一章ノ参ノ上 善応寺

「さてと、準備はできたし下っていこうかな。」


 現代日本の制服姿に背負い籠を背負い、笠を被った姿の狛はこの時代ではかなり目立つだろう。


 扉を開けて棚田の脇に作られた粗末な道を道なりに歩いて下っていく。

 道中、田んぼで作業をする農民らしき人たちが狛をジロジロみる。やはり物珍しい格好が目立つのだ。


「すごいなぁ。」


"ほんとにタイムスリップしたのかな。みんな同じような服で作業してるや。"


"そういえば爽真は元気にしてるかな?僕がいなくなっててびっくりだろうなぁ。"


 しばらく景色を眺めながら歩いていると、徐々に斜面は緩やかになり視界も開けてきた。

 寺らしき建物を探して見渡すと小高い丘のようになったところに立派な建物が見える。おそらくあれが善応寺だろう。

 小高い丘の寺の周辺にも、立派な建物群が見え、伽藍や塔頭らしきものも数多くそびえ立っている。


 「あれかな?かなり立派なお寺だね。」


 少し距離はあるが大したことはない。


 緑いっぱいの大自然と巨大な寺院の荘厳を堪能していると、前方に黒い服の人影が見えてきた。距離にしてざっと100メートル先と言ったところだろう。


"黒い服?これまで見た人達とは違う服装だ。"


 凝視しながら歩いていると、だんだんとその様相がハッキリしてきた。

 人数はざっと10人ほどで、多くの人は陣笠、鎧を付けて槍を手に持っている。狛には気づいていないようだが、広まったところに整列している。


「すごいなぁ。結構ちゃんとしてるんだね。」


"話しかけてみようかな。どんな反応するんだろう。"


境内へ至る坂道を登りながら考えていると、集団の1人がこちらを振り返った。そして、狛を見るやいなや他の人物を叩きこちらを指さす。


「おーい!」


「あ、はい!なんでしょうか〜!」


「珍しい格好をしているなー!どっからだい?」


「えーと。佐古村からです!善応寺に降りてきました!」


「使いの者じゃないのか?」


「違います!」


「そうか!すまなかった。」


 その人物は一礼すると周囲の人となにかを話した後にはじめのように整列して固まった。


"使いの者って確か伝令のことだよね、なにかあったのかな。"


 考え事をしながら残り少しの坂道を登りきる。


 やはり河野氏由来の寺だからだろうか門には門番が2人、槍を構えていた。


「あの、すみません。」


「使いの者か?」


「いえ、違います。道に迷ってしまって、佐古村のおじいさんにとりあえず善応寺に行けばいいと教えて頂いたので。」


「うーん…。どこを出てどこへ向かうつもりなんだ?」


「松山から来たんですけど、ご存知ないですよね…。行く宛はないです。」


「聞いたこともない名前だな。間者ではなかろうな。行く宛もないとのこと、余計に怪しい。」


「いえいえ!違います!ほんとに迷っただけです!お寺の住職さんとかいらっしゃいますか?」


「すまんが俺たちじゃあ進入の許可は出せないんだ。少し待っててくれ。」


「わかりました。」


すると、門番の1人が中へ入っていく。


狛は外の景色を眺めて、門番に話しかける。


「あの、名前聞いてもいいですか?」


「名前?忠兵衛だ。」


「忠兵衛さんですね、忠兵衛さんが仕えている人って誰なんですか〜?」


「それは言えない。言えば軍規違反だ。」


「そうなんですね…。入るまでに結構時間かかります?」


「それもわからんな、そもそも入れない可能性だってあることを忘れるな。」


「わかりました。」


 体感で30分くらいだろうか、門の前の石に座って待っているとようやく中に入っていった門番の1人が返ってきた。


「進入の許可が出た。これが許可証だ。持っておけ。」


「ありがとうございます!」


 許可証を持って門をくぐる。


 佐古村から2時間ほど経っただろうか、やっと一息つけるだろう善応寺の境内に入ることができた。

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歴史オタクの僕がタイムスリップした先は戦国時代?!天才軍師として歴史を思い通りに塗り替える! 雨汝朶 @amenohanashi_927

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