彼女はスイッとまるで魚が水の中を泳ぐように檻の外へ出ていった。俺の頭上をくるくると回りながらふんふんと髪の匂いを嗅ぐ。
「オマエ…人間カ?」
「人間だよ。君を国へ戻すために雇われた人間」
「…クニ?」
「〈君が住んでいた場所〉だよ。」
「国ニイツ帰ル?」
「明日には出発できるんじゃないかな」
彼女は扉の方へ飛んでいくと無理やり扉を開けようと素手で扉を激しく殴った。
「やめろ!手から血が出ているじゃないか!」
「帰ル、今スグ…」
「これは龍人族でも開けられないよ。巨人族でギリギリだってあの人が言ってた」
「イツ、帰ル…」
「明日出発。到着まではどれくらいかかるかわからない。君の協力次第、かな」
「協力、スル…」
彼女はおとなしくドアのそばから離れた。
「じゃあ…まず君の名前を教えてよ。名前は何て言うの?」
「…」
「名前がわからないと呼ぶのが面倒だろ」
「…」
「3秒以内に答えないと“タマ”って呼ぶぞ」
「私ノナマエハ“タマ”ジャナイ、“ルー”」
「ルーね。俺はカケル。ルーはベッドで眠るのか?」
「空デ寝ル…」
彼女は空中を指さすとそこに犬のように丸くなってみせた。
小さな体がさらに小さくなった。
「そうか、それは便利だな」
「…カケル…」
「どうした?」
「カケルハ、母ガ好キカ?」
「うーん、俺には母親の記憶がほとんどないからなぁ」
ルーは俺をじっと見つめて少し考えた後、体を丸めてさらに小さくなって眠った。
ドラゴン・リバース シンヤ レイジ @Shinya_Leyzi
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