Rose Garden ~王子たちの秘密の花園~
薮崎葵
第1話 霧の中の城
深い霧が煙る森の中、白い壁で塗り固められた城は、その豪奢で厳粛な佇まいを緑の中に示していた。
《Château dans le brouillard》《シャトー・ダン・ル・ブルイヤール》、「霧の中の城」と呼ばれたその城は、フランスの男性貴族たちが集まる《Foyer》《ホワイエ》として、人々の間で秘めやかに知られていた。
この城には、シャルル・ド・シュヴァリエという名の少年が住んでいた。
シャルルは多くの詩を読み、多くの物語を読んだ。
彼はギリシャ神話を愛好し、そこに登場する美青年・美少年たちが繰り広げるロマンスや睦み合いに憧憬を抱いていた。
願わくば、自らも彼らのようなロマンスを体験してみたい・・・。
この夢見る王子は美しかった。
少年の美貌は、匂い立つ薔薇の香りのように、フランスの王侯貴族たちに知れ渡っていった。
多くの貴族の娘たちが、彼の美貌と繊細な感性に恋慕の情を示したが、この美しきヒアキントスが娘たちのアプローチに応える事はなかった。
少年が夢見るのはアポロンであり、ヘラクレスであり、アキレウスであった。
美的な感性に優れたこの少年は、月に一度、股から血を流す女という種族を恐れた。
その流れ出る血を、彼女たちはどこから取り入れているのだろう、と少年は疑問に思った。
それはきっと、戦場で弾に撃たれ、刀に斬られ、崩折れる兵士たちの血だ、と思った。
女は戦地で血を流す事がない代わりに、家庭という戦場の中で、血を流すのだ。
男の血は栄誉だが、女の血は生臭い鉄の体液でしかなかった。
流れる血液は、詩のようでなければならない。
つまり、雄大で抒情的で、ドラマチックでなければならない。
ロマン派の詩人たちは、いつも彼の慰めだった。
人生という深淵な劇場を深く味わい、詩という傷を世に刻み付けた詩人たちを尊崇した。
『詩だ!愛とは詩だ!人生とは詩だ!』
少年は独りごちた。
そんなシャルル少年と親しく文を交わす一人の少年がいた。
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