ちょっとしたことを残したくなるみんなの話。

くすのきさくら

俺は何を残そうか……

08時12分。

俺はいつものように大学へと向かうために6両編成の普通電車の最後尾の車両に乗っていた。

通勤通学時間ということもあり。車内はかなりの混雑だ。大きな駅へと到着すると少し車内には余裕が出来たが。それでも俺と同じ大学生が多く乗っている電車のため。俺が大学の最寄り駅までに座席へと座るということは……出来なかった。のだが。それは唐突にだった。


俺はドア付近で立ちながらスマホをいじりつつ。ニュースを見てみたり。ゲームをしてみたりといつものように車内で過ごしていたのだが――突然通知画面。メールの表示が画面に出てきたのだった。


こんな時間に誰だ?と思いつつ俺は送り主を確認すると――珍しいことに大学からだった。

俺の大学では重要連絡事項などがあると、登録してあるメールアドレスにメールが送られてくるのだが――こんな時間に何だろうか?と俺が思いつつメールを開いてみると……。


「——マジか」


電車の車内で俺は小声でそんなことを呟いたのだった。多分電車の走行音がうるさいので誰にも聞こえてないだろう――まあ近くの人には聞こえたかもしれないが。

とにかくだ。メールの内容は、休講案内だった。それも今から俺が受ける予定だった講義。さらに言うと俺は今日その朝の講義だけのために大学へと向かっていたのだが――休講となった。理由は――先生の病欠らしい。まあ先生もね。同じ人間だからね。風邪もひくか。と俺は思いつつ考えた。この後どうするかという事を。

俺は先ほども言ったように他の講義はないし。サークルなどに入っているわけでもないので、このまま大学へ行っても何もすることはない。


「さて、どうしようか」


俺はスマホの画面を見つつそんなことを考えていると――次が大学の最寄り駅となった。

ちなみに俺が現在乗っている普通電車は大学の最寄り駅が終点ではなく。その先にも走り続けていく。なので俺の頭に浮かんだのは……。


「……このまま乗って行ってみるか」


そんな決定を俺が下して少しすると、電車は大学の最寄り駅へと到着した。いつもなら俺も降りる駅だ。

車内の人が一気にドアの方へと移動してきたので――俺は一度車外へと出て降りる人が降りてから再度車内へと戻った。


俺が車内へと戻ると中はほぼ空っぽ状態となっていた。

先ほどまでは、ザワザワしていた車内だが――今は静かな朝の電車と車内は変わっていた。


俺が近くの座席に座ると電車がまた動き出した。


今まで2年ほど俺は大学へと通っていたが。大学の先へと行くのは初めてだ。見慣れない車窓が流れていく。


終点の駅までは、まだ20駅ほどあるのだが――普通電車のため途中で急行電車などの通過待ち。接続待ちがあり。なかなか前には進まなかった。先ほどから駅に止まっている時間の方が長いな。と、俺は思いつつも今の予定は終点まで行く。だったので俺はそのままゆっくりと座席に座っていた――のだが。終点の数駅前での事だった。


俺はちょっとだけバタバタと前の車両へと移動することとなったのだった。


何があったかというと。別に触れるようなことではないかもしれないが。6両編成でここまで来た電車だったが。終点へは前の2両しか行かないと車内放送が入ったため。俺は前の車両へと移動していたのだった。


これはこちらへと乗ってこないと知らないことだったな。うん。今まで大学に行っているだけでは途中で車両が減るとかなかったんでね。初体験だった。


まあちょっとしたバタバタがあったが。無事に前の車両へと乗り換えた俺が再度座席に座ると――電車はさらに進みだした。


ってか――薄々は気が付いていたが……どんどん電車は山奥の方へと向かって行っていた。

車窓が緑ばかりになって来たな。と俺が思いつつ車内を見ると――車内も数えれるくらいしかお客は乗っていなかった。

そして次が終点という時になると――俺しか乗っていなかったのだった。


大学の最寄り駅から約1時間ほど。俺は、大自然の中にある駅へと到着した。


電車から降りると――大学近辺の建物ばかりとは違い。目の前が山。緑がたくさん。ポツポツとだけ民家があるという。普段の生活ではななかなか見ない光景が目の前には広がっていた。


俺が電車から降りてホームであたりを見回していると――俺の乗って来た電車はすぐに折り返し運転だったらしく。駅を発車していった。


電車の走行音が聞こえなくなると、あたりは――木々が風で揺れる音と鳥の鳴き声という――びっくりするくらい平和だった。


田舎の終点へとやってきた俺はとりあえず駅舎の方へと向かう。

どうやらこの駅は無人駅らしく。誰もいなかったが。ICカードをタッチする機械はちゃんと置かれていたため。俺がICカードを機械にタッチすると――1600円ほど減った。


……まあかなりの距離を移動してきたのでね。それはそうだろうである。


その後俺はとりあえず駅舎から出てみるが――何もなかった。お店があるとか。そんなことはなく。ホント何もなかった。駅のホームから見た光景と同じだった。

駅前にはポストと3台分の駐車場しかなかった。あとは――何もない。


まあこういう駅もあるだろうと俺はあたりをチラッと見た後。

駅舎へとすぐ戻って来たのだった。とりあえず目標達成のため次は帰る。というやつだ。ちょっとした1人旅で山奥へと来ました。だな。


俺はそんなことを思いつつ次の電車の時間を見てみると――。


「……えっ?——えっ!?」


ちょっとした予想外の事が起こった。

俺は駅の入り口近くにあった時刻表を再度見直すが――時刻表には06時25分の始発から電車が始まり……07時15分。07時55分。08時25分。09時45分と電車が続いていたのだが――ちなみにこの09時45分というのは先ほど発車していった電車。俺が乗って来た電車なのだが……次の発車時刻を見てみると――。


12時55分。と、書かれていた。ちなみにだがその次の電車は15時35分……その後は1時間に1本または2本あるのだが――お昼の時間帯だけ電車が無かった。


「……あれ?これはミスったか?」


俺はそうつぶやきつつ。多分ないだろうと思いつつも。再度駅の外へと出てバスなどを探してみたが――まあなかった。タクシーなら……だが。高額請求が目に見えていたので選択肢からはすぐに消えた。


再度駅周辺を確認後、俺はまた駅舎へと戻り。とりあえずベンチへと座ったのだった。そして――。


「暇じゃん。ミスったー」


誰もいない駅舎でそんなことを言ったのだった。


それからしばらく俺は、ぼーっとスマホをいじっていたが――それはそんなに続かなかった。先ほどまで見ていたりしたニュースのままだし。おまけに充電も少なくなってきたので、スマホをカバンに入れて、再度あたりを見たのだが――って、まだあれから30分も経ってない。

これは……ちょっと山登りでもしてこれるんじゃないか?などと俺が思いつつ座っていてもなので立ち上がると――ふと。駅舎の隅に机がある事に気が付いたのだった。



俺が駅舎にあった机へと向かうと――机の上にはノートが置かれていた。


「……なんだこれ?記念ノート?」


俺は机の上に置かれていたノートを手に取りパラパラと見てみると――どうやらこれはこの駅に来た人が書いているものみたいだった。

いろいろな筆跡の文字がノートには並んでいた。

ちなみに、ノートは長い間ここに置かれているのだろう。ちょっとパリパリというのか。濡れたりもしたのだろう。しわがあったりしたが。読むには問題なかった。あと、誰でも書けるようにボールペンが置かれていたが――こちらはインクが乾いてしまったらしく。4か月前の日付でノートは止まっていた。最後のページのところに試し書きでもしたのだろう。ぐるぐると書いた跡だけがあった。

まあそれはいいとして、俺は再度パラパラとノートを見てみて……。


「へー、こんなのあるのか」


ちょうど何もすることがなくどうしようかと思っていた俺は、ノートを読んでみることにしたのだった。


ノートを読んでみると。このノートを置いたのは鉄道関係の人ではなく。本当に普通の一般人。多分女性の人らしい。3年前の日付からノートは始まっていた。


少し読んでみると――多分彼女も今の俺と同じ状況になり。たまたま持っていたノートで、このノートを作ったらしい。って――それが3年もちゃんとこの駅にあるってある意味すごいな。と思いつつ俺がその先を見ていくと――。


はじめの人が書いてから2週間後。とっても達筆な字で、この駅を訪れてくれたことの感謝。が書かれていた。鉄道関係の人?いや――このあたりに住んでいる人?などと思いつつ俺は先を見ていくと――。


日付だけの人。何故この駅に来たか。または絵が描かれていたり。熊と遭遇した時の対処方法。このあたりの観光案内。また熊。さらに熊。さらには何故か自分の連絡先を書いている人も。その後にそれを見て返事というのか――こういうのはここに書かないように。注意が書かれていたりもした。


読んでいるとなかなか面白かった。今は誰もいないが。この駅には確かにいろいろな人が来ている。ということが伝わってきたのだった。

にしてもクマに関しての事が多かった気がするが。このあたり出るのだろうか?俺……鈴とか持ってないけど大丈夫か?と、ちょっと不安になることもあった。


一通り俺はノートを見終えると――びっくりな事に1時間以上経過していた。


でもまだ電車は来ない。ということで、大学に行く予定だった俺は筆記用具を持っているので、ペンを取りだして――みんなの続きに今日の日付を書いて――俺もノートの輪に参加してみたのだった。


何を書いたのかは――是非この駅に行って見てくれ。そうそう最後に俺は自分の持っていたボールペンをノートのところへと置いてきたのでね。今なら書くものはあると思うよ。


これはとある日の俺のちょっとした1人旅である。



(おわり)

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