トリと一緒にお宝探し

にゃべ♪

トリの日記

 私は相良水穂。どこにでもいる普通の中学2年生。ある日、帰宅したら丸っこいぬいぐるみの鳥のようなトリって言う謎の生き物が現れた。トリは「一緒に宝探しをするホ」とか言って、無理やり私を自分の目的に突き合わせる。

 おかげで平和だった私の日常はどっか行っちゃった。これからどうなっちゃうの?


 トリがいなくなった。世界樹の光を浴びた後、何故か私だけが戻ってきたのだ。枕元にあった白紙の絵本は、かつてトリが封印されていたもの。父の本棚にあったはずなのに、どうして――。


 トリがいなくなったので、私に日常が戻ってきた。お宝探しから開放されて楽になったはずなのに、何か物足りない。結局、お宝を見つける事が出来ないままだからなのかも知れない。もうお宝を欲しがるトリはいないのに。

 退屈な日常にポカリと開いた大きな穴を、私はこの白紙の絵本を見る事で埋めていく。何度見てもそれは白紙のままで、この本がここにあった理由が見つからない。


「トリ、あんた何がしたかったの?」


 そうつぶやいた時、本に文字が浮かび上がってきた。どうやら、それは日記のようだ。トリが封じられていた本は、トリの日記帳へと変わった。私は初めて現れた変化に戸惑いながらも、夢中になってむさぼり読んでいく。


 それによると、トリは今までにも沢山の相棒と冒険を繰り広げ、沢山のお宝を集めてきていたらしい。以前私に使った『願いの叶うノート』や『猫耳カチューシャ』はその時の相棒が見つけたお宝だったのだ。他の冒険やお宝についてもトリは詳細に記している。意外と筆まめだったんだな。

 意外な事に、他の相棒とのお宝探しでは割とあっさりめに目的は達成されているようだ。つまり、ずっとお宝を手に入れられていない私が特殊だって事。


 そして読み進めて私の事が書かれているところまで来ると、何やら意味深な事が書かれていた。


「水穂との冒険で最後になる?」


 この辺りのところに来ると、ところどころ文字が滲んで読めなくなる。これは意図的なものだろうか? それとも――。

 この文字化け部分を知りたくなった私は解読班、もとい、この本の本当の持ち主に見てもらう事にした。父なら、もしかしたら読めるかもと思ったのだ。


「父さん、ここの文字なんだけど……」

「ん? 文字?」


 父はこの日記が読めないらしい。全くの白紙に見えると返されて困ってしまった。そこで、質問の内容を変える事にする。


「父さん、トリの事を教えてよ」

「あいつの事か。あれは10年くらい前の事だったかな……」


 その10年前、トリは突然父の前に現れて私の事を聞いたらしい。そこでまだ4歳だと知ると、今はトリの日記帳になっているこの本を渡して自分の事を書いてくれと頼んだのだとか。

 父はそれに従い、出来上がった途端にトリは本の中に入ってしまったのだそうだ。


「それ以上でもそれ以下でもないな」

「そっか、ありがと」


 父の話での新事実。それは、この本が最初からトリが出したアイテムだったと言う事。つまり、これもお宝だったんだ。

 私は自室に戻って改めてこの日記帳を開く。真実に気付いたからなのか、開いた瞬間に本からまばゆい光が発生して私を包み込んでいった。


「うわっまぶしっ!」


 光が収まると、私は世界樹の上に作られた街に立っていた。どうやら戻ってきたようだ。とは言え、もう案内役のトリはない。だからいきなり途方に暮れてしまった。


「まずは、トリを探そう」


 そう、案内役が必要なのだから、最初にやるべきはトリ探しだ。私にお宝探しの才能はないけど、折角戻ってきたのだから何としても探し出さなければ。

 私は多くの人が行き交う世界樹の街を当てもなく歩き続ける。どこかにトリに関するヒントがあるはずだ。根拠はないけど、何となくそうなんだろうと実感していた。


 行き交う人々の中に知り合いはいない。そして街はかなり広い。この中から一羽のトリを探し出すだなんて不可能に近い。

 私は気が遠くなり、足元がおぼつかなくなって倒れかけてしまう。それを助けてくれたのが、たまたま唯一の知り合いだった。


「おや、また会ったね」

「あ、えーと……」

「メドナだよ。忘れないでおくれ」

「は、はい……」


 私は彼女に今までの事情を話し、ダメ元で協力を求める。すると、メドナはニッコリと優しい笑顔を見せてくれた。


「ふふ。それでは私があのトリのもとに飛ばしてあげよう」

「え? 出来るんですか」

「私は魔法使いだよ。魔法に不可能はないのさ」


 彼女は杖を取り出してリズミカルに振っていく。軽やかな音楽を奏でるように振られていく杖の先からは、光の粒子が生成されていた。私の視線は自然にその杖の先を追いかける。

 オーケストラの指揮棒のようなその動きに翻弄されていたら、いつの間にか私は世界樹の別のエリアに飛んでいた。


「あれ? ここは?」


 私の視線の先には、枝につかまって眠っているトリの姿があった。メドナの魔法が成功したのだ。私はすぐにトリの傍に駆け寄る。


「起きて! ねえ!」

「お宝は持ってこられましたか?」


 聞き慣れない声に振り向くと、そこには女神様っぽい人が立っていた。トリはこの女神様っぽい人からお宝探しを命じられていたのだろうか。色々な想像が頭の中を駆け巡るけれど、日記に女神様っぽい人の事は書かれていなかったから確証は持てない。

 とは言え、お宝を催促されたのだから、これについては答えなければならないのだろう。私は彼女の顔をじっとみつめる。


「お宝なんてないよ!」

「そうですか。では、トリは失敗したのですね」


 女神様は悲しそうな顔をする。その表情を見た私は急に不安になった。


「まさか、失敗したら消すとか?」

「消しはしません。けれどトリで失敗したのです。なので、もっと有能な別の生き物に変える事になるでしょう」


 女神様は無能なトリを作り変えようとしているようだ。このままだとトリがトリでなくなってしまう。そこに嫌なイメージを感じ取った私は強く抗議した。


「私はトリがいいの! 一緒に宝探ししたいの! 勝手に別のものにしないで!」

「と言われましても……これはそう言うものなのです。決まりなのですよ」

「そんなの知らない! 私の冒険はまだ途中なんだよ!」


 私が必死に訴えていると、いつの間にか持ってきていた日記帳が光り始める。その光を確認した女神様は、嬉しそうに目尻を下げて口角を上げた。


「あら、持ってきているではありませんか」

「えっ? この日記帳?」

「それを渡してくれたら、トリは開放しましょう」


 私はその取引に応じる。日記帳を渡した瞬間、女神様はふわっと姿を消した。そして視線を戻すと、トリは何事もなかったように目を覚まして背伸びをする。


「よく寝たホ~!」

「お約束かっ!」


 私がツッコミを入れると、トリはバサバサと翼を動かして飛び上がる。そうして、私の肩に器用に止まった。


「水穂、会いに来てくれて有難うホ」

「また宝探しを続けようね」

「当然ホ! ボク達の冒険はこれからホ!」


 こうして私達の宝探しは再開。このちょっと鬱陶しい相棒と共に、いつか本物のお宝を見つけ出すまで冒険は続くのだった。



(おしまい)

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トリと一緒にお宝探し にゃべ♪ @nyabech2016

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