目を閉じて、開いた。ふっと我に返る。なんだかさっき、変なことを言った気がする。私はくしゃくしゃになった前髪を、手ぐしで整えた。

「ごめん、ぼうっとしてた。えっと……私はみっちゃんさんじゃないから、みっちゃんさんの応えは分からないけど」

 頬に張り付いた潮を払い、平助の方を見る。

「多分、両想いだったよね。お手紙書いたり、冗談言い合ったり、お弁当作ったりしてるくらいだし」

 しかし振り向いた先には、空っぽの空間が広がっていた。切り立った崖と、曇天と、遠い水平線が見えただけ。

「……平助?」

 古臭い学生服の男はいない。

「えっ、なに? どこ行ったの? なんで急に消える?」

 心残りを解消して、成仏したのだろうか。彼の未練は彼の言ったとおり、胸の内を吐露したかっただけなのか。それとも、みっちゃんさんと話したかったのか。はたまた、彼女のその後の幸せを確かめたかったのか……。

「まあいいや、なんでも」

 私は灰色の海にため息をついた。

「なんにせよ、あんたは充分、重い男だよ」

 怪談が刻まれた看板が、風でカタカタ唸っている。

 実際はホラーでも悲恋でもなんでもなかった。なにに近いかといえば、コメディだ。そして、純愛。だから、強いていえばラブコメディかな。

 私だけが知ってしまった岩浪平助の死の真相は、疲れて見た幻覚ということで、私の中で終わらせた。

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100年越しのラブコメディ 植原翠/『おまわりさんと招き猫4』発売 @sui-uehara

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