夏休みの日記はタイムマシンで

凹田 練造

夏休みの日記はタイムマシンで

 8月8日(現在)。

 夏休みの自由研究で、タイムマシンを作った。

 もちろん、日記をいつでも書けるようにするためだ。

 ちょうど、夏休みも真ん中あたり。とりあえず、過去にさかのぼって、今までの日記を書いてしまうとしよう。

 ここで気をつけないといけないのは、過去を改変してはいけない、ということ。

 何か物が無くなったり、壊れたりすると、そこから先の未来が変わってしまうのだ。

 7月21日(過去)。

 そうそう、この日は、タイムマシンの設計図を描いていたんだった。

 ちょっと苦労したけど、今となっては楽しい思い出だな。とりあえず、この日の日記を書いて、と。

 7月27日(過去)。

 この日は、タイムマシンの材料を買いに、ホームセンターへ。ほとんどの品物が、思っていた通りに手に入る。

 一部、思っていたより値段が高かった物もあったが、まあ、なんとかなる範囲。

 日記に書いておこう。

 8月2日(過去)。

 タイムマシンの作成中。

 途中、どうしてもうまくいかないところがあり、結局、この6日後になって、やっと完成にこぎ着けたわけだ。

 すぐ目の前で見ているおかげで、日記がスムーズに書ける。やっぱり、夏休みの自由研究は、タイムマシンを作るに限る。

 8月14日(未来)

 なるほど、この日は、魚釣りに行くのか。

 父親と釣り堀に行くのも、そういえば久しぶりだな。

 よし、今のうちに、日記を書いてしまおう。

 8月20日(未来)。

 ふむふむ、この日は、キャンブに行くんだ。これは、楽しみだ。

 いずれにしても、この日に何が起こるのか、あらかじめ分かっているわけだから、日記が本当に楽に書けるというものだ。

 その分、何が起こるかという楽しみも減ってしまうわけだが、夏休みの日記には代えられない。

 8月26日(未来)

 なるほど、この日はハイキングか。

 これは、楽しみ。

 早くこの日が来ればいいのに。

 まあ、日記だけ、先に書いておこう。

 8月31日(未来)。

 おやおや、必死になって、夏休みの全期間の日記を書いている。

 今年は、この作業だけは、無くなるわけだな。

 8月8日(現在)。

 フッフッフッ。早くも、夏休みの日記が完成した。

 こんなことは、生まれてはじめてだ。

 なんて気分がいいんだろう。

 これも、タイムマシンのおかげだ。

 8月14日(現在)。

 なに?

 父が仕事で出かける?

 そんな馬鹿な。今日は久しぶりに魚釣りに行くはずだったんじゃないのか。もう、日記には書いてしまってあるんだぞ。

 8月20日(現在)。

 何だって!

 叔母さんが病気?

 父と母が見舞いに行くんだって!

 日記と全然ちがうじゃないか。

 8月26日(現在)。

 ……なぜ、僕が熱を出して寝込むんだ?

 布団の中で横になりながら、僕は、恐ろしい可能性に気がついた。

 本来、書かれていないはずの日記を、あらかじめ書いてしまうことは、未来の僕にとって、過去を改変したことになってしまうのじゃないか。

 元々は書かれていない夏休みの日記を、8月8日に書いてしまったことは、夏休み後半の僕にとっては、過去を改変されたことになってしまったのではないのか。

 僕の熱は、さらに上がりそうだった。

 8月31日(現在)。

 やっと熱は下がったが、夏休み後半の日記を、全部書き直さなければならない。

 もう二度と、夏休みの自由研究で、タイムマシンなんか作らないぞ!

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