真夜中はなぜか頭が冴える(こともある)
深海くじら
第1話(しかない)
ふと目が覚めた。
頭にストーリーが浮かんだのだ。
枕もとのスマートフォンを開くと、02:42 の表示。むろん昼でないことは窓を見れば一目瞭然。
ベッドに入ったのは午後11時半。膝に置いたノートPCを閉じ、手元のリモコンで部屋の電気を消したのは、たぶんそれから小一時間も経ってないはず。つまり、2時間そこそこで目醒めてしまったということだ。それもこんな中途半端な時間に。明日も仕事があるというのに。
いや、そんなことはどうでもいい。
私は横に置いてスリープ状態になっていたPCを起動した。
早くテキストにしなければ。さっき夢の中で思い付いたブレイクスルーを。
ここ数日、ずっと壁を破れずにいた。
投稿サイトで毎日更新している連載小説。1月半ばに思い立って書き始めてから早や2か月、70回を超える更新で、有り難いことに数十人のフォローもいただけている。
しかし今現在、その小説のストーリーが途絶して、ストック分もあと2回を残すのみという絶体絶命状態に陥っているのだ。
闇落ちして復活のきっかけが掴めないヒロインと、ヒロイン不在の間に別の人と恋仲になってしまった主人公。ヒロインを救うために主人公は大いに苦悩するのだが、ヒロインが闇落ちしてから物語時間で3か月余り出逢えてないのでいかんともし難い。
それが現在執筆中の章で、ついにヒロインと主人公がふたりきりでふた晩を過ごすことになってしまったのだ。いや、私がしたのだが。
どうやってヒロインを救うのか。
ヒロインは今も主人公が好き。でも主人公には別の恋人がいる。ぶっちゃけ、ここで主人公がヒロインを選んでやれば、ヒロインは救われて万々歳になる。というか展開上そうなる。だがそうすると、主人公の現恋人の立つ瀬がない。なにせ私は、現恋人と主人公の馴れ初め&ラブラブも、しっかり書き記してしまったのだ。
と言って、主人公が持ち前の誠実さを発揮してヒロインの必死のラブコールを突っぱねたら、それこそ彼女はもう一度闇落ちしてしまう。というか物語上、闇落ちしないと辻褄が合わない。
どうするヒロイン。どうする主人公。どうする私。
その壁が、鉄壁だった壁が、だ。さっき見た夢では、それはもう、ものの見事にぶち抜けていたのだ。
もはや寝ている場合ではない。起きろ私。起きてPCを開き、続きを、ヒロインと主人公と現恋人の行く末を打ち込むのだ。記憶が零れ落ちる前に、がしがしと。
空が白みだしたころ、私はその章を脱稿した。枯渇していたストックも8話分まで戻した。
当然すべきこととして、章全体を読み返してみる。うん。ちゃんとまとまってる。一部先延ばした事項はあるものの、少なくとも一定の結論が、途中の流れの破綻もなく導き出されている。おまけに次章への引きまで仕込むことができた。
えらいぞ私。よくやった私。
こうなるともう、早くリリースしたくてしょうがない。
いや、そんなことをしたら、せっかくできたストックがまたまたゼロになってしまう。
でも早く見せたい、知らせたい。私の作品を、見捨てることなく毎日読んでくれている数十人の読者さんに。
あ、そうだ。
この状況を書いてしまえばいいんだ。KACの「真夜中」のお題で。なんてナイスなアイデア。
この夜二度目のひらめきを得た私は、そうしてこれを書き上げる。
大きな満足感とともに、激しい睡魔も襲ってきた。まぁ、当然と言えば至極当然。
心配事もなくなったし、安心して寝るとしよう。
これもまた必然だが、私は当たり前に、翌朝職場に遅刻した。
真夜中はなぜか頭が冴える(こともある) 深海くじら @bathyscaphe
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