雪の月 50日
存外文献が面白くて、日記のことを忘れていた。
失われた文明の哲学、天文学、そして何より古代魔術。全てが素晴らしいが、詳細をここに書くことはできない。師がこれを論文にも著書にも一切記さなかった理由を私は悟った。
超古代文明は魔導戦争で滅びたとされているが、それは真実であるようだ。もしいつか弟子を(もっとまともな旅程で)ここへ連れてくるなら、冷静で善良で無欲な人間を選ばねばならないと思う。シャラウィナ様はなぜ出会って間もない私をここへと尋ねたが、彼女は「いい子そうな顔してたから」と笑った。賢者だろう、もう少し慎重に考えろ。
それから、私は料理も習得した。師匠の問題はどうやら毒を盛るだけではなかったらしく、香りの少ない食材をシンプルに塩だけで煮込めば、充分美味しく食べられた。物足りないとか言ってやたら変な味の植物を入れたりするからああなるのだ。
書庫を制覇するにはもうしばらくかかりそうだが、ひとまず生きてはいけそうだという光明は見えた。もう二度と師に料理はさせないし、たまには妻の手料理が食べたいなあとほざく男のことも信用しない。私は必ずここを出て、絶対に故郷へ帰るのだ。
〈了〉
青の塔の記録 綿野 明 @aki_wata
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