第4話 エピローグ:あの日、辺境伯に誘われて王都を出た。精霊様たちは……

4.エピローグ:あの日、辺境伯に誘われて王都を出た。精霊様たちは……





あの日、新しい聖女であるミューズ様が精霊様のお世話係となられた。


私は、私より精霊様のお世話にふさわしい、能力のある方が現れたのだと喜んで、その座を明け渡したのだった。


運が良いことに、私が仕事を探していることを聞きつけて、幼馴染のラルフ君が勧誘にわざわざ来てくれた。


元々ラルフ君は孤児院で一緒に過ごした幼馴染だったのだけど、どうやら辺境伯の養子として引き取られたらしい。


しかも、その辺境伯の両親が急逝してしまったうえ、他に子供もいなかったため、急に領主の地位についてしまったとのことだった。


そのため、信用できる人間をスカウトしていたらしく、幼馴染の私もその一人だったらしい。


私はありがたいな、と思って付いて行ったのだった。


それからの私の生活は、今までとは全く違うものになった。


今まではお昼の仕事でミスを連発し、周囲に迷惑をかけていたのだが、それがなくなった。


周囲の人たちとも仲良くなれて、本当に幸せに毎日を過ごすことが出来ている。


また、何より、驚いたのは、王家が傾き始めたことだった。


どうやら精霊様のご機嫌を損ねてしまったらしく、王国を守護していた精霊様がどんどん王国から去って行ったというのだ。


ミューズ様は上級聖女候補で、私など凡人とは違い、神聖魔力の力も凄い方だから、理由は分からない。


ただ、実は私が王国を出てからしばらくして、驚くべきことが起こったのだ。


何と、精霊様の赤ちゃんたちが、次々と私のもとへとやって来たのだ。


理由を何度も聞いたのだが、


「精霊が食べる神聖力は、心の美しい者の魔力でないといけないんだわん」


「そうにゃ。だから来たのにゃ」


と言われたが、よく理解できなかった。


私は特に心が奇麗でも、特別な力を持つ聖女でもない。


ましてや上級聖女候補なんて夢のまた夢でしかないのだ。


でも、それを言うと、幼馴染のラルフ辺境伯からは、


「そういうところが気に入られたんじゃないか。ま、俺も人のことは言えんがな……」


と言われてしまった。


そういうところ、とはどういうところだろう?


私は単に、精霊様や人々のお役に立てれば、私の身などどうなってもいいとしか思っていない、普通の聖女でしかないのに。


あと、


「俺も……?」


「いい。忘れろ。それより、今日も少し遠出しないか。街の視察だ」


「はい……」


最近は、ラルフ辺境伯から外出の誘いを受けることが多い。


また、辺境伯領の臣下としてふさわしい恰好をしろと命令されることも多く、ドレスや櫛などを送られることが増えて来た。


しかも、おつきのメイドまでついている。


「ラルフ辺境伯様。部下にこれほどの待遇は過分です。特に私なんかには……」


「俺はそうは思わんがな」


ラルフ辺境伯様が銀髪の髪をかき上げながら言った。


「安心しろ。精霊様は真に心美しい聖女のもとへ集う。おかげで貧困にあえいでいたこの辺境もずいぶんと豊かになった。だから、感謝している」


「だから、それは勘違いなのに」


「はぁ、自覚がないというのは困ったものだな。ま、いいさ」


ラルフ辺境伯様は、昔孤児院でそうされていたように、優しく微笑んで、


「お前はそのままでいい。それだけでお前は価値があるんだからな」


「あ、ありがとうございます」


「昔の様に敬語はやめてほしいんだがな」


「それは部下としてできかねます」


「やれやれ。やはり部下と上司の関係ではこれ以上は無理か。次の一手が必要なようだな」


「え?」


「こっちの話だ」


私はラルフ辺境伯様が何をおっしゃっているのか首を傾げつつも、彼と馬車で街の視察へと出かけるのでした。


そこには微笑む領民人々の姿があります。


(もし、ラルフ辺境伯様がおっしゃるように、この笑顔の何万分の一でも、私が貢献できているなら)


私は目を閉じて、


(それほど幸せなことはありません)


そうあの日精霊様に祈りを捧げるように、感謝の気持ちで祈りをささげたのでした。



(終わり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワンオペ聖女と幼馴染の辺境伯様 初枝れんげ@3/7『追放嬉しい』6巻発売 @hatsueda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ