第2話 フランソワ
少年の名は、フランソワ・ロベール。
フランソワの家庭は敬虔なキリスト教徒だった。
父親は評議会の役人で、厳粛な性格の男だった。
繊細なはにかみ屋のフランソワは、しばしば父を怖れ、遠ざけた。
神は越えられる試練しか与えない、そんな言葉はフランソワの心を怯えさせた。
この少年にとって、世界全体が試練だった。
父は彼を、度々男らしさに欠ける、女々しい人間だと詰った。
フランソワは確かに世間一般が要求する男らしさに欠けていた。このガラス製の心臓を持つ少年は、それを気に病み、自らを傷付ける事さえあった。
そして、フランソワが思春期に差し掛かると、この男らしさのコンプレックスは、彼に秘密の女装の趣味を与えた。
彼は、自らの男としての生きづらさから、女性に化す事を希ったのである。
彼の顔立ちは元々丸みを帯びた女顔で、女装に適していた。
彼が自ら市場で買い購めた化粧道具を顔の上に施すと、彼の顔はたちまち清廉な美少女と化すのであった。
フランソワは互いの父親を通して、シャルルと知り合った。
この二人の少年は共に内向的であったので、仲良くなるには少々の月日を必要とした。
やがて彼らは、二人がお互いにファンタジー小説を愛しているという共通点を見つけた。
彼らはその趣味を、シャルルの城の、薔薇の花々で彩られた壮麗な庭で語り合った。
「フランソワ、古代のギリシャの物語では、美しい人は死んだ後、花になるんだ。君もきっと美しい花となって庭に咲き、人々の眼を愉しませるんだろうね」
「僕、花になれるのかなあ。僕は君と違って、ありのままの自分というものに、あまり自信がないんだ」
「それは勿体ない事だね。君は自分に自信を持つにふさわしい、魅力があるんだ」
「魅力って、どんな?」
「例えば、人に愛を与えられるところかな」
そう言うと、シャルルはフランソワに接吻した。
微風が薔薇の肢体を左右にそよがせ、仄かな香りと確かな愛が、二人の少年を包んでいた。
Rose Garden ~王子たちの秘密の花園~ 薮崎葵 @mtk48
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