42:エピローグ、復讐の結末――
復讐を成し遂げたその後の事だ。
学園は大きく揺れ動いた。
特に生徒達の動揺は大きかった。
甘楽の学園のアイドルというイメージはただの虚像でしかなく、自分達が騙されていたという事実が知れ渡った事で、これまで彼女が積み上げてきた栄光は崩れ去る事になる。我間も同じく、学園の王子として君臨していた彼は奈落の底へと転げ落ちていく。
甘楽と我間の起こした事件は瞬く間に拡散され、二人に対する非難の声が数多く上がった。SNSや匿名掲示板、ネットニュースでも話題となり、ネット社会における影響力の大きさを見せ付ける結果となった。
全ては甘楽と我間が最後まで改心する事もなく、自らの罪を受け入れる事もなく、無様に生き続けようとしたその結果だ。
最後は自らが育ててきた学園の悪意に飲み込まれ二人の心は殺された。精神的な死によって、抜け殻のような廃人と化したあの二人が陽の目を見る事は二度とない。
甘楽達の協力者達も同様だ。甘い蜜を吸う為に集まってきた彼らも皆、甘楽と我間の悪意に染まった事で大きな過ちを犯した。
そして自らが記録した犯罪行為の数々により、甘楽や我間と共に退学処分だけでは済まない程の、法律の下による厳しい制裁が待っている。
唯一、不正の数々を白日の元に晒す為に協力した木下 響だけは情状酌量の余地有りとして、彼らとはまた違った最後が待っているだろう。
今回の事件に関わった一部の教師達も責任を問われる事となり、その内容は理事長の判断に委ねられた。
特に甘楽達の不正に大きく関わった校長の処遇については重いもので、甘楽との裏での取引――多くの悪事が顕になった事で、これから法による厳しい処分が待っている。そしてその先にあるのは社会的な死だ。
理事長は学園内で起こった数々の不祥事を決して隠す事無く世間に対して公表した。それにより学園の評判は地に落ちてしまったものの、それでも理事長は挫けなかった。真っ直ぐな正義感を持ち、己の掲げた信念を決して曲げる事のない理事長の尽力によって、学園は再び名誉を取り戻しこれからも存続する事が出来るだろう。
そして、復讐を成し遂げた二人はどうなったのか。
あれから甘楽達のクラスは退学者が続出した為、聖斗は他のクラスへと編入する事になった。彼が周囲から悪意と敵意を浴びせられる事はなくなった。むしろあの全校集会で悪の枢軸である甘楽と我間の二人を窮追し、打ち倒した聖斗に向けて賞賛の言葉を浴びせるようになっていた。
同時に聖斗は多くの女子から黄色い声援を送られるようにもなっている。しかし、それを居心地良くは思わないのが彼の本音だった。手のひらを返したかのように媚びてくる人達には興味など微塵もない。
何故なら聖斗には心に決めた相手が居るのだ。
絶望の底にいた彼に手を差し伸べ、彼と共に歩む事を誓い、救い上げてくれた少女がいる。
その少女の事を想うだけで心が満たされる。胸の中が熱くなる。彼女と一緒に過ごす日常こそが、聖斗にとって一番の幸せなのだ。
聖斗を陥れ、大勢の人を不幸にした甘楽達への復讐は既に終わった。これからは自分自身と――愛するその少女を幸せにする事が何よりの生きがいになっている。それが彼の踏み出した新たな一歩だった。
そしてそんな聖斗は今、自身の住むアパートの玄関の前で固まっていた。今日もバイトを済ませて帰ってきたのだが、ドアに鍵を差し込んだ後でそれは起こった。
鍵穴を回そうと力を込めた直後、ロックが外れる事無くぽきりとその鍵が折れてしまったのだ。その事実を前に聖斗は呆然と立ち尽くす。
「んああ……冗談だろ、鍵が折れるってそんなのまじか……」
夜遅いせいか、アパートの管理会社に電話してもメールを送っても何の反応もない。聖斗が途方に暮れて立ち尽くしていた、その時だった――。
聖斗の隣の部屋に住む少女が通りかかる。
「聖斗くん、お帰りですか?」
「んあ……っ!?」
その少女は首を傾げながら、吸い込まれそうな紅い瞳で聖斗の顔を覗き込む。
扉の前で立ち尽くす聖斗の姿を不思議がっているようだ。
「えっと……聖斗くん。何をしているのです?」
「扉の鍵が根本からぽっきり折れてさ。困っていたところなんだ」
「管理会社に連絡しましたか? もしかしたら違う鍵を差し込んでしまった、とか?」
「いやこの鍵で合ってるんだよ……それに管理会社に電話しても繋がらないし、メール送っても返信来ないし……」
「それは困りましたね。では親御さんに連絡して迎えに来て頂く、とか」
「いやいや! 駄目だって! 鍵を壊してアパートに入れないなんて言ったら……鍵を乱暴に扱ったからとか、父さんや母さんに怒られるかもしれないし!」
「それなら仕方ありませんね……。では頑張ってください、聖斗くん。何とかなるよう応援しています」
少女はそう言って隣の部屋の中へ入ろうとするが、そこで聖斗は呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って!?」
聖斗が声を上げると少女は立ち止まり、くすりと笑みをこぼした。
「ふふ、冗談ですよ。困っている聖斗くんをわたしが放っておけるわけないじゃないですか」
「んああ……もう、真紅は……」
――そう、真紅は今も聖斗の隣の部屋に住んでいる。
あの復讐を成し遂げた後も、彼女は聖斗の傍に居る事を選んだ。自身の願いを叶え、理事長の依頼を済ませたはずの彼女があの学園に残る必要はなくなった――けれど、真紅は聖斗と一緒に歩んでいく事を望んだ。
だから、こうして今でも隣同士で暮らしている。
真紅は鞄の中から鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込み扉を開く。
「聖斗くん、ちょっと……いえ、かなり散らかっていますがどうぞ」
「真紅、それなら俺が徹底的に掃除してやるから任せとけ」
「ありがとうございます。それじゃあ聖斗くんがお掃除してくれている間に、わたしが夕飯をご用意しますね」
「んあ!? 真紅、大丈夫なのか……何を作るんだ……?」
「そうですね、ではカレーライスはどうでしょう?」
「なら俺も手伝うから……また焦がしたら大変だからな」
「こ、焦がさないですよ! ちゃんと飴色だって覚えましたし!」
「いやいや、油断出来ない。俺も一緒に作るよ、それなら真紅も良い勉強になりそうだし」
「二人で作るなら大歓迎です。ふふ、聖斗くんと一緒にお料理だなんて楽しみです」
「俺も楽しみだよ。二人で一緒に頑張ろうな」
真紅は開いた扉の中に入りながら聖斗へと手を差し伸べた。
「では、聖斗くん」
「ああ、真紅」
聖斗は真紅の手を握り、そして互いに微笑み合う――。
彼女との出会いは聖斗にとって最悪の出会いだった。
けれどそれは巻き起こった数々の苦難から、絶望の底に沈んでいた聖斗を救い出す、運命的な出会いでもあった。
そして悪魔と呼ばれた少女と徹底的で破滅的な復讐をする事になったその結末は――二人の愛を育む最高のハッピーエンドで幕を下ろす。
これからも二人はずっと一緒だ。
いつまでも肩を寄せ合い、苦楽を共にし、支え合っていく。
隣り合った扉の向こうでは今日も聖斗と真紅の二人が幸せな時間を過ごしている。
---☆あとがき☆---
作者より書籍化作品の紹介です!
GA文庫より2024年8月9日に『ラブコメの悪役に転生した俺は、推しのヒロインと青春を楽しむ』というラブコメ作品が発売予定です。こちらの作品も頑張って書いたので、この機会にもしよかったらチェックしてみてください!
↓詳細は近況ノートで☆
https://kakuyomu.jp/users/sorachiaki/news/16818093078983565841
【完結】隣の悪魔と徹底的で破滅的な復讐をする事になった件 そらちあき @sorachiaki
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