青春18きっぷの旅日記
蕃茉莉
2015年春
4月5日(日) 一日目
仕事を終えたあと、リュックを背負って駅へ。行先は、あるような、ないような。とりあえず、駅に向かって歩きながら思いついた、ひとつめの目的地をめざす。
19:03 日光駅→宇都宮
19:59 宇都宮→横浜
グリーン兼を購入し、座席でパンを食べて爆睡。目が覚めるともう都心に近かった。スマホで今夜の宿を予約。横浜で京浜東北線に乗り換えて
4月6日(月) 二日目
最初の旅の目的地、横浜中華街にある
迷ったときにここのおみくじをひくと、「なるほど」という言葉をいただけることが多いので、節目かな、と思うと来たくなる。助けてくださる神様仏様をたくさん持てるのはありがたいことだ。
入口で長いお線香を購入。お詣りをすませてから、おみくじをひく。
じゃかじゃかと筒を振るが、なかなか出てこない。
うーん、もう少し縦に振ってみよう。
じゃかじゃかじゃかじゃらららららららら
勢いあまって中身を床にぶちまけてしまった。
全部拾って、お祈りからやりなおし。ようやく出てきた番号は、動揺が残っていたのか陰陽そろわず。2回目に出た番号がよしとなった。
守人さんに番号を告げてお札をいただく。今回も、告げられた言葉に思うところがあった。神様にお礼を申し上げて、廟の外へ。公園を歩きながら、さてここからどうしよう、と考える。
このまま、あと一日横浜に泊ってもいいが、せっかく遠くに行ける日程を確保したし。また次にいつ長い旅に出られるかもわからない。もう少し先に行こう、と、御殿場線に乗ることにした。
11:05 関内→横浜
11:14 横浜→
ホームから海が見える。ここから、御殿場線に乗車。
12:20 国府津→沼津
この日の富士山は、低い雲の中。くすんだ景色を時折眺めながら、時刻表をぱらぱらとめくり、次の行き先を考える。
北に戻ってもいいけど、来た道を戻るのもつまらない。名古屋に出て、まだ乗っていない中央線に乗ろうか。そうすれば、「あれ」を制覇できる。
沼津に到着。ここから少しショートカット。
14:00 沼津→三島
14:24 三島から新幹線で名古屋
16:31 名古屋→多治見
灰色の空の下、中央線の車窓を過ぎてゆく家に、ぽつぽつと灯が見える。多治見に到着したのは17:30ころ。すでに夕闇が濃くなっていた。
4月7日(火) 三日目
05:59 多治見→塩尻
車窓に見え隠れする川の流れがトンネルを抜けるたびに逆になったりして、登っているのか下っているのかわからなくなる。
「あれ」は、7年前に乗り残した「小野周り辰野行き」に乗ること。こういう乗り残しの線があると、あとから時刻表を眺めたときに、どうも落ち着かないのだ。
接続待ちのあいだに駅を出て、ロータリー内にある喫茶店でコーヒーを飲みながら、午後のルートを考える。
松本までは出るとして、その先どうしよう。
第一候補は長野に出てあんずの里をめざすルートだけど、外は雨。なんだかひんやりする。コートを持ってこなかった。外歩きはどんなものか。
考えがまとまらないまま店を出て、駅の待合室で「野沢菜わさび昆布そば」をいただく。先にこっちを食べてからドリンクにすればよかった。
09:36 塩尻→辰野
小野周りは、山中をゆっくり走るのどかな線だった。
小野駅の手前で、山林に向かう廃道が見えた。材木切り出し用の貨物船だろうか。役目を終えた軌道が、芽吹いたばかりの草につつまれて、春の雨にけむる森の中に消えていく。
09:56辰野着。塩尻に戻る列車は50分後。改札を出て、川に沿ってぶらぶら歩きをしてみる。レンギョウも梅も桜も三分咲き。あと一週間したら、町は一斉に花につつまれるのかもしれないが、今日は冬に逆戻り。
やっぱり外は寒いな。よし、あんずの花はまた今度にして、今日は電車で日本海に出よう。
10:47 辰野→岡谷
車内でうっかり水筒の紅茶をぶちまける。砂糖が入ってなくてよかった。
11:16 岡谷→松本
大糸線の時刻表を確認すると、
糸魚川から右か左か。
少し迷った結果、直江津泊と決めてホテルを予約した。
店を出てもまだ時間があるので、少し町をうろうろ。高砂通りという路地の奥に湧水があった。さっきぶちまけた紅茶のかわりに水筒を満たし、駅に帰る途中に見つけた古本屋さんで、食養生の本を購入し、松本駅に戻る。
14:09 松本→信濃大町
15:08 信濃大町→南小谷
重たげな音を立てて、列車が勾配を上がっていく。トンネルを抜けるたびに、雪が深くなっていく。昨日名古屋をTシャツで歩いていたのがうそのようだ。
16:09 南小谷→糸魚川
線路と並行する姫川渓谷を、雪解け水が時に濁流となって滔々と流れている。雨天のせいもあって、川の流れは時に不機嫌に見えるほど荒々しい。雪が解けたての、まだ湿った大地から、草たちが大急ぎで顔を出している。まるで、早く目を覚まして、自分たちの陣地を取っておかなくちゃ、といわんばかりに。
糸魚川でいったん改札を出て、この3月から分社化した「えちごときめき鉄道」のきっぷを購入。
17:41 糸魚川→直江津
直江津行きはきれいなワンマン車両。今度は海岸線に添って走っていく。雨のなか、日没を迎えて海も空も灰色にくすんでいき、宿に着いたときにはすっかり日が暮れていた。
4月8日(水) 四日目
06:26 直江津→柏崎
07:29 柏崎→吉田
0番線から出発する長岡行に乗ってからも、この先どうするか迷っていた。
昨夜は、もう少し日本海を北上しようと思っていたのだが、起きてみたら少し体がだるい。短距離で納めるなら、吉田で降りて弥彦線を乗りつぶそうか。それともやはり秋田方面へ、行けるところまで行こうか。
迷う間にも、列車は東へ向かっていく。
海が見えるかと期待していたら、浜は起伏の向こうがわ。単調な車窓の風景を眺めるうち、やっぱり少しゆっくりしたい、と思い始めた。
先を急がず、弥彦線を乗りつぶそう。
そう決めて、吉田駅で降りた。
08:54 吉田→東三条
09:57 東三条→弥彦
四月初めの水曜日とあって、弥彦神社に向かう参道も人通りは少ない。のんびり桜を眺めながら坂を上がっていくと、左手にこれまたきれいな桜並木の参道が見えてきた。
「湯神社」
立ち寄ってみよう、と参道に入ると、ハイキングコースだった。歩くこと20分。ようやく、山の頂上にあるちいさなお社にたどり着く。
「神社」とあるが、「薬師様」と書いた幟もたくさん並んでいる。神仏習合のすがたを残したままの神社のようだ。
鐘を鳴らして堂下に拝跪し、帰ろうとしたら、社務所の中にいた
「こんにちは」
と挨拶すると、
「あら、もう帰るの?カタクリの花は見た?」
と声をかけてくださった。
坊主頭に白衣。
「カタクリ?」
「あら、見なかったの」
お坊さんか、神職さんかもわからない。男性か女性かも、よくわからない。
「もう咲いているんですか」
「もうそろそろおしまいよ」
今日は寒いわね、と言いながら、
「ほら、カタクリ。これは葵の花よ」
「せっかくだから、弥彦神社も見て帰りなさい」
「そうします」
お話しがとても楽しかったので、乗るつもりだった電車を遅らせて、この禰宜さんの暮らす町を、もう少し歩こうと決めた。
弥彦神社や、駅周辺をぶらぶら歩いて、吉田に戻る列車に乗る。
13:18 弥彦→吉田
13:59 吉田→新潟
いつの間にか雲が晴れて、午後の日差しがまぶしい。今日は新潟泊まり。コインランドリーを探すうち、銭湯を発見。洗濯物をランドリーに投入して、待ち時間の間になつかしい雰囲気のお風呂を満喫した。
4月9日(水) 五日目
昨日のだるさはすっかり取れた。ベッドでごろごろしながら時刻表をめくり、いくつかのルートを検討した結果、最終日の今日は
07:06 長岡→新津
07:49 新津→新発田
車窓の左右は山麓のパノラマ。景色の美しい路線だ。
08:23 新発田→坂町
村上行きの接続時間は5分。降りた位置が階段から一番遠い場所で、しかも学生さんラッシュで列がまったく進まない。乗り遅れるかとハラハラしたが、すべりこみで間に合った。乗り継ぎの都合上、どうしてもこの列車に乗りたかったので、ほっとする。ここからは車内が空いて、一気に静かになった。
坂町は、地面より高い位置に作られた駅。随所に雪除けのパネル。いかにも雪国仕様の駅舎だ。
09:34 坂町→米沢
快速べにばな号に乗って米沢へ。大糸線もそうだが、本州を縦に走る路線は車窓の景色が起伏に富んでいる。飽きることなく車窓の景色を楽しんで、11:31米沢に着いた。ここからは帰路となる。
13:08 米沢→福島
14:20 福島→郡山
15:30 郡山→黒磯
16:38 黒磯→宇都宮
18:06 宇都宮→日光
五日間の総乗車距離1466.3km。うち18きっぷ乗車距離1182.2km。
時刻表を開いて、赤鉛筆で乗ったところを塗りながら旅の記憶をたどり、次はどこへ行こうか、と、過去と未来に思いを馳せる。
旅のうれしさは、尽きることがない。
早く旅の続きができる時代が、戻りますように。
青春18きっぷの旅日記 蕃茉莉 @sottovoce-nikko
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